投資家見習いのブログ

世界の地政学的リスクと経済指標を独自の数値で可視化し、マーケットを語ります。

【7/11-7/15週の世界のリスクと経済指標】〜G20会議で支持されないG7の主張〜

先週の評点:

 

リスク   -9点(24点):大幅悪化 (基準点33点) 

経済指標  -10点(70点):大幅悪化 (基準点80点)

 

 

【リスク】

 先週のリスクはマイナス9ポイントの大幅悪化となりました。

前週の英ジョンソン首相の辞任発表に続き、イタリアのドラギ首相も主要与党である「五つ星運動」からの不信任を受け辞任を表明しました。マッタレッラ大統領は辞任を拒否し、議会で解決することとなりましたが、欧州各国の政権地盤が緩み始めており、西側諸国の結束に影響が出ることが心配されます。

またインドネシアG20財務相会合が行われましたが、ロシアへの対応を巡って意見が対立し、4月に続いて共同声明を出せない異例の状態となりました。西側諸国はロシアを批判しながら陣容拡大を強めましたが、新興国は資源や食料の高騰を強めることになる制裁に慎重となり、協調が進みませんでした。

 

またこれに先立ち、インフレからの政情不安に揺れるスリランカでは、ラジャパクサ大統領が国内逃亡し、政権が倒れる非常事態となりました。

 

【経済指標】

 先週の経済指標はマイナス13ポイントの大幅悪化となりました。

注目の米6月CPIは予想8.8%(前月8.6%)に対して9.1%と加速を示しました。またPPIも同様に予想10.7%に対して11.3%と加速を示し、根強いインフレが示されました。

6月小売売上高は1.0%の増加となりましたが、CPIが前月比で1.3%の増加を示していることから、実質的には低下しているとも捉えられます。

またミシガン大学消費者信頼感指数は過去最低だった前月からは回復しましたが、5-10年先の期待インフレが前月3.1%から2.8%へと低下を示しました。

 

また中国の4-6月期GDPは、強いロックダウンの影響で0.4%と急減速が示されました。中国は22年通年の目標として5.5%成長を掲げていますが、達成が遠のいており、財政政策拡張の動きも浮上しています。

このタイミングでの中国の財政政策強化は中国の需要増を招き、さらに資源や食料の高騰を招きかねないため注意が必要です。

 

 

【先週のマーケットの振り返りと考察】

 先週の主要株価指数は概ね軟調となりました。

米国の6月CPIが9.1%となったことを受けて、7月FOMCでの利上げ幅が100bpsとなる観測が強まりましたが、FRB高官が矢継ぎ早に75bps利上げを支持するを発言したため、株価は下げ幅を縮めました。

先週の株式の動きは7月FOMCの利上げ幅が75bpsは織り込み済みのため買い、100bpsは織り込んでいいないため売り、という図式で動いているような印象でした。

 

また先週はCPI発表を受けて10年債利回り低下、2年債利回り上昇となり逆イールドが加速しました。

逆イールド=景気後退とは限りませんが、限りなく近づいてきているような気がします。

 

 

G20会議で支持されないG7の主張〜

 さて、先週はG20財務相中央銀行総裁会議が開催されました。

対中露で新興国の取り込みを図る西側諸国に対して新興国が慎重になり足並みが揃わないという事態となりました。

そこには大義を振り翳しながらも、自国により苦痛を強いる様な、どこか傲慢さを感じさせる西側諸国のロジックに新興国が追従しきれない思いが表れている気がします。

 

今回のG20ではインフレや食料危機など、世界経済が直面する課題について話し合われました。日米欧のG7はロシアへの批判を強め、参加する新興国に対して制裁に参加するよう訴えましたが、更なるインフレや食糧危機を煽ることから、支持は得られませんでした。

 

現在の世界的なインフレの直接的な原因となったのはコロナ禍からの混乱とロシアのウクライナ侵攻による資源、食料高騰です。

しかし、インフレを招いたのは米国を始めとした西側諸国がコロナ禍で行った低金利政策と莫大な財政政策の結果であり、またウクライナ侵攻でのロシアに対する経済制裁の結果です。

 

もちろんロシアに対する経済制裁には侵略を防ぐという大義があります。しかし、体力のある先進国と違い新興国には余裕がありません。ロシアに対する経済制裁でインフレが加速すれば、それ自体で国民生活は枯渇し、さらには米国が行う利上げによる資金流出で通過安や債務増加を引き起こします。またインフレや流出防衛目的の利上げにより景気は後退し、いち早くスタグフレーションとなります。

