投資家見習いのブログ

世界の地政学的リスクと経済指標を独自の数値で可視化し、マーケットを語ります。

【9/20-9/24週の世界のリスクと経済指標】〜国際問題の舞台と化したTPP〜

先週の評点:

 

リスク   -3点(42点):悪化 (基準点45点) 

経済指標  -15点(72点):大幅悪化 (基準点87点)

 

 

【リスク】

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※新型コロナ関連を項目1にまとめ、新たなリスクとして中国の統制強化を項目2に加えました。

 

 先週のリスクはマイナス3ポイントの悪化となりました。

不動産開発大手の中国恒大集団の社債に対する利払いが行われず、デフォルトリスクが高まりました。

仮にデフォルトしたとしても影響は限定的で、世界的な金融危機には繋がらないとの見方が大勢ですが、中国当局の関与も見えづらいなか、同様に負債を抱える他の不動産開発会社へ波及が心配されます。

 

米欧関係では、欧州軍の創立への支持を条件に、国連安保理常任理事国のポストをEUに引き渡すことを仏大統領が検討しているとの報道がありました。

仏政府は即座に否定しましたが、そのような報道が出るほど仏政府の米国からの独立志向が高まっています。

今週はドイツで総選挙が行われますが、下馬評通りSPDドイツ社会民主党)が第一党となった場合、ドイツでも欧州軍の創立に向けた動きが活発化してくると思われます。

 

また前週に中国がTPPへの参加申請を表明しましたが、先週は台湾も表明し、一気に国際問題化してきました。※こちらは後述します。

 

 

【経済指標】

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 先週の経済指標はマイナス15ポイントの大幅悪化となりました。

欧米PMIが全て下振れとなり、足元での景気減速が鮮明となりました。

特にドイツのPMIの低下が大きく、半導体不足からの自動車減産の影響や中国景気の急減速が示されました。

 

注目の米FOMCは、次回11月FOMCでのテーパリング決定、22年半ばでの完了の可能性が示唆されました。またFRB当局者の金利見通しのドットチャートでは、22年中の利上げ予想者が半数となり前回より利上げ時期が前倒しとなりました。

 

 

【先週の振り返りと考察】

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 先週の株価指数は、週明けに中国恒大集団に対するデフォルト懸念から株価が下落し、S&P500は50日線を大きく割りましたが、その後反発し終わってみれば堅調に推移しました。

心配されたFOMCもほぼコンセンサス通りとなったため、株価指数は大きく反発し無難に乗り切った印象です。

一方で中国恒大集団などの不動産株を中心に売りが激しかった香港ハンセン指数は、2週連続で大幅安に沈みました。

 

今回のFOMCでは、テーパリングに関する時期が11月開始、22年半ばに終了と明確化されたにも関わらずマーケットの反応は下向きではありませんでした。そのことから当面の不透明感が払拭されテーパリングが織り込まれたと解釈しました。

そのため長期投資では、待機資金としていた現金20%のうち10%分を、FOMC後にMSCIコクサイインデックスへ振り分けました。

今後長期金利が急激に上昇する場面には気を付ける必要はありますが、基本的にはまだ金融相場であり、FRBによる利上げ発表までは株式60%のポートフォリオを維持、また下押しする場面では押し目を拾ってもう少し株式の割合を増やしていきたいと思います。

 

 

〜国際問題の舞台と化したTPP〜

さて、9/16に中国がTPPへの加入申請を正式表明しましたが、続いて9/23に台湾も加入申請表明を行いました。そのため、TPPが一気に複雑な国際問題の舞台と化してきた印象です。

 

TPPへの参加は全加盟国の承認が必要ですが、加盟国は両国に対する態度を明確化しなればならず、対立する中国、台湾のどちらを取るか「踏み絵」状態となっています。

9/25時点での各加盟国の中国、台湾の加盟申請に対する反応は下記の通りです。

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日本、豪州などの中国と距離のある国は台湾を歓迎しながらも中国の参加には慎重な姿勢を示しています。

一方で中国と関わりの深い東南アジアの国々は、意外にも中国を歓迎しています。

 

台湾の参加表明は、中国の参加表明に釣られた感じありますが、そもそも中国のこのタイミングでの参加表明も目的が見えづらい状況です。

 

以前も書き記したRCEPTPPの関係性をまとめたものを添付します。

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 中国は自らが主導しながら既にRCEPの枠組みを作り上げていますが、そのRCEPでカバーできていないTPP加盟国はカナダ、ペルー、チリ、メキシコの4カ国です。

そして中国は、ペルー、チリとは既に二国間FTAを締結済みで必要ありません。

残るはカナダとメキシコですが、こちらは2018年11月に締結されたUSMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)によって「非市場経済国」(=中国)とのFTA締結を制限されています。

米国との関係性を考えると両国が中国とのTPPを含めたFTAを締結することは有り得ないと思います。

そう考えると、現状中国がなし得る貿易協定としてはRCEPの枠組みで十分であり、実務的には中国にとっても加盟国にとっても加入するメリットが見当たりません。

 

また、そもそもTPPは国有企業の優遇を禁止していますが、中国は国営企業重視の経済へと転換を図ろうとしている最中であり、そのルールとは逆行している状況です。

つまり今回の中国のTPP参加表明は実務的な需要はなく、単なる政治的なアピールであることは明白です。

 

中国のTPP参加表明に前後して、AUKUSにより豪州の原潜配備が発表され、EUもインド太平洋戦略を発表し、台湾との通商交渉や海路の確保を行うとされました。

恐らく、遠い西側諸国からの対中包囲圧力が徐々に拡大していることに反発し、「インド太平洋地域は中国の縄張りである」と主導権をアピールするためにTPPという枠組みが使われたのだと考えます。

 

そこに中国にとって最もセンシティブな台湾が予想外に参画したことによって、加盟国の支持獲得争いの様相を呈しています。

 

しかし、原点に立ち返れば、西側諸国にとっては対中包囲網の一環として作り上げたTPPであるため、日豪NZ、カナダ(メキシコ)の西側の国々は冷静に「中国はTPPのルールに適さない」と示し合わせて承認しなければ良い話だと思います。

 

同時に台湾に対しても、各国が取る「一つの中国」という原則に基づき、中国と合わせて「両国を承認しない」という選択肢が一番妥当だと考えます。

 

以上