投資家見習いのブログ

世界の地政学的リスクと経済指標を独自の数値で可視化し、マーケットを語ります。

【9/27-10/1週の世界のリスクと経済指標】〜米欧の綻びが見えた9月〜

先週の評点:

 

リスク   -1点(44点):小幅悪化 (基準点45点) 

経済指標  +2点(89点):小幅良化 (基準点87点)

 

 

【リスク】

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 先週のリスクはマイナス1ポイントの小幅悪化となりました。

新型コロナは世界的に新規感染者数が減少傾向になっている中で、米メルクが経口治療薬の良好な結果を発表したことで、医療資源を圧迫することなく治療できる可能性が高まりました。

 

一方で中国の統制強化の影響で電力不足が恒常化してきており、影響が拡大してきました。世界の工場である中国の製造業の稼働率が電力不足から低下しており、今後更なる供給不足からの世界的なインフレ圧力を生む可能性が出てきました。

 

また政治面ではドイツで総選挙が行われ、メルケル首相の所属するCDU・CSU中道左派SPDに第一党の座を譲ることとなりました。今後各政党による連立交渉が行われますが、SPDによる政権樹立が有力視され、内向き志向が強まる可能性が高まりました。

 

また、リストには記載していませんが、米政権の債務上限問題も依然解決されず、米債務がデフォルトとなる期限が10/18に迫ってきました。

 

 

【経済指標】

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 先週の経済指標は注目の8月PCEコアデフレーターは予想3.6%に対し3.6%と予想通りとなりました。

FRBはこれまで高いインフレ率は一時的というスタンスを主張してきましたが、4月に2%を超えて以降、5ヶ月連続で3%を超える数値が示されています。

主に半導体不足や原料高、輸送費高、人手不足などの供給サイドの目詰まりが原因となりますが、中国当局の統制強化による人為的な要因も重なり、今後もインフレ圧力が高止まりする可能性があります。

そうなると利上げタイミングが早くなり景気の下押し圧力となる可能性もあるため、引き続きインフレ指標には注意が必要です。

 

またISM製造業景況指数は前月59.9に対して予想59.6と低下が予想されていましたが、結果は61.1と意外にも堅調な数値となりました。堅調な消費需要やそれに対する在庫の増加が主な要因となり、企業が原材料の枯渇に備えて必要以上のものを購入していることが示されました。

 

次週はISM非製造業景況指数と、注目の雇用統計があります。

米金融政策の基準となる雇用統計において上乗せ給付金が9/6で終了した影響がどのように出るか注目されます。

 

 

【先週のマーケットの振り返りと考察】

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 先週の主要国株式指数は大きく調整しました。

先週は債券市場が「インフレは一時的なもの」とならない可能性を織り込み始めたことで長期金利が一時1.55%まで急激な上昇を見せ、その圧力に押されたハイテクグロース株が激しく下落しました。

また、中国景気の減速や電力不足、中国恒大集団などの不動産問題、米国の債務上限問題や3.5兆ドルのインフラ法案の行き詰まりなど、重しとなる課題が山積みとなり終始重苦しい雰囲気となりました。

金曜日にはISM製造業景況指数の上振れや米メルクの経口コロナ治療薬の明るいニュースでやや戻したものの、引き続き不透明感が残ります。

金利も足元では落ち着きを見せ1.5%を下回っていることから、次週は一旦は戻りを試す展開となると思われますが、雇用統計が上振れる結果となった場合は再び下目線となると思われます。

 

 

〜米欧の綻びが見えた9月〜

トランプ政権時にEUで進んだ「安全保障上の米国からの自立」議論ですが、バイデン政権が発足直後から米欧同盟重視として関係回復に努めてきたため、落ち着きを見せていました。

しかし、この9月は米国側からは「インド太平洋重視、EU軽視」、EU側からは「米国からの自立」の姿勢が公になり、両陣営の溝が再び鮮明になりました。

 

まず米国側ですが、9/15にAUKUSとして英豪との安全保障上枠組みを発表しました。

そして9/24には立て続けに日豪印とのクアッド首脳会議をワシントンで開催しました。

私はこれを見て、米国のインド太平洋戦略は、①強力な安全保障は米英豪の「AUKUS」、②豪に日印を加えたより広範囲な協力は「クアッド」とし、この二つの枠組みを中心に進めるのが基本戦略であると理解しました。

そして現在の米国にとって最重要とされているのはインド太平洋戦略であり、AUKUSでフランスが軽視されたように、優先されるのはその地域にある国々との連携である、という認識を持ちました。

すなわちインド太平洋地域からは遠く離れ、地政学的な利害が薄く対中姿勢も曖昧なEU諸国との連携は、もはや必要条件ではないのだと思います。

 

一方でEU側でもフランスを軸に動きが加速しました。

9/15にはEUのフォンデアライエン委員長が、加盟国間で安保情報を共有する新組織を立ち上げ、EUの安全保障分野での統合を進める意向を表明しました。

兼ねてから「欧州統合強化」を主張するフランスが22年前半には議長国となるため、米国に依存するNATOとは別の「EU軍」設置の議論も加速する見込みとなっています。

 

9/26にはドイツの総選挙が行われ、第二政党であったSPDドイツ社会民主党)が第一政党に躍進しました。

今後SPDを中心に連立政権樹立の交渉が行われていきますが、SPDも「欧州の強化」を公約に掲げており、ショルツ氏が首相となればマクロン大統領が重視する統合強化路線の追い風となると言われています。

 

また9/28には仏がギリシャに対してフリゲート艦を供給する契約を結んだと発表しました。

その席上でマクロン大統領は、欧州は国防の自律性を高めるべきであると発言し、米国依存からの脱却を示唆しました。
NATOに加盟するギリシャとトルコは東地中海でのエネルギー資源で対立していますが、 フランスがEU加盟国であるギリシャを優遇することは、NATOよりもEU重視を示唆するものとなります。

 

今回の両陣営の綻びは、アフガン撤退を始めとした米国のEUに対する配慮に欠けた行動に端を発すると思われます。しかし、それに対抗してEU側でもフランスに煽られる形で米国依存からの自立への動きは止まらなくなっています。

そうなると今後、お互いにNATOとしての同盟が軽視されることで対中政策で足並みが揃わなくなる可能性があり、中国に対する西側諸国としての圧力が弱まることは間違いありません。

 

戻りかけた西側諸国の連携に再び綻びが見え始め、国際政治の難しさを意識させられた月となりました。

 

以上