先進国は苦しいならがもお金を払えば食料でもエネルギーでも買えますが、新興国はそもそもお金がないので買えません。

つまりはこれ以上インフレが進めば先進国と新興国の格差がより拡大することになります。

 

従って新興国が先進国に追従しないのは当然だと思います。追従したとしても利を得るのは先進国で、自国が受けるダメージの方が大きいからです。

しかも今回の会合前に従来からの弱い経済にインフレが重なったことにより、スリランカが政情不安となり、ラジャパクサ大統領が国外逃亡し政権が倒れるという事件が起こりました。

次は我が身だと身構えたことだと思います。

 

そいう言った意味では、金融、財政を司る会議として考えれば新興国の対応は妥当であったと思います。一方で先進国が「世界経済の運営を先進国、新興国で協力して考える」というG20財務相中央銀行総裁会議の趣旨から外れ、盲目的にロシア批判を繰り広げたことに違和感を感じました。

先進国としては、趣旨に立ち返り脆弱な新興国経済をどのように救済していくのか、金融・財政面から真剣に議論していた方が、対中露戦略上の陣容拡大には効果があったのではないかと考えます。

 

以上

【6/27-7/1週の世界のリスクと経済指標】〜進む分断と高インフレの継続〜

先週の評点:

 

リスク   36点(33点):良化 (基準点33点) 

経済指標  -10点(68点):大幅悪化 (基準点78点)

 

 

【リスク】

 先週のリスクはプラス3ポイントの良化としました。

先週はG7サミットに続きNATO首脳会議が行われ、欧州を中心に西側諸国の結束を強める動きとなりました。

NATO首脳会議では、これまでフィンランドスウェーデンNATO加盟を拒否していたトルコがテロ容疑者を引き渡す法的な枠組みを確立するなどの合意が成立したことで、一転容認しました。これにより北欧地域へのNATOの拡大が前進しました。

また、採択された「戦略概念」では、過去には「戦略的パートナーシップ」と称していたロシアを「最も重要で直接的な脅威」とし、中国に関しても「体制上の挑戦を突きつけている」として初めて明記し、中露との対抗姿勢を明確にしました。

加えて今回のNATO首脳会議には日本、韓国、豪州、NZのインド太平洋地域の主要国も招かれ、同地域の民主主義国との連携強化の姿勢も明確にしました。

 

 

【経済指標】

 先週の経済指標はマイナス10ポイントの大幅悪化としました。

米国の消費者信頼感指数や個人消費支出などの消費系指数は軒並み悪化、ISM製造業景況指数も悪化と景気悪化が徐々に織り込まれてきました。

ドイツでは失業率も上昇を示し始めました。

ドイツCPIは政府の一時的な支援策によって低下を見せましたが、ユーロ圏、仏、スペインなどの他の国では軒並み上昇を示し、欧州でのインフレ加速が示されました。

 

次週はISM非製造業景況指数、6月FOMC議事要旨、雇用統計です。特に平均時給や失業率が利上げや景気後退を織り込んで変化するのか注目したいと思います。

 

 

【先週のマーケットの振り返りと考察】

 先週の株価指数は、米国を中心に景気を示す経済指標が軒並み低下を示したため、景気後退が意識されて再び大幅反落となりました。

特に先週はマイクロンテクノロジーが6-8月期の見通しが市場予想を下回ったことや、NVDAのグラフィックカードの需要減が伝えられたことで半導体関連株が大きく反落しました。これまで供給不足が伝えられた業界での減速が見えてきたことにより、景気後退の兆しが見えてきました。

債券利回りも景気後退を織り込んで前週からさらに大幅に低下し、10年債利回りも3%を割り込みました。

 

〜進む分断と高インフレの継続〜

さて、先週は先進7カ国によるG7サミットやNATO首脳会議がドイツで行われました。

G7にはインド、セネガルインドネシア南アフリカ、アルゼンチン、NATO首脳会議には日本、韓国、豪州、NZが招待され、西側諸国の結束と共に主要新興国を巻き込んだ中露への対決姿勢を明確にしました。

西側諸国としてはここで民主主義陣営としての結束を示し、中立の立場を示す国々に対してアピールすることでロシアへの経済制裁の効果を強める狙いがあったと思われます。

 

一方でこのG7サミット、NATO首脳会議前には中国が主宰するBRICSの首脳協議が行われ、また期間中にはロシアのプーチン大統領中央アジアの親ロシア国を歴訪し、カスピ海沿岸5カ国((露、カザフ、トルク、タジキ、イラン)の首脳会議に参加しています。

