投資家見習いのブログ

世界の地政学的リスクと経済指標を独自の数値で可視化し、マーケットを語ります。

【8/23-8/27週の世界のリスクと経済指標】〜マーケットとの対話巧者のFRB「二歩進んで一歩下がる」〜

先週の評点:

 

リスク   -6点(39点):大幅悪化 (基準点45点) 

経済指標  -14点(64点):大幅悪化 (基準点78点)

 

 

【リスク】

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 先週のリスクはマイナス6ポイントの大幅悪化となりました。

新型コロナではデルタ株感染拡大で、米国でもICUの使用率が高まり、1月のピークの8割に迫っています。今のところ景気回復が大きく減速する兆候はありませんが、今後再び経済封鎖などの措置になる可能性もあり、懸念が広がります。

一方でファイザー製ワクチンが正式承認されたため、企業や自治体などでもワクチン接種義務化が進みやすくなったため、接種率の上昇に寄与すると期待されています。

 

地政学面では欧米各国が退避を進める中、カブール空港にてISIS-K(イスラム国ホラサン州)による自爆テロがあり、米兵14人を含む95人が亡くなりました。月末の退避期限が迫り、欧米各国が退避作業を急ぐ中での爆破行為により大きな混乱が生じたため、独仏加などの西側諸国は期限を前にして退避作業の終了を余儀なくされる事態となりました。

この事件は現地協力者などを十分に退避させたとは言えない状況に追い込まれ、民主主義諸国に対する信頼をさらに低下させることとなりました。

 

 

【経済指標】

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 経済指標はマイナス14ポイントの大幅悪化となりました。

欧米PMIはデルタ株の再拡大や供給不足の問題が影響してか軒並み低下となりました。

特にこれまで好調を維持していたドイツの製造業PMIが予想に反して下振れしたことは、やはり中国景気の鈍化を連想させます。

 

米PCEコアデフレーターは前年同月比は前回、予想と変わらず3.6%と高水準だったものの、前月比だと0.5%だった6月に比べると0.3%とやや鈍化を示しました。

 

また注目のジャクソンホール会議でのパウエル議長発言はテーパリングの年内開始を示唆するも、それが近いうちの利上げに繋がるシグナルではないとしました。

ジャクソンホールに関しては後述します。)

 

先週は韓国中央銀行も不動産高騰抑制のために利上げに踏み切り、0.5%→0.75%としました。

 

次週は中国PMI、米ISM景況指数、米雇用統計があります。

特に米雇用統計はテーパリング開始の裏付けとなるため注目しています。予想通りもしくは予想以上となればテーパリングは9月FOMCで開始が発表される可能性があり、下回れば開始時期が後ろにズレ込む可能性もあると考えます。

 

 

【先週の振り返りと考察】

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 先週の米国株価指数は、アフガンでの欧米各国の退避行動中に起きたカブール空港での自爆テロ地政学的リスクが高まりましたが、米FDAファイザー製ワクチンを正式承認したことでの景気回復期待や、ジャクソンホール会議でのパウエル議長の発言がハト派な内容だったことが好感されて堅調に推移しました。S&P500とナスダックは再び最高値を更新しました。

上海総合指数や香港ハンセンなどの中国株式も前週の下落の反動で買いが先行し、同様に日経平均も反発しました。

 

 

〜マーケットとの対話巧者のFRB「二歩進んで一歩下がる」〜

さて、先週は注目のジャクソンホール会議(以後略称:J/H会議)がありました。

パウエル議長は7月末のFOMCよりも一歩踏み込み、年内のテーパリング開始を示唆しました。一方でテーパリング終了=利上げということには簡単には繋がらず、利上げに関してはより厳格な基準をクリアしないと開始しないと発言しました。

この利上げに関する発言をハト派と受け止め、マーケットは早期利上げに対する不安感を和らげ、株高、ドル安、コモディティ高で反応しました。

つまりパウエル議長はまたもや注目されたイベントをマーケットに混乱を呼ぶことなく無事に通過しました。

 

ここ最近、インフレ圧力の上昇とともにFRBの政策発表の場が注目されていますが、全て無難に乗り切っている印象があります。

そしてその中にも「二歩進んで一歩下がる」と言う一定のパターンがあるような気がします。

 

今回のJ/H会議前にはFRB高官による強いタカ派発言が相次ぎました。

前回の7月FOMC(7/27-28)から今回のJ/H会議までの期間中のFRB高官の発言回数とその内容をカウントしてみると以下の結果になりました。

※私がニュースから集計しているので漏れがある可能性もあります。

 

[7月FOMC-J/H会議間のFRB高官発言]

述べ発言回数:30回  うちタカ派発言回数:26回

発言高官人数:15人  うちタカ派発言人数:12人

 

かなりのFRB高官がタカ派に傾き、かつJ/H直前には6人の高官が相次いで発言し、早期のテーパリング終了時期までも要求するような発言を行いました。

参考:クラリダFRB副議長、年内のテーパリングを支持-米金融当局者発言
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2021-08-27/QYI0M3T0AFB401?srnd=cojp-v2

 

このように、FRB全体としてはJ/H会議を前にかなり強めのタカ派のコンセンサスを示し会議に臨みました。

 ところがパウエル議長の発言内容は、テーパリングの年内開始を示唆し、コンセンサス通り従来よりアクセルを踏み込むもののその時期は明言せず、かつテーパリング終了後に行われる利上げに関しては「簡単には行わない」とアクセルを緩めて含みを持たせ、マーケットはそれを「ハト派」と受け止めました。

 

この「FRB高官が強めのタカ派発言で地ならし(二歩進む)→パウエル議長が一歩前に踏み込むも、二歩目は踏み込まないハト派の印象付け」と言うやり方でパウエル議長は非常に巧みにマーケットと対話しました。

 

このパターンは7月FOMCでも使用されており、やはり7月FOMC前もその前の6月FOMC後にタカ派発言が徐々に増やされました。

 

[6月FOMC-7月FOMC間のFRB高官発言]

述べ発言回数:27回  うちタカ派発言回数:15回

発言高官人数:16人  うちタカ派発言人数:10人

※6月FOMC前はタカ派発言人数は6人

 

その際にもFRB高官のテーパリング開始を印象付けるタカ派発言を増やしていきながら、FOMC後の会見では「テーパリングへと経済は進展したが、その時期はまだ先」として一歩進みながらもハト派な印象付けでマーケットを失望させませんでした。

 

恐らく結果論としてのチームプレイだと思いますが、マーケット心理を巧みに操りながら歩を確実に進める戦術は見事と言うしかありません。

 

今回のJ/H会議でテーパリング年内開始のコンセンサスは形成できたので、次はペースと終了時期、そして利上げ時期の示唆となりますが、そこでも巧みに乗り越えてくれると期待しています。

 

以上