投資家見習いのブログ

世界の地政学的リスクと経済指標を独自の数値で可視化し、マーケットを語ります。

【10/3-10/7週の世界のリスクと経済指標】〜まだ早かったタカ派スタンスの反転期待〜

先週の評点:

 

リスク   -8点(22点):大幅悪化 (基準点30点) 

経済指標  -10点(74点):大幅悪化 (基準点84点)

 

 

【リスク】

 先週のリスクはマイナス8ポイントの大幅悪化となりました。

ロシアがウクライナ4州の併合に関して議会での採択とプーチン大統領の署名を完了しました。一方でウクライナ軍はロシア占領地域での攻勢を強め、陣地奪回を進めています。

強まる劣勢により9/21のプーチン大統領の「核兵器使用の用意」発言に対して核兵器使用の警戒が高まっており、バイデン大統領も「人類滅亡する危険性がキューバ危機以来の最高水準」と発言しています。

 

一方でOPECプラスが11月以降の原油生産量を200万バレル減産することを合意したことで、再び原油価格が90ドルを超えてきました。再び原油価格が高止まりすることに加え、バイデン大統領がサウジを訪問して増産の申し入れをしたにも関わらず大幅増産に踏み切ったことで、サウジと米国の関係も悪化する可能性が高まってきました。

 

 

【経済指標】

 先週の経済指標はマイナス10ポイントの大幅悪化となりました。

ISM製造業景況指数は予想52.2に対して50.9と悪化、一方でISM非製造業景況指数は予想56.0に対して56.7と上振れし堅調さを見せました。

 

雇用統計はNFPが予想25万人に対して26.3万人とやや上振れ、失業率も予想3.7%に対して3.5%と改善を見せました。

8月米求人件数は前月から110万人の大幅減となっており、雇用の鈍化が予想されていましたが根強い雇用の強さが示されました。

 

次週は米9月CPIの発表があります。雇用統計ではインフレ圧力が示されましたが、その流れがCPIにもつながるか注目します。

 

 

【先週のマーケットの振り返りと考察】

 先週の株価指数は週足で見れば堅調に推移しました。

一方で中身を見ると指標により大きく動いた1週間でした。

 

〜まだ早かったタカ派スタンスの反転期待〜

 前週末にダウ、S&P500は年初来安値を更新しましたが、先週は週明けと共に9月ISM製造業景況指数と8月求人件数が鈍化したため、FRBタカ派スタンスの反転が期待され、株価は大きく反発しました。10/4にはナスダック、S&P500共に前週末比5.7%高となりました。

しかしその後のISM非製造業景況指数や雇用統計で堅調さが示されたことでタカ派スタンスの反転がすぐさま否定され、再び大きく反落しました。

10年債利回りも株価の反発と共に9/303.83%から10/4には3.62%まで低下したものの、週末にかけて再び上昇し、イールドカーブ全体としても前週末を上回って週を終えました。

 私は先週前半の株式市場の反発に「まだ早い」と違和感を覚えていました。

ISM製造業景況指数や求人件数により景気が鈍化していることが示されましたが、それが即インフレの鈍化に繋がるとは限らないからです。

 

現在FRBは、利上げにより景気を抑えることでインフレを抑制することを目標としていますが、まだISMが50を下回っていない中では明確に景気後退していると言えません。

加えて9月FOMCではパウエル議長自ら「痛みを伴わずにインフレを抑えることはできない」と発言しまています。これは仮に景気後退したとしても、それを受け入れながら利上げを行っていくという覚悟であり、ISMが求人件数が鈍化したからと言ってそう簡単に揺らぐものではないと考えます。

まずは何よりもインフレ率の明確な鈍化が必要なのであり、現在見るべきは景気後退のシグナルではないと思います。

 

 現にISM製造業景況指数や求人件数などの指標発表後にもFRB高官は下記の通りタカ派発言を繰り返しました。

・SF連銀総裁:コアインフレ減速や雇用の落ち着きなしではシフトダウン困難

ミネアポリス連銀総裁:利上げを停止するのはかなり遠い先

・シカゴ連銀総裁:政策金利は来春までに4.5%-4.75%に達する可能性が高い

 

次週には米9月CPIの発表があります。

SF連銀総裁が示したように、足元で注目すべきなのはエネルギーや食品を除くコアインフレ率です。

投機が絡むコモディティ価格は景気後退を織り込んで落ち着きを見せてきており、第一段階はクリアしたと考えられます。次は実需要素が強いコア指標が落ち着きを見せるかが重要です。