BRICS首脳会議では拡大会合も行われ、イラン、カンボジアインドネシア、マレーシアなども参加し、イランとアルゼンチンがBRICS加盟申請をしたと明らかになっています。

西側の民主主義国が結束を強める一方で、同様に中露を中心とした専制主義国も結束を強め、また仲間を増やすことで西側諸国の狙った効果を打ち消しています。

 ロシアのウクライナ侵攻に対して、世界が一丸となってロシアを非難し、制裁によって侵攻を早期終結させるかと思いましたが、中国がロシアに寄り添ったことによってそれは叶いませんでした。むしろその行為に対抗し経済制裁を強めたのは西側諸国だけで、以前から浮かび上がっていた西側諸国と専制主義国の分断が進んだだけでした。

 

グローバリズムの下、これまで西側諸国はロシアの安いエネルギーと中国の安い労働力に頼って低インフレの時代を過ごしてきました。しかし、ここまで対決姿勢を明確にした分断は、西側諸国が最早それらを当てにすることができないということを示しています。

 

 中露との協力関係を保つ国、または中立姿勢を貫く国は、今後もロシアの安いエネルギーと中国の安い労働力に頼り、高い経済成長を享受することができるかも知れません。しかし、少なくとも西側諸国がそれを享受できる時代は終わった可能性があります。そうなると西側諸国は自らと、一部の中立国の中で需要を満たしていかなければならず、高インフレと低成長が恒常化する可能性があります。

 

我が国日本でもプーチン大統領がサハリン2の権益を新事業体に移す大統領令に署名したため、ロシア側の出方次第ではLNGの10%の供給を失い、さらにインフレが進む可能性が出てきました。

また今後台湾を巡って中国との関係が悪化すれば、中国で製造した安い製品の供給にも影響が出てくることが考えられ、モノが安い時代は終わった可能性があります。

 

時代が大きく変わったかも知れないことをしっかりと認識し、それに耐えるような投資戦略を考え、それと共に自らの生活を守るために給与所得の向上を求めていきたいと思います。

 

以上

【6/20-6/24週の世界のリスクと経済指標】〜反発で織り込まれた景気後退〜

先週の評点:

 

リスク   33点(33点):良化 (基準点33点) 

経済指標  -15点(42点):大幅悪化 (基準点57点)

 

 

【リスク】

 先週のリスクはプラスマイナスゼロの中立としました。

フランスでは議会下院選の決選投票の開票が行われ、マクロン大統領率いる与党連合が議席を減らし過半数割れしました。物価高に対する有権者の不満が逆風となり、大衆迎合色の強い政策を掲げる左派連合が躍進する結果となりました。

物価の上昇と共に米バイデン政権も足元では40%を割る水準まで支持率を減らしており、11月の中間選挙での苦戦が予想されます。中露への対抗で結束を固める先進国ですが、物価高により自国民からの信任を失い、政権運営地盤が不安定になることが心配されます。

 

 

【経済指標】

 先週の経済指標はマイナス15ポイントの大幅悪化となりました。

先週は欧米のPMIの発表がありましたが、軒並み悪化となり好不況の境目となる50に接近してきました。

インフレの高進により家計が財布の紐を締め始めたことが伺え、景気減速が鮮明になってきました。

 

次週はPCEデフレーター、ISM製造業景況指数に注目したいと思います。

 

 

【先週のマーケットの振り返りと考察】

 先週の株価指数は概ね大幅上昇となりました。特に米国株はナスダックが7.49%高、S&P500が6.45%高と4週振りに大幅反発となりました。

 

 

〜反発で織り込まれた景気後退〜

 さて、先週は6/22の議会公聴会でパウエル議長が米経済がリセッションに陥るリスクがあることを認め、これまでの「ソフトランディングできる」というスタンスを覆しました。

またPMIも製造業が予想56(前月57)に対して52.4、サービス業が予想52.8(前月53.6)に対して51.6と予想外の低下を示したため、景気後退に現実味が増してきました。

 

 そしてその景気後退懸念により債券利回りが全体的に低下し、10年債利回りは一時3%割れ寸前の水準まで低下する場面もありました。

下記は米国債イールドカーブの前週との比較です。

また、FedWatchによる金利先物も、全体的に低下しながら1年後の23年の6FOMCでは早くも利下げすることを織り込んでいます。(下記は6/25時点の金利予測)

 前週のFOMC前までは高インフレ下での急速な引き締めを織り込み、長期金利が上昇していました。しかし、FOMC後のマーケットはその先の景気後退や利下げへの転換を意識し始めていると言えます。

