投資家見習いのブログ

世界の地政学的リスクと経済指標を独自の数値で可視化し、マーケットを語ります。

【9/6-9/10週の世界のリスクと経済指標】〜9月FOMCでのテーパリング決定の可能性〜

先週の評点:

 

リスク   1点(46点):小幅良化 (基準点45点) 

経済指標  0点(56点):中立 (基準点56点)

 

 

【リスク】

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 先週のリスクはプラス1ポイントの小幅良化としました。

政治面では米中首脳が7ヶ月ぶりに電話会談を行いました。米中対立が激しさを増していますが、形式上は「お互いに緊張緩和に向けて努力する」ということで一致し、途絶えていた米中の対話ルートが回復したことでやや安心感を生みました。

 

一方でアフガン撤退での米軍の混乱を機に、EUではNATOに頼らない独自の防衛機能の態勢強化が謳われるようになりました。バイデン政権誕生以来、欧州との協力関係の強い回復が見られていましたが、アフガン撤退で米軍に対する信頼感が揺らいだことを早速示す形となっています。

 

 

【経済指標】

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 先週の経済指標はプラスマイナスゼロの中立となりました。

中国では先月に続き、CPIは1.0%と低調ながら、PPIは9.5%と上振れ生産者サイドの強いインフレ圧力が継続していることが示されました。主に中小企業で構成される中間業者のコスト吸収力に厳しさが増す中、中国人民銀行は5兆円に上る中小企業支援枠を設定し、低利での借り換えを促すと発表しました。

 

 米国でもPPIが上振れて6.7%となり、こちらも生産者側からの強いインフレ圧力が継続していることを示しました。次週は9/14に米CPIの発表がありますが、後述の考察も含めて注目したいと思います。

 

また、ECB、カナダ銀行による政策金利発表がありました。

ECBは「テーパリングでない」としながらもPPEPの購入ペースを減速させることを表明、カナダ銀行は7月に減額決定した国債購入額を20億ドルのまま維持することを表明しました。

引き締めに傾きながらもデルタ株の影響に配慮し、強くは踏み込まない政策となりました。

 

 

【先週の振り返りと考察】

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 先週の株式指数は欧米指数が軒並み軟調に推移する中、日経平均と中国株は前週に続き大きく伸びました。

日経平均は新政権の財政政策期待で買いが買いを呼び、8/20の直近底値から15営業日で12.47%の上昇となりました。

上海総合指数は、中国人民銀行の5兆円規模の中小企業に対する借換え融資枠設定や、預金準備率の更なる引き下げなどの金融緩和政策が続く期待から内需関連株を中心に伸び、7ヶ月振りに年初来高値を更新しました。

欧米株は金融引き締めに向け利確売りされる中、日中は財政、金融の緩和期待で資金が流れる構図となっています。

ただ、既に日経平均も年初来高値を狙えるポジションにあり、これ以上を臨むには更なるエネルギーが必要だと思われ、欧米株が軟調に推移する状況では難しいように思います。

 

 

〜9月FOMCでのテーパリング決定の可能性〜

 9/3の米雇用統計のネガティブサプライズによって、9月FOMCでのテーパリング決定が遠のいたと想定されましたが、予想に反して先週もFRB高官による早期テーパリング開始を肯定する発言が相次ぎました。

特にパウエル議長に倣いこれまでハト派として見られていた、NY連銀総裁とボウマン理事が初めて年内テーパリングを容認する発言を見せました。

 これを見て、私は9月FOMCでのテーパリング決定の可能性も低くはないと思い始めました。

 

データで現状を振り返ってみます。

下記は米CPIコア指数を1年前まで遡り平均したものです。

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 現在、FRBは「期間平均で2%をやや超えることを容認する」という政策を取っていますが、その「期間平均」が1年であると仮定して表にしてみるとこのような推移となります。

既に1年平均では目安である2%は超えており、仮に8月のCPIコア指数が予想値である4.3%で推移すると、さらにその上昇傾向は強くなります。(4.3%だと2.57%)

 

また先週、CPIに先んじて生産者側から見た物価指数である8月PPIコア指数が発表されましたが、前回6.2%、予想6.6%に対して結果6.7%と強い数値となっています。

下記は米CPIコア指数とPPIコア指数の推移を並べてみたものです。

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足元では7月のCPIコア指数は減速傾向を見せていますが、PPIコアは強い右肩上がりを続けています。
PPIコアの数値がそのままCPIコアの数値に繋がるわけではありませんが、生産者の出荷時点での価格が上昇していることは、コスト起因の好ましくないインフレ圧力が継続することを意味していると考えられます。

 

また、先週発表されたJOLT求人件数からは、求人数は急増しているものの採用者数が追従していない、求人と採用のアンマッチが拡大していることが示されました。

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求人数と採用者数のアンマッチから、9/3の雇用統計の弱さは、南部でのデルタ株の蔓延や現在失業者の多くが受けている緊急パンミック失業者支援による一時的なもの、と考えられます。

特に失業者支援は9月に終了することを考えると今後は労働者が雇用市場に戻り、徐々に改善されると考えられます。

 

すなわち現在の状況は様々なノイズによって正確に捉えにくいものの、インフレ圧力は継続し、かつ雇用需要も順調に回復しており、テーパリングへの環境が整いつつあると言えます。

 

9/3の雇用統計の予想外に弱かったことから、現在は9月FOMCでのテーパリング開始決定がないことが市場のコンセンサスとなっている気がします。

しかし、上記に述べた指標的な環境と、止まらないFRB高官のテーパリング発言から、私は9月FOMCでのテーパリング決定、10月ないし11月開始のサプライズも十分有り得るのではないかと思います。

 

これらのテーパリング懸念を反映してか、堅調に推移すると思われた欧米株式は軟調となっています。日本株が好調さを見せていますが、FRBがテーパリング決定を発表すれば日本株も調整となると思われ、敢えてリスクを取りに行く必要はないと考えます。現状の先進国株式50%、債券30%、現金20%のポートフォリオを維持して様子を見たいと思います。

 

以上