投資家見習いのブログ

世界の地政学的リスクと経済指標を独自の数値で可視化し、マーケットを語ります。

【11/16-20週の世界のリスクと経済指標】〜RCEP、TPPから見る中国と米国の逆転現象〜

先週の評点:

 

リスク   -8点(49点):悪化 (基準点57点) 

経済指標  +4点(73点):良化 (基準点69点)

 

 

【リスク】

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先週のリスクは、マイナス8ポイントの悪化としました。

前週のファイザー/バイオンテック製ワクチンの有効性のニュースに続き、モデルナ製ワクチンでも高い有効性が確認され、COVID-19による解放される期待感が高まりました。ファイザー20日に米FDAに緊急使用許可申請を行い、早ければ12月中にも使用許可が出る見込みです。

 

 一方で足元ではCOVID-19の感染拡大が続いており、米国では1日あたり19万人を超える感染者が出ています。これに対応して各地で活動制限措置が進み、NY市では学校での対面授業を取り止め、カリフォルニア州では夜間外出制限装置が取られ始めました。

 

 また、追加経済対策ですが、共和党/民主党ともに歩み寄りは見られず停滞が続いています。加えて19日にムニューシン財務長官がFRBに対し緊急融資プログラムの未使用資金の返還を要請しました。COVID-19による活動制限が広がり、追加経済対策も進展しない中での資金の引き揚げは、FRBの身軽な行動を制限し景気や雇用の悪化を招く可能性があります。

 

トランプ政権が敗北宣言をしないことでバイデン新政権への移行が進まず、政治的空白も生まれています。

ネガティブなニュースをワクチンだけで支えているような状況となっており注意が必要です。

 

 

【経済指標】

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先週は全体としてプラス4ポイントの良化としました。

日本の7-9GDPは予想を上回る21.4%となりましたが、欧米と比較すると鈍い回復となっています。

また中国の小売売上高は予想は下回りましたが先月に続いてプラス成長となり好調を維持しています。豪州の雇用統計もポジティブとなり、好調な中国の影響を色濃く反映したものと考えられます。

一方で米国指標は鉱工業生産やフィリー連銀指数などの製造業系はポジティブでしたが、小売売上高、新規失業保険申請件数はネガティブを示し、消費、雇用は活動制限を受けて悪化傾向にあることを示しました。

 

 

【先週の振り返りと考察】

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 先週は週頭にモデルナのワクチンが高い有効性を示したことで株価が急騰し、日経は終値26,000円、ダウは場中に30,000ドルの大台に乗せましたが、その後は一服感と足元のCOVID-19拡大による活動制限の広がりから下落し週足ではほぼ変わらずでした。

 一方で新興国株式は概ね好調で、好調を維持する中国/香港や原油価格の戻りからロシア株、ブラジル株も上昇しました。

 

次週はワクチン期待も一服感のある中、足元ではCOVID-19の拡大による活動制限が続くためマーケットは不安定になると思われます。

特に週末のムニューシン財務長官の発言は、実際の資金需要どうこうよりも、マーケットを支えていたFRBの「何でもやる」というスタンスに不安感を与えることになるため、COVID-19関連のネガティブニュースに反応しやすくなると思われます。

 

 

 

RCEPTPPから見る中国と米国の逆転現象~

さて、先週は11/15RCEP東アジア地域包括的経済連携)協定が日本を含む15カ国の首脳にて署名されました。

加盟国はASEAN10カ国、日中韓、豪、NZで、世界のGDP、人口、貿易額の約3割を占める大型の自由貿易協定となります。

農林水産品や工業品にかけられていた関税の撤廃や引き下げ、輸出入の手続きの簡素化、サービスや投資のルールなど20の分野について合意しました。

今後参加国全体で、段階的に品目ベースで輸出入にかかる関税の91%が撤廃されます。

 

このRCEPは、2005年から中国が提唱してきた「東アジア自由貿易圏(EAFTA;  ASEAN10カ国+日中韓)」に対し、日本が2006年に中国の影響力を薄めるために豪、印、NZを加えて提唱した「東アジア包括的経済連携CEPEA; ASEAN10カ国+日中韓豪印NZ)」と合わさり構築された構想です。

当初は多くの人口を抱えるインドを加えることで対中のパワーバランスを保つことを目論んでいましたが、最終的にはインドが離脱することとなったため枠組みの中での中国の存在感が高まり、中国が主導権を握る形となりました。

 

 そして、先週はAPEC首脳会議が開催され、会議に参加した中国の習主席はRCEP合意の成果を誇示していましたが、20日には突如「TPP11への参加を積極的に考える」と表明しました。

ここでこの発言の意味を考えてみます。

下記はアジア地域での経済連携の一覧です。

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TPP11加盟国で今回のRCEPの枠組みに入っていないのはカナダ、ペルー、チリ、メキシコの4カ国で、中国はペルー、チリに関しては既にFTA締結済みです。

残るはカナダとメキシコですが、こちらは201811月に締結されたUSMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)に盛り込まれた「非市場経済国」(=中国)とのFTA締結を制限する条項があり、また隣接する米国との関係性を考えるとFTAの実現性には難しさが残ります。

ついては実際に中国がTPPに参加してもあまり意味がないと思われます。

 

 つまり、この習近平主席の発言は、TPP交渉を離脱し「保護主義」に走った米国を批判しながら、RCEPを成果に自由貿易を推進する自国の存在感を高めるためのアピールであることがわかります。

そして、同会議での演説では「国際協力の未来」をテーマとし「積極的な多国間の投資と貿易のメカニズムに参加し、より高い水準で解放した経済を作り上げる」とまるでかつてのアメリカのような言葉を述べています。

 

ここから見えてくるのは、自由主義を掲げていた米国が他国との貿易に関税をかけ自由貿易を否定する一方、社会主義を掲げていた中国が自由貿易を礼賛し推進するいびつな逆転現象です。

 

しかし、中国の自由貿易アピールは、あくまでもその覇権主義に基づいた戦略の一つです。

中国は10月末に、410日に行われた共産党の中央財経委員会での習主席の発言を公表しましたが、その中で「世界のサプライチェーンの中国依存度を高め、供給の断絶によって相手に報復や威嚇できる能力を身につけなければならない」と明言しています。

 

裏に隠れた中国の覇権主義をわかっていながらも、トランプ政権による権威主義的とも見える政権移行拒否を目の当たりにすると、これらの中国の自由貿易を主導しようとする動きが、今後の世界の潮流の大きな転換点となっていくのではないかとの錯覚を覚えます。

 

以上