その利下げへの転換を織り込んで先週株価は大幅反発したと考えられます。

 

しかし、私はまだまだ株価の底打ちには時期尚早だと考えます。

景気後退するからと言って即利下げに繋がるとは限りません。

パウエル議長が公聴会で「我々がインフレと戦う姿勢は無条件」と述べた様に、景気後退したとしてもインフレが止まらなければ引き締めへの加速は止まりませんし、即利下げとはならないと思います。

まずはインフレの鈍化を確認することが何よりも重要だと思います。

 

前週に論じたように、今回のインフレは敵対国であるロシア、中国などの地政学的な外的要因に左右されているため、簡単には落ち着くとは思えません。おそらく上下動を繰り返しながら、明確にはわかりずらくゆっくりと下がっていくのではないかと推測します。

そうなるとやはりインフレ苦が残りながら景気後退するスタグフレーションが強く意識されます。

 

長期投資は「悲観で買い、楽観で売る」が基本ですが、まだ悲観は終わっていないと思います。

一方で「悲観の中にある買い場」を探すことを常に念頭におきながら、相場の変化を確認していきたいと思います。

 

以上

【6/13-6/17週の世界のリスクと経済指標】〜FRBが認めた外的要因の重要性〜

先週の評点:

 

リスク   33点(36点):良化 (基準点33点) 

経済指標  -12点(77点):大幅悪化 (基準点89点)

 

 

【リスク】

 先週のリスクはプラス3ポイントの良化でした。

世界的なインフレが続いていますが、政治面でもインフレ抑制のために動きが活発化しています。

バイデン大統領は原油増産を促すために7月にもサウジアラビアを訪問するとされ、またエクソンシェブロンなどの石油会社7社に対して書簡を送って高収益を批判し、原油増産への圧力をかけています。

またバイデン大統領と議会民主党は物価抑制のための新経済対策を協議していると伝えられました。

外国航路の海運運賃を引き下げる新法案にも署名し、下がり続ける支持率を引き上げるためなり振り構わずインフレ抑制に動いている印象です。

 

 

【経済指標】

 先週の経済指標はマイナス12ポイントの大幅悪化でした。

先週は各国中銀の政策金利発表がありました。

 まず米FOMCですが、事前の予想では50bpsと考えられていましたが、直前にWSJにてリークされた通り75bpsの利上げを行い、FRBの強いタカ派姿勢が示されました。また、今後の金融政策の方向性を示すドットチャートでは22年内に3.375%(前回1.875%)までの利上げが示されました。

 

また日本同様マイナス金利で緩和政策をとり続けてきたスイス銀行が予想外に50bps利上げに踏み切り、BOEも予想通り25bpsの利上げしたため、世界的な引き締め強化が示されました。

 

一方で日銀は、考慮すべきは回復途上にある日本経済であり、下押し圧力となるような引き締め政策を行う時期ではないとして緩和政策の維持を示しました。世界的な金融引き締めで円安が進んでいますが、「為替相場をターゲットとして金融政策運営はしない」としYCCも変更なく進めていくことを示しました。

 

 

【先週のマーケットの振り返りと考察】

 先週の株価指数は米国をはじめとしてスイス、英国などで予想外の金融引き締めが進んだことで、主要先進国株式は大幅反落となりました。

S&P500は高値から20%以上下落し、弱気相場入りしました。

また、米国債利回りはFOMC前に10年債が3.49%、2年債が3.45%まで上昇しながらフラット化が進み、一時逆イールドが発生しました。しかしFOMCで予想外の利上げが発表されたことにより景気後退が意識され、10年債利回りは3.25%まで低下し週を終えました。

 

 

FRBが認めた外的要因の重要性〜

さて、先週は注目の6月FOMCがありました。

事前の予想では5月に続き50bpsの利上げが予想されていましたが、前週のCPIの予想外の加速によりインフレ警戒を強めたFRBは一気に75bpsの利上げに踏み切りました。

また同時に発表されたFRBメンバーによるFF金利予測では3月には1.9%だった22年のFF金利3.4%と示されました。

この数値はFRBが景気を過熱も冷やしもしないと考える中立金利2.5%程度を大幅に上回る水準であり、明確に景気を冷やしにいくというメッセージであると受け止められます。

 

同時発表されたGDP成長率予測でも22年は4.0%→2.8%→1.7%と回を追うごとに大幅に切り下げられています。

この1.7%という数値は2000年からのGDP成長率の平均値である2%を大きく下回っており、FRBメンバーとしても急速な利上げによる緩やかな景気後退を見込んでいると言えます。