 

一方でコア指標に注目が移ってきているということは、徐々にインフレの天井が見え始めてきているとも言えます。

今後はよりじっくり経済指標とFRB高官の発言内容に耳を傾け、また次週から本格化する企業決算へのインフレと利上げの影響を確認して行きたいと思います。そしてインフレ率の低下からの相場の転換点を見極めていきたいと思います。

 

以上

【9/26-9/30週の世界のリスクと経済指標】〜世界の金融の脆弱性に注意を払う〜

先週の評点:

 

リスク   -9点(21点):大幅悪化 (基準点30点) 

経済指標  -4点(58点):悪化 (基準点62点)

 

 

【リスク】

 先週のリスクはマイナス9ポイントの大幅悪化となりました。

ウクライナ東部・南部4州の親露派主導でロシアへの編入を巡る住民投票が行われ、賛成多数としてプーチン大統領が併合文書に署名し、併合を宣言しました。クリミア併合時と同様、既成事実を作って自国領として取り込みを図ることが想定されます。G7は併合を非難し、追加経済制裁を発表しましたが、現在のロシアにとっては効果は見込めません。国際秩序の後退が鮮明化しています。

 

 

【経済指標】

 先週の経済指標はマイナス4ポイントの悪化となりました。

注目のドイツCPI、ユーロ圏HICPは共に予想を上回り10.0%と加速し二桁台に載せました。一方でフランスは前月、予想共に5.9%に対して5.6%と鈍化しました。これでフランスは2ヶ月連続の鈍化となり、欧州内でもエネルギー政策の違いが影響しているのか、濃淡が伺えます。

 

また米PCEデフレーターは前月6.3%に対して6.2%とやや鈍化を見せましたが、コアデフレーターは前月と予想を上回り4.9%と加速を見せました。

世界的なコモディティ価格の落ち着きから、米国ではエネルギーと食品を除いたコアデフレーターの数値が重要になってきました。

 

次週は米ISM景況指数と米雇用統計の発表があります。

ISMはここ2ヶ月底堅さを見せており、それが継続するのか崩れるのか注目したいと思います。

雇用統計は市場予想は下振れとなっていますが、新規失業保険申請件数は減少しており、こちらも底堅さを見せる可能性があると思っています。

 

 

【先週のマーケットの振り返りと考察】

 先週の株価指数も大きく反落しました。

米10年債利回りは一時4%を超え、それに連れる形で株価が下落し、ダウ平均は最高値から20%安で弱気相場入りし、S&P500・ナスダックは6月の安値を下抜けて年初来安値を更新しました。

先週は米国FRBの金融引き締めに対するタカ派姿勢に、英国の金融政策と財政政策のチグハグさが加わって市場が混乱した印象です。

 

 週明け早々にポンドが一時1.0384ドルまで売られ、それに対応して英中銀が利上げを行うと思いきや、代わりに英中銀は時限的な長期国債の購入を発表しました。英国債の急激な価格下落により、年金などの多くのファンドに大量のマージンコールが発生する可能性があったため、緊急措置として行われました。

それにより一旦は市場は落ち着きを取り戻しましたが、その後英トラス首相が自身の財政政策を擁護する発言を行ったため、再び先行き不透明となっています。

 

 また先週は米企業のナイキの6-8月決算でインフレによる運送費上昇や値下げ、為替の影響で収益が悪化したとして市場予想を下回り、12.81%安となりました。今後はナイキのようにインフレ要因による収益が悪化する企業が増加すると思われ、10月中旬から始まる3Q決算に注目したいと思います。

いずれにせよ見通しはまだ弱気を継続します。

 

 

〜世界の金融の脆弱性に注意を払う〜

 先週は多くのFRB高官の発言があり、どのメンバーも総じて金融引き締めを継続するタカ派な姿勢を見せました。

ハト派の筆頭であるブレイナード副議長も「インフレを抑制するため米政策金利をしばらく高く維持する必要がある」「時期尚早な転換は避ける」と引き締めの継続を訴えました。

またそれとと共に、「国境を超えた政策の波及効果が金融の脆弱性にどのように作用するか注意を払っている」とも発言しました。

 

つまりこれは米国ここ最近の急激な米国の利上げによる引き締めと、それによるドル高によって特に新興国がより苦しい状況に陥っていることを懸念してのことだと思います。

米国はインフレに苦しみ、それを抑えるためにFRBが懸命に舵取りをしていますが、米国が懸命に引き締めを続ければ続けるほど、相対的に弱い新興国の通貨は売られています。

