【5/9-5/13週の世界のリスクと経済指標】〜欧州の指導力復活の予感〜
先週の評点:
リスク -3点(27点): 悪化 (基準点30点)
経済指標 -8点(48点):大幅悪化 (基準点56点)
【リスク】
先週のリスクはマイナス3ポイントの悪化となりました。
欧州情勢ではロシアのウクライナ侵攻を受けて、これまで中立を保っていたフィンランド首脳が揃ってNATO加盟申請を表明しました。また同じ中立国であるスウェーデンも加盟申請する見込みであり、ロシアが恐れていたNATOの拡大が自らの行いが原因で現実的となってきました。ロシアの反発は必死であり、今後どのような反応があるのか注意が必要です。
また中国のゼロコロナ政策が収束しません。上海市での新規感染者数は減少傾向にありますが、厳格なロックダウンが継続されています。北京でもロックダウンの噂が流れており、今後さらに経済活動への影響が懸念されます。先日のFOMCでも中国のロックダウンによる供給制約が高インフレに影響を及ぼすことを懸念されています。
【経済指標】
先週の経済指標はマイナス8ポイントの大幅悪化となりました。
注目の米国4月CPIは総合指数が前月8.5%からは低下しましたが、予想の8.1%を上回る8.3%となり、ややピークアウトの様相は見せながらもインフレが落ち着き始めるという予想が裏切られる形となりました。
また米国4月PPIも同様に前月を下回るも予想は上回る結果となり、こちらもCPI同様の結果となりました。
ドイツ、ユーロのZEW景況感指数も前回数値よりは改善しましたが、引き続き大幅なマイナスを示し、欧州の景気悪化の状況を示しました。
【先週のマーケットの振り返りと考察】
先週は米国株式が6週連続の反落となりました。
週明けから多くのFRB高官から「6月、7月FOMCでの0.5ポイント利上げ」への支持と共にインフレ抑制のために「痛みを伴う」ことが示されました。そのためFRBがよりタカ派に傾倒していることが意識され株価に重しとなりました。
また4月CPIが事前予想ほど落ち着かなかったことから、FRBのタカ派傾倒が正当化され、それによる景気後退が意識されたことにより株価は大幅に反落しました。
リスクオフから債券への逃避が行われたため、10年債利回りも前週の3.12%から一時2.84%まで低下しながら2.93%で週を終えました。それに連れて為替も大きく動き、ドル円は131円台から127円台までボラティリティの高い週となりました。
前日にナスダック100が12000、S&P500が4000、ダウ平均が32000と揃って節目割れて割高感が薄れたことと、パウエル議長が0.75ポイントの利上げ改めて否定したことで5/13には大幅に反発して週を終えました。
しかし、FRBが、多少の痛みがあろうがインフレを抑えるためになりふり構わず行動する姿勢を見せている以上は、今後より引き締めを強める可能性があります。まずは複数月に渡って明確にインフレが落ち着くのが確認されることが重要だと考えます。
従って引き続き次週も弱気ポートフォリオを継続します。
〜欧州の指導力復活の予感〜
さて、先週はEUのミシェル大統領とフォンデアライエン委員長、フィンランドのマリン首相が訪日し、岸田首相と首脳会談を行いました。
ここ最近、欧州が中心となった積極的な民主主義陣営の連携強化への動きが急速に活発化している印象です。
特に日本への傾倒、またインドへの傾倒が目立ってきている印象です。
以下は日本とインドに対するここ最近の欧州各国の首脳会談の動きです。
まず対日本として、強い印象を残したのは独ショルツ首相の訪日でした。
メルケル首相時代は、親中国として中国の行動に対して明確な批判をしてこなかったドイツですが、政権交代後のアジア初の外遊先を中国でなく日本にを選んだことで、中国から日本シフトへのアジア戦略の変化が鮮明となりました。
また同じくG7で唯一中国の「一帯一路」構想へ署名していたイタリアにおいても、訪伊した岸田首相とドラギ首相が会談し同じ民主主義国家としての価値観を共有しました。そして「自由で開かれたインド太平洋」構想でも協力を約束しました。
イギリスもジョンソン首相が来日し、力による現状変更への反対とともに安全保障協力を強化すると合意しています。
一方、対インドでは3月の岸田首相の訪印に続き、イギリス、EU、ドイツ、フランスと欧州の主要国が相次いでインドのモディ首相と会談し、経済支援を含めた様々な協力関係を構築しています。
アジアの大国であるインドを民主主義陣営に引き入れることは、対露、対中戦略に取っても重要であり、積極的な外交が行われています。
元々中国に対抗するための「自由で開かれたインド太平洋」構想は、「クアッド」として日米豪印が主体となったものであり、欧州からすれば遠い場所での話でした。
しかし、ロシアのウクライナ侵攻を経て強権国家の力による現状変更を目の当たりにしたことで欧州の危機意識が刺激され、今後、インド太平洋地域で懸念される中国の現状変更に対しても対抗意識が高まっていると考えられます。
これはイギリスのブレグジットを始めとして保護主義が蔓延し、欧州自体でもまとまりに欠けて存在感を失くしていた欧州が、再び結束を見せ西側世界での指導力を取り戻そうとしているように見えます。
ロシアのウクライナ侵攻は西側諸国に衝撃と惨劇を与えましたが、一方で欧州の結束力と積極性を復活させ、弱体化する米国の指導力を補完するものとして歓迎すべき変化を与えたとも感じています。
日本も含め、中露に対抗した西側諸国の今後の連携の深化に期待したいと思います。
以上