 

また、失業率予測でも過去2回の予測では22年は3.5%と過去最低レベルで推移するものと見られていましたが、今回の予測では3.7%と増加し、23年、24年でも右肩上がりに大幅に増加しています。

こちらも利上げによる労働市場の過熱抑制から失業率の押し上げを見込み始めています。インフレを抑えるためには逼迫する雇用を緩和する必要がありますが、個人的にはこの程度の悪化で済むのか懐疑的に捉えています。

 

 今回のFOMC後の会見で、パウエル議長は「一層明確になってきたのは、われわれにはコントロールできない多くの要因が、その成否を決める上で極めて大きな役割を果たすだろうということだ」と発言しています。ロシアのウクライナ侵攻に絡むエネルギーや穀物価格高騰や中国のロックダウンによる供給網の混乱などの外的要因が大きく、もはやFRBの金融政策では制御しきれないと認めています。

 

 つまりは利上げにより需要サイドを冷やしても効果は限定的かもしれず、地政学的な問題が解決しない限りは期待通りにインフレ抑制できないかもしれないということだと理解します。

 

地政学的な要因を解決するには政治が重要ですが、現在の要因となっているのはエネルギーを握るロシア、サプライチェーンを握る中国であり、それぞれ米国に敵対する国々です。そうである以上は外交で何とかなる話ではなく短期的な改善は見込めません。

外的要因が解決しないままでの急速な引き締めは、インフレが改善されないまま需要サイドを冷やし過ぎる可能性が高く、スタグフレーションに向かっていく可能性が極めて高いと感じます。

 

今回のFOMCでの内容と、S&P500が高値から20%下落して弱気相場入りしたことを受け、当面株式が上昇する局面は来ないと考え、長期投資資産の株式ポートフォリオをさらに減らしました。MSCIコクサイ20%、債券25%、現金55%とします。

 

以上



 

【6/6-6/10週の世界のリスクと経済指標】〜ECBの舵取りの難しさ〜

先週の評点:

 

リスク   3点(33点):良化 (基準点30点) 

経済指標  -5点(46点):悪化 (基準点51点)

 

 

【リスク】

 先週のリスクはプラス3ポイントの良化でした。

新型コロナは弱毒化により各国で緩和が進み、日本は外国人観光客の受け入れ開始、米国は外国からの入国者への陰性証明の提出義務を撤廃しました。また中国でも主要都市のロックダウンが緩和となり、新型コロナからの脱却が鮮明となってきました。

 

一方で民主主義国と専制主義国の対立軸の中心は、インド太平洋地域へと戻ってきました。

先週シンガポールで行われたシャングリラ会合では台湾を巡り米中国防相が非難の欧州となりました。

また米国防長官は台湾有事に備えて米軍の能力拡大を表明しました。日米首脳会談でのバイデン大統領の台湾防衛への関与明言に続き、米国の台湾への積極姿勢がより明確になりました。

これに対して中国は太平洋諸国への関与を強めており、日本から豪州へ連なる防衛線の分断を図っています。すぐに衝突につながるとは考えられませんが、出方を見ながら、少しずつ互いの領域に足を踏み入れている印象です。

 

 

【経済指標】

 先週の経済指標はマイナス5ポイントの悪化となりました。

注目の米国の5月CPIは前月、予想共に8.3%に対して8.6%とインフレの加速を示しました。FRBは3月から利上げを行っていますが、未だインフレ抑制の効果が見えてきません。

また、ミシガン大学消費者態度指数は予想58に対して50.2と統計開始以来で最低の数値となり、インフレ懸念で消費者の景況感が急速に悪化していることが示されました。

 

また先週は豪準備銀行とECBの政策金利発表がありました。

豪準備銀行は25bpsの利上げ予想に対して50bpsとタカ派な方針を示し、インフレに対して適切な措置をとると表明しました。

ECBも政策金利はゼロ金利を据え置きとしましたが、7月には25bpsの利上げを実施すると表明し、9月には50bpsの利上げも有り得ると示唆しました。

これで日本以外の主要国中銀が利上げを行う方針となりました。

 

次週は6/15に6月FOMC、6/16にBOE政策金利発表、6/17に日銀金融政策決定会合があります。

FOMCBOEは今後の金融政策見通しが注目されます。日銀も他国が引き締め傾向を強め、円安も急進する中、従来の姿勢を崩すことになるのかどうか注目します。

 

 