その通貨安から考えられる新興国のリスクは下記の通りです。

 

①輸入品価格が上昇してインフレ圧力に繋がり、更に強い利上げが必要。

金利負担が増えることで政府、企業、個人の債務の持続可能性の低下。

③資金調達コスト増となり経済が弱体化。

④自国通貨建での対外債務が増加することによって利払い増加で歳出増。

⑤対外収支赤字化で外貨準備高が減少し、外貨建て支払い能力低下。

 

米国は米国でインフレに苦しみ厳しい状況にあり、それを解決するために引き締めを行なっていますが、その対策によって経済的に弱い国は更に苦しい状況になっていると思われます。

つまりそれは米国民の生活苦が回復するために、新興国はより厳しい生活苦を味合わなければならないという事実です。

実際にスリランカは4月にデフォルトを宣言し現在IMFに支援を要請していますが、バングラデシュラオスパキスタンなどの南アジアの貧しい新興国IMFに支援要請をしています。

これらの国々は単体では世界的な経済への影響は小さいかもしれませんが、仮にデフォルトが連鎖してくれば少なからず影響は出てくると思います。

また何よりもその国の人々の生活がままならなくなり、暴動が起き現体制の崩壊に繋がります。

それが新たな地域の治安悪化や民主主義の後退にも繋がっていくと思います。

 

そのため、このブレイナード副議長のコメントは非常に重要で、基軸通貨であるドルを持つ米国には、自国のみならず世界の金融に関して目を配っていく責任があると思います。

 

以上

【9/19-9/23週の世界のリスクと経済指標】〜英国で顕在化したポピュリズムの経済への代償〜

先週の評点:

 

リスク   1点(34点):良化 (基準点33点) 

経済指標  -12点(79点):大幅悪化 (基準点91点)

 

 

【リスク】

 先週のリスクはプラス1ポイントの小幅良化となりました。

欧州情勢はウクライナ東南部の親ロ派支配地域において親ロ派がロシアへの編入を巡って住民投票を開始しました。一部報道では武装兵が戸別訪問で賛否を集計しているとの話もあり、クリミア編入時と同様、強引な手法でロシアの侵略を正当化されようとしています。

国連総会でも住民投票を巡ってロシアが「偽の住民投票」で編入を正当化しようとしていると非難が相次ぎ、27日からは安保理で協議することとなっています。

 

また先週は各国のタカ派政策金利の利上げラッシュが続いたことから景気後退懸念が拡がり、コモディティ価格が大幅に下落しました。原油は79ドル、欧州天然ガス価格もピークから46%減の185ユーロとなっています。まだ油断はできませんが、今後のインフレ指標がコア指数に注目する必要があるかと思います。

 

 

【経済指標】

 先週の経済指標はマイナス12ポイントの大幅悪化となりました。

先週は米FOMCを筆頭に、日本、スイス、英国の中銀による政策金利が発表され、緩和継続の日本以外、全て通常幅の2倍〜3倍の利上げが行われ、インフレ抑制のための世界的なタカ派傾向が示されました。

 

欧米のPMIでは欧州は概ね基準の50を下回り、かつ低下が示され欧州の景況感の更なる悪化が示されました。一方で米国は製造業、サービス業ともに前月からの上昇が示され、先月のISMに引き続き米国景気の底堅さが示されました。

 

次週はドイツ、フランス、ユーロ圏のCPIが発表されますが、ここ最近落ち着きが見られるエネルギー以外のコア指数がどのような動きを見せるのか注目したいと思います。

 

 

【先週のマーケットの振り返りと考察】

 先週の株価指数は大きく反落しました。

ダウ平均は6月末の年初来安値を下抜け、ナスダック、S&P500も6月安値を下抜け寸前となっています。

先週は米国、日本、スイス、英国の主要国の中銀による政策金利発表がありました。

金融緩和を貫く日本を除き、米国は75bps、スイスは75bps、英国は50bpsとそれぞれ通常幅の2倍〜3倍の強い利上げを示しました。

FOMCでは四半期毎のFRBメンバーによるドットプロットも示され、前回との比較では22年末で4.25%、23年末に4.625%と共に0.875%ずつ上昇し、より引き締めを強める方針が示されました。

また、会見では「痛みを伴わずにインフレを過去のものにする方法があれば良いが、それはない」とハードランディングへの覚悟が示されました。これまではやや含みを持たせて市場の誤解を招いたソフトランディングへの期待が明確に打ち消されました。

