投資家見習いのブログ

世界の地政学的リスクと経済指標を独自の数値で可視化し、マーケットを語ります。

【12/13-12/17週の世界のリスクと経済指標】〜分かれる金融政策と難しいECBの状況〜

先週の評点:

 

リスク   -2点(34点): 悪化 (基準点36点) 

経済指標  -15点(114点):大幅悪化 (基準点129点)

 

 

【リスク】

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 先週のリスクはマイナス2ポイントの悪化となりました。

元々拡がりを見せていたデルタ株にオミクロン株の強い感染力も加わり、欧米を中心に新型コロナの拡大が強まりました。英国では過去最多の9.3万人が感染し、米NY州でも2.2万人を超え、イベントのキャンセルが相次いでいます。ワクチン接種の拡大で重症化は抑えられているものの、オランダでは全国規模のロックダウンの開始が発表されており、この先他国も行動制限に追随するか注意が必要です。

 

ウクライナを巡る情勢では、米政権が独露のノルドストリーム2の稼働を阻止することも辞さないとの方針を示し、欧州のエネルギー問題にも発展してきました。

また、それに対しロシア外務省は米欧との緊張緩和に向け、NATOの拡大停止要求を盛り込んだ新たな安全保障案を公表しました。米欧は協議し、次週内には何らかの返答をするとしていますが、事実上の東欧からの軍事撤収もなども含まれており、協議は難航しそうです。

 

 

【経済指標】

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 先週の経済指標はマイナス15ポイントの大幅悪化となりました。

先週は多くの指標の発表がありましたが、注目は米FRBの金融政策発表でした。

FOMC後の声明では①テーパリング早期終了への加速、②22年3回、23年3回、24年2回の利上げ見通しが示されました。

11/30のパウエル議長発言にて既にFRBタカ派に政策転換することは示されていましたが、利上げ見通しはよりタカ派となった印象です。

FRBが強いインフレ継続の可能性を認識し、その対抗策の準備を急ぎ始めた重要な転換点となりました。

 

 

【先週のマーケットの振り返りと考察】

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 先週の株価指数は全体的に反落となりました。

米株指数は米FOMCを前に持高調整でハイテク株中心に反落、FOMC直後にはイベント通過の安堵感からかハイテク株が大幅反発しましたが、その後再び失速し大幅反落とボラティリティの激しい週となりました。

一方でFOMC直前の12/14から12/17の値動きで見れば、ダウ平均は0.5%安、S&P500は0.29%安、ナスダックは0.45%安と小幅な下落に留まっており、今の所は引き締めによる影響は限定的で不透明感が払拭されたことの安心感の方が勝っているような印象です。

とは言えこの週末にオミクロン株の拡大が顕著になった事もあり、引き締め政策と相まって次週もハイテク、シクリカル共に株式には重い展開となることが予想されます。

 

 

〜分かれる金融政策と難しいECBの状況〜

 先週は米FRB、英BOE、欧州ECB、日銀の先進国の主要中央銀行の金融政策発表がありました。

各国でインフレが高進する中、FRBBOEなどは緩和政策から引き締めへの転換への姿勢が明確になりましたが、一方でECBや日銀からは緩和政策の継続が示され、各地域によって統一感のない方針となりました。

下記は先週示された主要中央銀行の金融政策の一覧です。

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BOEはコロナショック以降で主要先進国初の利上げ、米FRBはテーパリングを倍増に加速し、22年に3回の利上げ見通しを示しました。

一方で欧州ECBと日銀は量的緩和は縮小するものの正常化の時期ではないとして利上げに対しては慎重な姿勢を示しました。

 

上記以外では先週ノルウェー中銀やメキシコ中銀でも利上げが行われ、世界的にはインフレ抑制のために金融正常化がトレンドとなってきている様に感じられます。

日銀は世界的なインフレ下でも0.1%という低いCPIで推移する特異な国であるため、その緩和姿勢の継続は正当化できると考えられます。

しかし、欧州ECBは直近では英国と同水準の4.9%というインフレ指標で示されながらも、22年中の利上げの可能性すら低いとして強い慎重姿勢を貫いているところにやや違和感を感じられます。

 

ユーロ圏の国々の状況を細かく見てみます。

下記はユーロ圏に所属する各国の個別の直近CPIの一覧です。

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一部の国は不明ですが、下はポルトガルの2.6%から上はリトアニアの9.2%とバラ付きが大きいです。中間値としては5%近辺に落ち着いていますが、一部の新興国はインフレが激しく、既に国民の生活はかなり苦しいと思われます。

ユーロ圏という経済共同体である以上は仕方のないことですが、今回の政策方針は、新型コロナが再び猛威を振るう中、域内の大多数の国々の景気回復を優先し、一部の国のインフレ高進には目を瞑ったということでしょうか。

 

また、ECBのラガルド総裁は「現在の高インフレの多くはエネルギー価格高騰と供給の制約による一過性のもの」としていますが、欧州の一次エネルギーとしてシェアの高い天然ガス(シェア24%)の値上がりが続いています。

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その欧州の天然ガスの供給元としてはロシアが最も多く、2019年時点で35.5%となっています。

脱炭素の流れが強くなっている中、CO2排出の少ないブリッジエネルギーとしての天然ガスの需要が増加しており、域内での生産の減少と共ににロシアの影響力は年々増しています。

そんな中、欧州は米国と共にウクライナを巡ってロシアとの対立が激しくなってきており、ドイツとロシアが新たに完成させた「ノルドストリーム2」も米国からの圧力で稼働できず、供給不安が高まっています。

12月に入ってからの欧州天然ガス価格の上昇は、単に厳冬に備えた需給だけでなく、地政学的なリスクも絡んできており、本当にこの状態でエネルギー価格が収まっていくのか、先行きの見通しが難しいところです。

 

これらから言えることは、ECBが多くの国を内包する共同体であることから状況把握が複雑で、また足元では地政学的リスクがエネルギー供給リスクに直結していることから、見通しが非常に難しい状況にあるということです。

 

個人的には現在のECBの姿勢はやや慎重すぎると考え、今回のFOMCにて大幅にインフレに対抗する手段(=利上げ)を拡げたFRBと違い、欧州でのインフレ対応が遅れるリスクが高まったと考えます。

 

以上