【先週のマーケットの振り返りと考察】

 先週の株価はアジア株は先週に続き堅調ながら、米国株式は国債利回りの上昇に振られて大幅反落となりました。

6/9にECBが7月、9月での利上げを示したために世界的な引き締めが意識され、米国債利回りも連動して上昇しました。加えて6/10の5月CPIが8.6%とインフレの加速を示したため、FRBが金融引き締めを強めるとの観測で短期国債利回りを中心に大きく上昇しました。

足元のFedWatchの金利予測でも9月FOMCでの75bpsの利上げ、年内金利3.00%が予想されるなど、利上げ加速観測の高まりと共に株価は大きく調整しました。

S&P500は3900.86となり5月19日の終値ベースでの年初来安値3900.79にあとわずかとなりました。

 

一方で中国株式は、主要都市でのロックダウンの緩和に加えて中国当局のハイテク企業への統制が緩和されるとの動きから2週連続で反発しました。

日経も主要国で唯一緩和を継続していることに加え、円安により割安度が増しているため欧米株式に比べて堅調に推移しました。

 

次週はFOMCを迎え、ドットチャートを含めた今後の金融政策の見通しに注目が集まります。

 

 

〜ECBの舵取りの難しさ〜

さて、先週は2016年3月からゼロ金利政策を継続してきたECBが、7月に25bpsの利上げを実施すると表明し、11年ぶりに利上げに踏み切る姿勢を示しました。また、9月には50bpsの利上げも有り得ると示唆しました。

背景には2021年5月に2%に達したHICPが足元で8.1%までオーバーシュートしていることがあります。

 

ECBは、加盟国である19カ国を包括した中央銀行として政策金利の決定やAPPやPEPPなどの債券購入プログラムなどの金融政策を駆使し、ユーロ圏における物価の安定と雇用の創出を図ってきました。

 一方で、それぞれの加盟国の財政政策は各国政府に任されており、またそれぞれの経済力はまちまちで格差を内包しているため、適切な金融政策を打ちづらいとされています。

 

一般的にはドイツ、オランダなどの中欧諸国は経済力が強く、イタリア、スペイン、ギリシャなどの南欧諸国は経済力が弱いとされています。

下記は6/11時点のユーロ圏各国の10年債利回りを低い順から並べたものです。(インターネットで情報入手できたのは19カ国中14カ国)

ECBの7月利上げ表明により各国の10年債利回りは上昇しましたが、経済力=信用力の低い国の債券は売られやすいため、中欧、北欧諸国の利回りに比べて南欧諸国の利回りは高くなっています。

現時点ではまだECBの政策金利はどの国も同様に-0.5%のマイナス金利となっているにも関わらず、これだけの差がついています。

 

 そして今後インフレ対策としてECBが利上げを急ぐと、より南欧諸国の利回り上昇を招き、元々経済力の弱いこれらの国々は資金繰りが悪くなり経済がますます弱っていきます。

一方で比較的経済の安定しているドイツ、オランダは直近CPIが7.8%、8.9%と高水準となっていながら、イタリアは6.9%とHICPより低水準となっています。(ギリシャは、経済が弱すぎるのでCPIも高く11.3%)

インフレ高進で利上げを急ぎたいドイツ、オランダに対して、インフレはまだ耐えれて利上げが困るイタリアの構図が考えられ、ECBは両方に配慮をしなければならなくなります。

つまりはインフレ抑制のために利上げを急いで南欧経済が破綻するか、南欧経済を守るために利上げを弱めインフレ加速を招くか、ECBは今後難しい選択を迫られることになります。

 

個人的にはECBの使命である「ユーロ圏の物価の安定」という原点に立ち返り、まずはインフレ抑制を強めると考えます。そうなると南欧諸国の経済が弱まることとなるため、そこをきっかけに欧州経済が綻び、景気後退する可能性が高いと思います。

今後は欧州経済の動向にもより注意を払う必要があります。

 

以上

【5/30-6/3週の世界のリスクと経済指標】〜破綻しているドットチャートの意味〜

先週の評点:

 

リスク   2点(32点):良化 (基準点30点) 

経済指標  -7点(101点):悪化 (基準点108点)

 

 

【リスク】

 先週のリスクはプラス2ポイントの良化となりました。

中国がゼロコロナ政策で続けていた上海市でのロックダウンが6/1で解除されました。この2ヶ月間企業活動も含めて停止し、製造業のサプライチェーンへも影響していましたが、ようやく再開となりました。しかし、止まっていたものが急に動き出すことは難しく、ロックダウンの影響は当分残ることと思われます。

 