それにより先週は金利が一気に上昇し、2年債利回りは4.2%まで上昇、10年債利回りは強い上昇を見せた後、景気後退を織り込みやや低下して3.68%となりました。

ハードランディングが示されたことで、今後は景気後退による株価の下落トレンドが続きそうな様相です。

 

 

〜英国で顕在化したポピュリズムの経済への代償〜

 先週は英中銀が通常幅の2倍である50bpsの利上げとし、加えて10月から主要中銀で初めて、保有国債を売却し量的緩和手仕舞いを積極的に進めることとしました。

しかしその翌日の23日、政権交代した英トラス政権が25兆円規模の大型減税による経済対策を発表したことで市場が大きく動き、英国の株式、債券、通貨がトリプル安となりました。特に債券と為替がひどく、英10年債利回りは9.07%上昇、ポンドは3.54%下落しました。

 

推測される理由としては下記の通りです。

①減税により国民がより購買力を回復するためインフレが煽られ、今後更なる利上げが必要。

②財源を国債発行で賄うため、英中銀のQTの債券売りと合わせ債券価格が下落し金利上昇。

金利が上昇し続けることとそれによる景気後退懸念の増加で通貨安、株安。

 

通常、金利が上昇すれば通貨高となることが考えられます。

しかし、主要国で最も強いインフレと景気後退懸念を抱える現在の英国には強い売り材料にしかならず、投資資金の英国からの逃避につながったと考えられます。

英中銀がインフレを抑えるために利上げや引き締めを行いながらも、英政府はインフレを助長する減税政策を行い、完全に足を引っ張っています。

これにより英中銀は必要以上に利上げを行わざるを得ないことが推測されます。

 

この混乱を生んだのは紛れもないトラス政権の政策ですが、早期減税はトラス政権の公約であり、トラス氏は公約通りの政策を示しただけです。トラス氏の対抗馬であったスナク氏は早期減税には反対し、財政規律の維持を唱えていました。経済政策的にはスナク氏の方がスマートで理に適っていた印象ですが、結局早期減税を唱えたトラス氏が勝利しました。今回の保守党党首選挙は、保守党員約16万人の選挙で決定したため、間接的な民意としての性格が強いですが、ポピュリズム政党である保守党を第一党に選んだのは英国民です。

 

今回の件は、より民意を反映しやすい政治が経済に悪影響を与えた良い事例になると思われます。

このようなことは、特に大衆に迎合しすぎるポピュリズムには起こり得るリスクであると思います。

 

今週末にはイタリアの総選挙が投開票されます。

事前調査では、極右政党であるイタリアの同胞(FDI)が第一党となり、右派連合が連立政権を樹立すると言われています。右派連合は公約として減税、最低年金額引き上げ、保育所の無償化、子供手当の増額など、ポピュリズム色の濃い政策を打ち出しています。EU主要国の中でも苦しい財政赤字と債務を抱え、高い長期金利を誇るイタリアで、英国同様にバラマキ政策から長期金利上昇が起こった場合は、ユーロ圏全体への悪影響が拡大し、世界経済へのダメージも大きくなると思われます。

 

スウェーデンでも9/11の総選挙でポピュリズム政党である極右「スウェーデン民主党」の躍進により右派が僅差で勝利しており、インフレとの親和性によってポピュリズムの躍進が続いています。

ポピュリズムによる混乱が続くか注意して見守りたいと思います。

 

以上

【9/5-9/9週の世界のリスクと経済指標】〜止められない円安〜

先週の評点:

 

リスク   2点(32点):良化 (基準点30点) 

経済指標  -1点(50点):小幅悪化 (基準点51点)

 

 

【リスク】

 先週のリスクはプラス2ポイントの良化となりました。

政治面では、英国のジョンソン首相辞任に伴う保守党首選挙が行われ、ポピュリズム色の強いトラス氏が首相となりました。トラス氏はインフレに対して大胆な減税策で立ち向かうとしていますが、足元で国民が求める政策である一方、減税でよりインフレが強まるとの懸念も否めません。強まるインフレにより欧州内でポピュリズムの流れが続くのか、注目したいと思います。

 

 またIPEFの閣僚会合が開催され、14カ国が参加しました。ただ、TPPやRCEPなど関税の撤廃や引き下げなどに関する議論はなく、あくまでもサプライチェーン連携強化の目的であるため、ASEANなどの参加国への求心力が低く、今後の実効力を伴ってくるか疑問が残ります。

 

