投資家見習いのブログ

世界の地政学的リスクと経済指標を独自の数値で可視化し、マーケットを語ります。

【8/30-9/3週の世界のリスクと経済指標】〜雇用統計内容から考える長期金利上昇の理由〜

先週の評点:

 

リスク   -3点(42点):悪化 (基準点45点) 

経済指標  -6点(108点):悪化 (基準点114点)

 

 

【リスク】

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 先週のリスクはマイナス3ポイントの悪化としました。

米軍がアフガンが撤退を完了し、バイデン大統領はテレビ演説でその混乱の責任をトランプ前大統領に転嫁し、自らの決定を正当化しました。

しかし、その稚拙な撤退方法により、バイデン政権は政権発足以来関係を取り戻してきた同盟国や民主主義諸国からの信頼を損なう結果となりました。

そしてそれを払拭するためか、米国は同盟国ではないウクライナに対して関係強化を訴えました。

 

 また日本では政局が動きました。

ここ最近デルタ株の蔓延により支持率を落としていた菅首相が、次期総裁選には出馬しない方針を示したため、次期総裁を巡って自民党内での動きが活発になりました。

一時は与党の力が弱まっていましたが、与党が新体制で衆院選挙を戦うこととなり、政権を維持する可能性が高まりました。

 

 

【経済指標】

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 先週の経済指標はマイナス6ポイントの悪化となりました。

中国の財新PMIは製造業、サービス業共に50を下回る結果となり、中国当局の統制強化の影響もあり景気悪化を示しました。

 

 米国は消費者動向を示す消費者信頼感指数が6ヶ月振りの水準まで低下し、デルタ株の蔓延や物価上昇の影響による短期的な消費の鈍化を示しました。

またISM景況指数は、製造業が上昇して堅調さを示した一方、非製造業は前回64.1から61.7へ大幅に低下し、こちらもデルタ株の影響からサービス業が苦しい状況に陥っていることを示しました。

 

雇用統計に関しては後述するので詳細は割愛しますが、NFPが予想75万人に対して23.5万人とネガティブサプライズとなり、米国内でのデルタ株の蔓延により雇用も一旦落ち着きを見せていることが示されました。

 

 

【先週の振り返りと考察】

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 先週の欧米の株価指数は米雇用統計を控えまちまちでした。

景気敏感株が奮わない一方、ナスダックはGAFAMを中心に大手ハイテク株に買いが集まり、前週に続いて強く続伸しました。

 

また日経平均は、政府与党内での政局の動きに反応し、「解散は買い」のアノマリー菅首相の退任発表により、次の衆院選での与党政権の堅持や新たな財政政策が期待されて大きく上昇しました。
これまで割安ながらも伸び悩んでいた日経平均のこの勢いは週明けも続くと思われます。

 

 中国株もPMIの指標が冴えなかったことから中国当局が景気刺激策を打ち出すとの期待が浮上し上昇を見せました。

 

 

〜雇用統計内容から考える長期金利上昇の理由〜

 さて、先週は9月雇用統計の発表があり、前回105.3万人/予想75万人に対して23.5万人に大幅に減少しネガティブサプライズとなりました。

今回の雇用統計で強い雇用回復を確認し9月FOMCでのテーパリング決定が見込まれていましたが、その前提が崩れ早期テーパリング観測が後退した安心感からナスダックは最高値を更新しました。

一方でセオリー通りであれば長期金利が低下することが予想されましたが逆に上昇し、株式と債券でちぐはぐな動きとなりました。

 

これが意味することは、株価は早期テーパリング観測の後退を素直に織り込みましたが、債券市場は逆に早期テーパリングの開始を織り込んだということだと思います。

 

雇用統計の内容を細かく見ていきます。

今回の非農業部門雇用者数ではここ数ヶ月雇用増を牽引してきたレジャー・ホスピタリティ分野で増加がゼロとなっています。

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これはサービス業の雇用が止まっていることを意味しています。

 

次に失業率を人種別に見ていきます。

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白人、アジア人、ヒスパニック系が順調に失業率を下げてきているにも関わらず、唯一黒人は前月比で8.2%→8.8%と増加しています。

 

次に新型コロナの新規感染者数の多い地域と人種別の人口の多い地域をを示したマップです。

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南部に感染者の多い赤色が多いですが、フロリダ、テキサス、ミズーリアーカンソールイジアナアラバマミシシッピの7州ではワクチン接種率が低く、感染拡大が特に強い地域となっています。

そしてその7州は、赤線で囲んだ様に賃金の安いサービス業の担い手として黒人が多く居住する地域と重なります。

 

つまり、今回の雇用統計の下振れは、南部の新型コロナの感染拡大が強い地域でのサービス業者=黒人の雇用減少による影響が強かったと考えられます。

 

一方で8/24にファイザー製ワクチンがFDAにて正式承認され、モデルナも正式承認に向け申請を完了しています。

今後はワクチンの正式承認によって組織や団体においてワクチン接種を加速しやすい状況が整いつつあると思われ、今回の下振れの原因となったと思われる南部での感染状況の改善余地は大きいと考えられます。

 

従って、南部の感染状況が改善すればサービス業での雇用の改善にもつながることが予想され、今回の下振れが一時的となる可能性は高いと考えられます。

実際に南部7州では感染者数がややピークアウトしつつある状況も見られます。

 

また9月から失業保険の追加給付もなくなり子供の登校も始まるため、より雇用回復に後押しとなると思います。

従って9月FOMCでのテーパリング決定は無いと思いますが、10月雇用統計では再び強い回復を見せることも考えられ、11月FOMCでのテーパリング決定の可能性は高いと思います。

 

今回債券が売られ金利が上昇したのは、下振れは一時的でありテーパリングは近いうちに必ず来ると債券投資家が考えた背景があるのではないかと思います。

 

とはいえ、一時的にテーパリングが棚上げとなることが予想されるため、次回の10月雇用統計までは株価は堅調に推移するのではないかと考えます。

 

以上