また、先週は中国の王毅首相が太平洋諸国8カ国を歴訪し、訪問先のフィジーで「中国・太平洋島国外相会合」を開催しました。経済振興などに向けた連携強化で一致しましたが、中国が提案していた安全保障分野の協力は参加国のうち1カ国が反対したため、合意内容に含まれませんでした。

最悪のケースは免れましたが、豪州のお膝元での中国の勢力拡大の野心と、意外にもそれを受け入れる太平洋諸国に驚きを隠せません。

中国は今後二国間での太平洋諸国との安保協定の合意を目指すと思われ、太平洋諸国を巡って豪州との対立が進む可能性が高いです。

 

 

【経済指標】

 先週の経済指標はマイナス7ポイントの悪化となりました。

ドイツ、ユーロのCPIが共に予想を大きく上回る結果となり、欧州地域でも強いインフレが続いていることが示されました。

次週はECB政策金利の発表がありますが、既にラガルド総裁は7月に利上げの可能性を示唆しており、会見でのコメントに注目します。

 

また、米国ISM景況指数は、製造業は前月55.4から予想外に上昇し56.1となりました。新規受注が3ヶ月ぶりの高い伸びとなり、米国の需要が引き続き高い水準を保っていることが示されました。

一方で非製造業は前月57.1から55.9に低下しました。製造業での生産に相当する業況指数は2年振りの低水準に沈むものの、新規受注は上昇し、こちらも需要が保たれていることを示しました。

 

5月雇用統計はNFPは予想を上回り、平均時給と失業率はほぼ予想通りと、雇用の堅調さを示しました。

 

 

【先週のマーケットの振り返りと考察】

 先週の株価は、アジア株が堅調に推移する中、米株指数は反落しました。

前週に6%超の強い反発を見せ、一旦は底打ちしたかのように見えた米株指数でしたが、QTが開始され資金が収縮していることや、堅調な指標による利上げへの警戒感から、2週連続の反発とはなりませんでした。

一方で日経はQTの影響で米金利が急上昇し再び急激な円安が進んだことや、上海市のロックダウン解除に伴う中国株の上昇が好感されて大幅反発となりました。また欧州でも利上げ観測が高まる中、先進国で唯一緩和を継続していることも後押しました。

 

〜破綻しているドットチャートの意味〜

 注目の米雇用統計はADP雇用統計が下振れしたため低下を見せるかと思いましたが、予想外の堅調さを見せました。

またISM景況指数でも製造業は予想外の上振れ、また非製造業でも全体指数では低下しましたが、新規受注は上昇しており、米国の経済は堅調で需要自体はまだ落ちていないことが示されました。

そのため、6月FOMCではFRBは躊躇なく50bps利上げし、7月FOMCでの50bps利上げ、また9月FOMCでの利上げに関しても何らかの方針を示すことが予想されます。

 

また6月FOMCでは四半期ごとのドットチャートも示されるため、FRBが年内の金利水準をどのように考えているかが見えてきます。3月FOMCでは2022年は中間値として1.875%が示されていましたが、今回は中立金利として考えられる2.5%前後を超えてくるかどうかがポイントになるかと思います。

 

しかし、一方で7月にFF金利が1.75%に達しようとする中、たった3ヶ月前に示されたドットチャートは既に大きく破綻しています。FRBがインフレ率を制御できていない中では、それと同じ様に6月FOMCで示される予想が、今後の金融政策に対してどこまで信頼性があるのかわかりません。

現在市場の焦点となっているのは9月FOMCでの利上げ幅ですが、9月FOMC時点は3月から開始された利上げの効果を確認できる頃です。9月上旬に発表される8月のISM景況指数や雇用統計、CPIを確認できるタイミングであるため、何よりもそれらの指標が重要であり現時点での予想は余り意味をなさないと思います。

現時点でFRBタカ派なのかハト派なのかは関係なく、とにかく将来のインフレ率を下げなければならない状況だと思います。

従って6月FOMCでのドットチャートの重要性は従来よりも低いものだと思います。

 

QTも利上げも始まったばかりで、インフレ率も高止まりしている中ではまだまだ株式の調整は続くと考えます。何よりもインフレ指標が明確に改善し、FRBの制御下に戻ってくるまで強気にはなれません。

次週は米国の5月のCPIの発表があります。予想は前月に一致の8.3%となっていますが、徐々に利上げの効果を示されるのか注目します。

 

以上

【5/23-5/27週の世界のリスクと経済指標】〜強い富裕層と弱い低所得者層〜

先週の評点:

 

リスク   0点(30点):中立 (基準点30点) 

経済指標  -15点(66点):大幅悪化 (基準点81点)

 

 