 インフレ面では、OPECプラスが10月から減産に合意したため、原油価格は上昇するかと思われましたが、中国のロックダウン拡大により中国景気の減速感の高まりの方が意識され、軟調に推移しました。OPECプラスの減産自体も、景気後退による原油の需要減を意識しての対策であり、景気後退が徐々に顕在化してきた印象です。

 

【経済指標】

 先週の経済指標はマイナス1ポイントの小幅悪化となりました。

米国のISM非製造業景況指数は低下予想に反して上振れ、製造業景況指数同様、米国経済の底堅さを示しました。

また先週はRBA、カナダ銀行、ECBと主要国の政策金利発表がありましたが、RBAが0.5%、カナダ銀が0.75%、ECBが0.75%とどの中銀も積極的な利上げを行いました。

その結果、主要国では唯一金融緩和政策を維持している日本との対比が鮮明化し、円が大幅に売られる事態となりました。

 

次週は米CPI、英CPIの発表があります。

米総合CPIはガソリン価格の落ち着きから減速が予想されていますが、エネルギー高騰の影響を受け続け加速が予想される英国のCPIの数値に注目します。首相が代わって初めてのCPIであるため、政策に与える影響としては小さくないと思われます。

 

 

【先週のマーケットの振り返りと考察】

 先週の株価指数は概ね堅調に推移しました。

米国ではFRB高官から9月FOMCでの75bpsの利上げを支持する発言が相次ぎ、FedWatchでも75bps利上げ確率が9割を超えてきました。しかし、ジャクソンホール以降のFRBタカ派姿勢を一旦織り込んだのか、株価は4週振りに反発しました。

OPECプラスで減産合意があったにも関わらず、中国景気の減速が意識されて原油価格が下落したことによりインフレ懸念が後退し、ハイテク株を中心に後押ししました。

 

 

〜止められない円安〜

 さて、先週は豪中銀、カナダ中銀、ECBがそれぞれ50bps、75bps、75bpsと大幅利上げに踏み切ったことで、日銀との政策金利差が意識されてドル円が大幅に動きました。

週明け140.18円で始まったドル円でしたが、豪中銀が政策金利を発表すると急伸して1日で約2円上昇、翌9/7にはさらに上昇し一時145円にタッチする事態となりました。

その後、144円を挟む展開となりながら、9/9に日銀の黒田総裁の「急激な円安は好ましくない」、鈴木財務相の「あらゆる手段を排除せず」との発言で急落し、一時141.50円まで急落、142.52円で週を終えています。

 

円安方向にボラティリティの激しい一週間となるなかで、日銀総裁財務相の最大限の口先介入で一旦は円安に歯止めがかかった形となっています。

しかし、ファンダメンタルとしては、日銀が金融引き締めを開始しない限り金利差は拡大する一方です。長らく続いている金融緩和によって低金利を前提に運営されている日本の財政と経済では、金利を上げれば更なる国の財政悪化、また資金調達の悪化で破綻する企業や個人が増加することとなります。そのため容易に利上げすることは罷りなりません。

 

一方で為替介入で何とかなるかと言っても、今回は従来の円高に対応した円売りドル買いではなく円安であるため、手持ちのドルで円を買わないといけません。円を売る場合は国債を発行して円資金を調達すれば問題ありませんが、今回は外貨がである手持ちのドルを使用しなけれなりません。しかしドルは日本にとっては有限です。

ここ1年は物価高の影響で貿易収支が悪化しており、その影響もあってか1年前の218月をピークに保有している外貨を1.42兆円から1.29兆円に急速に減らしています。

まだ1.3兆ドルの資金を残しているとは言えますが、ドル円の1日の平均取引量が約8700億ドル(2019年4月のBISの数値から推計)です。ここに影響を及ぼすのに10%程度の取引を行うとすると870億ドルが必要となり、単独で介入するとしても打てる弾数は限られ、効果が薄いと考えます。

他国との協調介入が必要となりますが、よりインフレに苦しむ米国にとってはドル高が必須であり、協調介入は難しいと思われます。

 

そうなると打てる手は限られ、必然的に円安傾向はまだまだ収束が見えないと思います。

このままマーケットの動きに任せて世界的なインフレが収まるのを待つしかありません。

円安により我々の生活コストは確実に上がっていますが、それは脆弱な日本の財政と経済を守るためであり、既にスタグフレーションが起こっている欧州に比べればまだマシと考え、耐えていくしかありません。

 

以上

【8/29-9/2週の世界のリスクと経済指標】〜インフレとポピュリズムの親和性〜

先週の評点:

 

リスク   -3点(27点):悪化 (基準点30点) 

経済指標  -2点(96点):小幅悪化 (基準点98点)

 

 

【リスク】

 先週のリスクはマイナス3ポイントの悪化となりました。

オンラインで行われたG7財務相会議にて、ロシア産原油に対して価格上限を設ける追加制裁の枠組みが12月に導入することが合意されました。具体的には、上限を超える価格で取引されたロシア産原油や石油製品を運ぶ船舶に保険を提供しないよう保険会社に義務付けるとしています。

その決定に対抗してか、ロシアのガスプロムは保守点検で停止中だったノルドストリームに関して、オイル漏れが見つかったとして停止を継続することを発表しました。

エネルギーを巡って、西側諸国が揺さぶりをかけていますが、ロシアも即座に対応しており実効性が疑われます。

 

 

【経済指標】

 先週の経済指標はマイナス2ポイントの小幅悪化となりました。

米国の8月雇用統計はNFPが予想30.0万人に対して31.5万人となり底堅さを見せました。

失業率は前回3.5%から3.7%へと上昇しましたが、労働参加率が前月から0.3%上昇したことが影響したと思われ、こちらも底堅さを見せた印象です。

またISM製造業景況指数も前月52.8に対して52.8と横ばいとなりました。

 

一方で先週発表された欧州のCPIはインフレの加速を示しました。ドイツCPIは、前月には7.6%→7.5%と減速を示していましたが、再び7.9%に加速を示しました。

ユーロ圏のHICPも前月8.9%から9.1%と上昇、PPIも前月35.8%から37.9%へと加速しました。

米国ではインフレ率が減速を示し始めていますが、欧州では直接的にロシアからのエネルギー供給が細っているためインフレが収束を見せません。

 

 

【先週のマーケットの振り返りと考察】

 先週の主要株式指数は、前週に続き大幅に反落しました。

米国市場では、前週のジャクソンホールでのパウエル議長によるタカ派発言に加え、多くのFRB高官がそれに追随する発言を行ったため、9月FOMCでの0.75bpの利上げ観測が高まりました。そのため10年債利回りは一時3.3%に迫り、また2年債利回りも一時3.5%を超える水準となりました。

ドル円も140円の大台を超えドル高が進みました。

8月雇用統計の失業率が上昇したことで強い引き締め観測が後退し、週末にはやや金利は落ち着きを見せましたが、金利感応度の高いナスダックを中心に、株価指数は大きく崩れる結果となりました。

 

 

〜インフレとポピュリズムの親和性〜

 さて、先週はユーロ圏およびユーロ圏主要国の消費者物価指数の発表がありました。

結果は下記の通りです。

フランスは高水準ながらも政府による積極的なインフレ対策でやや減速が示されていますが、ユーロ圏全体、ドイツ、イタリアは加速が示されました。

エネルギーを自給出来る米国では8月は減速してピークアウトの様相を見せていますが、エネルギー供給を他国に依存する欧州では、ロシアからのエネルギーの供給減を受けて依然ピークアウトが見えません。

 

そんな中、欧州ではポピュリズムが再び台頭しつつあるように感じられます。

イタリアではコロナ禍からの経済回復を主導するために大連立で誕生したドラギ政権が崩壊し首相が辞任、9/25に行われる選挙に向け各政党が論争を繰り広げています。

現在優勢が伝えられているのは右派連合で、その中心となっているのが極右政党「イタリアの同胞」です。

党首のメローニ氏はEUの正当性に疑問を投げかけ、内向きなバラ撒き政策を訴えています。またネオ・ファシズムと関連が強く、反移民や家族主義、同性婚の反対を支持するなど保守色を強めています。

そして「この国を抑圧してきた権力システムから解放する」と対エスタブリッシュメント姿勢を明らかにし、ポピュリズムで国民からの支持を集めています。

 

この流れはイタリアのみならず、他国でも表れています。フランスでは6月の下院選挙によって極右、極左政党が躍進する一方で中道の政権与党は議席過半数割れとなっています。

またEUからは離脱しましたが、イギリスでもジョンソン首相辞任に伴う党首選挙で即時の減税を訴えるなど、よりポピュリズムを前面に打ち出しているトラス氏が優勢となっています。

 