【リスク】

 先週のリスクはゼロポイントの中立となりました。

先週はインド太平洋地域での動きが中心となりました。

東京での日米首脳会談に続き、米国が主導するIPEF(インド太平洋経済枠組み)が発足しました。IPEFはTPPより多い13カ国により始動しましたが、注目の台湾は含まれませんでした。一方で日米首脳会談の場でバイデン大統領は台湾有事への軍事関与を明言し、ちぐはぐな印象も見せました。

 

その後日米豪印首脳によるクアッド会議が行われ、中国を念頭にした「現状変更への反対」や「海洋監視での協力」を行う共同声明を発表するも、中立外交を謳うインドに配慮し中露への名指しを避けた内容となりました。一方で中露は日本海東シナ海での爆撃機の共同飛行で応じ、北朝鮮ICBMを含む三発のミサイル発射し、専制主義陣営は軍事的な手段で反発をアピールしました。

 

また、中国の王毅外相は、安保協定を結んだソロモン諸島に続いて南太平洋地域での影響力を強めるために同地域の8カ国を外遊しています。西側諸国に歩調を合わせる形で専制主義陣営でもインド太平洋地域での動きが活発化しており、舞台を欧州から同地域に移して分断が進んでいる印象です。

 

 

【経済指標】

 先週の経済指標はマイナス15ポイントの大幅悪化となりました。

欧米のPMIは押し並べて低下し、高インフレによる景気悪化を示しました。基準となる50は下回っていませんが、英国サービス業など、50まであとわずかな指標も散見されるようになりました。

 

米国のPCEデフレーターは前回6.6%、予想6.2%に対して6.3%と予想を上回るも前月からは低下となりCPI同様低下を示しました。

また住宅着工件数も前月比16.6%減と大幅に減少し、利上げの効果が出始めていることが示されました。

 

5月FOMC議事要旨では既にコンセンサスとなっている6月、7月FOMCでの0.5ポイントの利上げで大部分の当局者が一致していたことが示されサプライズはありませんでした。

またECBのラガルド総裁は自身のブログで7月、9月の会合で0.25ポイントずつ利上げし9月にはマイナス金利が終了することを示唆しました。

 

 

【先週のマーケットの振り返りと考察】

 先週の株式指数は米国株式が久しぶりに反発しました。

先週まで大幅な下げ相場が続いた中で一旦の反発を見せた形となりました。スナップの低調な決算で一時はハイテク株を中心に下げが拡大しましたが、百貨店メイシーズの好決算が前週のWMT、TGT決算からの景気後退懸念を打ち消し、相場を楽観させました。5月FOMC議事要旨も予想通りの内容となり、タカ派サプライズがなかったことも後押ししました。

 

 

〜強い富裕層と弱い低所得者層〜

さて、先週は百貨店ノードルストローム<JWM>とメイシーズ<M>の決算が発表され、前週のWMT、TGTの通期見通しの下方修正から一転して上方修正見通しを発表しました。

これにより、マーケットも小売全体の不調から米経済の予想以上の減速を懸念して悲観された前週から、やや楽観へと押し戻されたように感じます。

しかし、これらの決算から見えてくるのは余裕のある富裕層とインフレに苦しむ低所得者層の姿です。

JWM、Mなど百貨店の顧客は主に中流層以上であり、十分な収入を得ているため耐インフレ性が強く、強い購買意欲を維持しています。

 一方でWMT、TGTの顧客は単純労働を主とした低所得者層であり、生活必需品のインフレが生活苦へ直結する人々です。コロナ禍での失職状態から漸く仕事に復帰できたところで激しいインフレに直面しており、違った形で苦しさが継続して購買意欲が急速に削がれていると思われます。

 

今後の景気維持には、中流以上の富裕層がどこまで消費するかにかかってくると思います。

しかし、先週発表された貯蓄率は4.4%まで低下し、2008年ぶりの数値となっています。

これまでは高インフレ下でも豊富な貯蓄で消費をしていましたが、月を追うごとに貯蓄をすり減らしており、それも残りわずかとなっています。

いくら富裕層であっても無尽蔵に資金があるわけではなく、かつ自動車を毎月購入するわけでもなく限度があります。

既に低所得者層の購買意欲がインフレにより減退していると考えると、いずれ富裕層の消費も減退していくと考えられます。

 

ついては先週のJWM、Mの上昇修正見通しにはやや懐疑的であり、ファンダメンタルズに大きな変化のない現状では反発は一時的なものであり、底打ちしていないと考えます。

引き続き弱気のポートフォリオを継続します。

 

以上