ここから見えてくるのは、インフレとポピュリズムの親和性です。

グローバリズム新興国の安い賃金を求めたことによって資本家と一般民衆の格差が広がり、労働者を優先してくれるポピュリズムが拡大するきっかけになりました。コロナ禍での金融緩和や莫大な財政支出で一旦落ち着いたかに見えましたが、今度はインフレによって一般民衆の生活が急速に圧迫されています。そしてその苦しさから再び他者に対する無関心や不寛容が拡大し、ポピュリズムを台頭を後押ししている様に感じます。

 

このまま高いインフレが続き、国民の無関心や不寛容が拡大しポピュリズムが再び拡大すれば、コロナ前の様な一体感のない西側諸国への回帰を促すような気がします。

それが意味するのは、EUという枠組みの中での金融・経済政策の緩みや、ロシアや中国などの専制主義国に対する外交政策の緩みに繋がるとということだと思います。

 

一体感が必要な欧州で、経済的にも弱いイタリアがポピュリズムに傾倒すればが欧州全体が政治・経済の両面で混乱する可能性があり、懸念すべき状況であると思います。同時にインフレの高進による一層の民主主義の退潮が懸念されます。

 

以上

【8/22-8/26週の世界のリスクと経済指標】

先週の評点:

 

リスク   -3点(27点):悪化 (基準点30点) 

経済指標  -8点(67点):大幅悪化 (基準点75点)

 

 

【リスク】

 先週のリスクはマイナス3ポイントの悪化としました。

米国内のガソリン価格は価格を切り下げていますが、欧州の電気供給の要となる天然ガスの価格が高騰し、8/19の245ユーロから1週間で349ユーロまで急騰しています。ロシアがノルドストリーム経由での天然ガス供給を大幅に絞っている上に、8月末から点検で3日間停止するとの通達があり警戒感が高まっています。欧州のインフレ圧力がさらに高まる可能性があり、欧州経済への影響が心配されます。

 

 

【経済指標】

 先週の経済指標はマイナス8ポイントの大幅悪化としました。

欧米のMarkit PMIはドイツ製造業PMIは若干の改善を見せたものの、依然50を下回っており概ね悪化を示しました。インフレとそれに対する利上げにより徐々に景気後退の足音が聞こえてきている印象です。

 

PCEコアデフレーターはCPI同様、前回4.8%、予想4.7%に対して4.6%と減速を示しました。

 

 

【先週のマーケットの振り返りと考察】

 先週の株価指数は欧米指数を中心に大幅下落となりました。

特に米株3指数及び独DAXは週足で4%を超える下落となりました。

一方で中国中銀が1年物LPRを0.05%、5年物LPRを0.15%の利下げを行ったため上昇しました。

 

先週は注目のジャクソンホール会合が行われ、パウエル議長が「景気抑制の政策は一定期間必要になる可能性」「早急な緩和のリスクを歴史が警告」と発言しました。

7月FOMCの後から、マーケットは景気後退懸念を受けて23年早々の利下げ転換を織り込んでおり、「景気悪化が深刻になればFRBが景気刺激を優先してくれるはず」と期待し、上昇し続けていました。

前週までにも多くのFRB高官がタカ派な発言をして市場を牽制していましたが、今回のパウエル議長の発言は、それを明確に否定する内容となり、マーケットの楽観にトドメを刺す結果となりました。

 

またECB高官であるユーロ圏の各国中銀総裁もジャクソンホール会合にてタカ派な姿勢を鮮明にしました。中でもタカ派のホルツマン・オーストリア中銀総裁やクノット・オランダ中銀総裁などは9月のECB政策委員会での75bpの利上げを主張しています。

確かにロシアへのエネルギー依存が強い欧州ではロシアの影響が大きく、米国よりも強いインフレ懸念に見舞われていますが、同時にEU圏内の格差による経済の脆弱さも抱え、ここまで強い利上げに耐えられるか心配です。

パウエル議長の発言の陰に隠れていますが、米国よりもEUの方がより八方塞がりな状況となっており、スタグフレーション懸念がより現実的になってきていると感じます。

 

欧米株式市場はこれで2週連続の下落となりました。

テクニカル的にも米株3指数は共に日足25MA、ダウ、S&P500は4時間200MAを下抜け、また独DAXは4時間足200MAはもちろん日足50MAすら下抜けており、再び下落トレンドに移行したと考えられます。

市場の好転を促すような材料は当面見当たらず、あとはひたすらインフレ指標の改善を待つのみという印象を持っています。当面株価が下落していく局面に入ると考え、引き続き弱気なスタンスで指標とニュースを確認します。

 

以上

【8/15-8/19週の世界のリスクと経済指標】~FRBと市場の対話の不一致~

先週の評点:

 

リスク   -2点(31点):悪化 (基準点33点) 

経済指標  -12点(64点):大幅悪化 (基準点76点)

 

 

【リスク】

 先週のリスクはマイナス4ポイントの悪化としました。

米国はガソリン価格などの価格が落ち着いてきたため、CPIは減速が示されましたが、英国の7月CPIは10.1%と10%を超える加速を見せています。また欧州の天然ガス価格が再び高騰しており、3月の高値を超えて250ドル近辺で推移ししています。全世界的にインフレありながらも欧州はエネルギー調達に苦労しているため、特にしつこいインフレが残りそうな印象です。

 

インド太平洋情勢では、ペロシ米下院議長に続き、米超党派議員団が訪台しました。また米国と台湾の貿易イニシアチブで交渉が開始されました。8月に入ってからの米国の台湾への関与のレベルが1段上がった印象があり、台湾支援が本格化してきました。

一方で中国は反発を強めており、台湾を巡った米中関係のさらなる悪化が懸念されます。

 

【経済指標】

 先週の経済指標はマイナス12ポイントの大幅悪化でした。

米国のNY連銀製造業景況指数は-31.3と大幅マイナス、7月住宅着工件数も-9.6%と大幅マイナス、中古住宅販売件数も-5.9%で6ヶ月連続減少と景気の強さを表す指標が大きく崩れました。

一方で8月フィラデルフィア連銀製造業景気指数はプラス6.2、鉱工業生産は前月比0.6%増、小売売上高は横ばいと、まだ踏みとどまっている指標も示されました。

 

一方で欧州では英国の7月CPIが10.1%と加速を示し、またドイツの7月PPIも予想0.6%に対して5.3%と加速を示しました。これを受けて欧州各国の10年債利回りが再び急上昇しました。

ドイツは7月CPIでは減速を示しましたが、電気料金に対する再生可能エネルギー賦課金が廃止されたためであり、欧州でのインフレ圧力は衰えていないことが示されました。

 

 

【先週のマーケットの振り返りと考察】~FRBと市場の対話の不一致~

 先週の株式指数は欧米株を中心に概ね軟調に推移しました。

 FRB高官による株式市場の楽観を諫めるような発言が目立ち、それによって長期金利が上昇したため、特に金利感応度の高いナスダックが2.62%と崩れました。

 

下記に最近のFRB高官の発言内容をまとめています。

ここに来て強いタカ派だったカンザスシティ連銀総裁がやや慎重さを見せていますが、それ以外のFRB高官は概ね「インフレ率はまだ高く、利上げの手を緩める段階ではない」というスタンスを見せています。

特に従来は緩やかなハト派であったバーキン総裁は19日に「リセッションと引き換えにしてもインフレを抑制する必要がある」とかなり強い姿勢を示しています。

 

次週はジャクソンホール会議がありますが、これまで同会議ではパウエル議長から節目となる大きな発言が出てきています。

一昨年は雇用最大化の追求のために一時的な2%を超えるインフレを容認する方針を示しました。昨年は年内のテーパリング開始を示唆しました。ここ数年、パウエル議長はジャクソンホールで重要な発言をしつつも、市場との対話をうまく乗り切っている印象です。昨年のテーパリング開始の示唆は、株価にマイナスの影響を及ぼす内容でしたが、事前に多くのFRB高官からタカ派発言が相次ぐ中で「テーパリング終了即利上げではない」とコメントし、無難に市場に受け入れさせました。

 

しかし、今回はそううまく行かないと考えています。

現在、市場は景気後退懸念を受けて23年早々の利下げ転換を織り込んでおり、「景気悪化が深刻になればFRBが景気刺激を優先してくれるはず」という当てのない楽観に包まれています。

しかし、バーキン総裁の「リセッションと引き換えにしてもインフレを抑制する必要がある」という発言は明らかに市場に対する牽制であり、市場とFRBとの対話がそもそも噛み合っていません。

 

そのため今回のジャクソンホールにおいて、パウエル議長はその不一致を修正しにかかるのではないかと考えています。

つまりは景気後退という痛みがあったとしても、2%の物価目標に向けて金融引き締めをやり通すという覚悟が示されるのではないかと思います。

そして市場とFRBの不一致が修正されるということは、株価も下方向に修正されるのではないかと考えています。

 

引き続き、弱気のポジションを保ちながらジャクソンホール会議でのパウエル議長の発言に注目したいと思います。

 

以上