投資家見習いのブログ

世界の地政学的リスクと経済指標を独自の数値で可視化し、マーケットを語ります。

【6/6-6/10週の世界のリスクと経済指標】〜ECBの舵取りの難しさ〜

先週の評点:

 

リスク   3点(33点):良化 (基準点30点) 

経済指標  -5点(46点):悪化 (基準点51点)

 

 

【リスク】

 先週のリスクはプラス3ポイントの良化でした。

新型コロナは弱毒化により各国で緩和が進み、日本は外国人観光客の受け入れ開始、米国は外国からの入国者への陰性証明の提出義務を撤廃しました。また中国でも主要都市のロックダウンが緩和となり、新型コロナからの脱却が鮮明となってきました。

 

一方で民主主義国と専制主義国の対立軸の中心は、インド太平洋地域へと戻ってきました。

先週シンガポールで行われたシャングリラ会合では台湾を巡り米中国防相が非難の欧州となりました。

また米国防長官は台湾有事に備えて米軍の能力拡大を表明しました。日米首脳会談でのバイデン大統領の台湾防衛への関与明言に続き、米国の台湾への積極姿勢がより明確になりました。

これに対して中国は太平洋諸国への関与を強めており、日本から豪州へ連なる防衛線の分断を図っています。すぐに衝突につながるとは考えられませんが、出方を見ながら、少しずつ互いの領域に足を踏み入れている印象です。

 

 

【経済指標】

 先週の経済指標はマイナス5ポイントの悪化となりました。

注目の米国の5月CPIは前月、予想共に8.3%に対して8.6%とインフレの加速を示しました。FRBは3月から利上げを行っていますが、未だインフレ抑制の効果が見えてきません。

また、ミシガン大学消費者態度指数は予想58に対して50.2と統計開始以来で最低の数値となり、インフレ懸念で消費者の景況感が急速に悪化していることが示されました。

 

また先週は豪準備銀行とECBの政策金利発表がありました。

豪準備銀行は25bpsの利上げ予想に対して50bpsとタカ派な方針を示し、インフレに対して適切な措置をとると表明しました。

ECBも政策金利はゼロ金利を据え置きとしましたが、7月には25bpsの利上げを実施すると表明し、9月には50bpsの利上げも有り得ると示唆しました。

これで日本以外の主要国中銀が利上げを行う方針となりました。

 

次週は6/15に6月FOMC、6/16にBOE政策金利発表、6/17に日銀金融政策決定会合があります。

FOMCBOEは今後の金融政策見通しが注目されます。日銀も他国が引き締め傾向を強め、円安も急進する中、従来の姿勢を崩すことになるのかどうか注目します。

 

 

【先週のマーケットの振り返りと考察】

 先週の株価はアジア株は先週に続き堅調ながら、米国株式は国債利回りの上昇に振られて大幅反落となりました。

6/9にECBが7月、9月での利上げを示したために世界的な引き締めが意識され、米国債利回りも連動して上昇しました。加えて6/10の5月CPIが8.6%とインフレの加速を示したため、FRBが金融引き締めを強めるとの観測で短期国債利回りを中心に大きく上昇しました。

足元のFedWatchの金利予測でも9月FOMCでの75bpsの利上げ、年内金利3.00%が予想されるなど、利上げ加速観測の高まりと共に株価は大きく調整しました。

S&P500は3900.86となり5月19日の終値ベースでの年初来安値3900.79にあとわずかとなりました。

 

一方で中国株式は、主要都市でのロックダウンの緩和に加えて中国当局のハイテク企業への統制が緩和されるとの動きから2週連続で反発しました。

日経も主要国で唯一緩和を継続していることに加え、円安により割安度が増しているため欧米株式に比べて堅調に推移しました。

 

次週はFOMCを迎え、ドットチャートを含めた今後の金融政策の見通しに注目が集まります。

 

 

〜ECBの舵取りの難しさ〜

さて、先週は2016年3月からゼロ金利政策を継続してきたECBが、7月に25bpsの利上げを実施すると表明し、11年ぶりに利上げに踏み切る姿勢を示しました。また、9月には50bpsの利上げも有り得ると示唆しました。

背景には2021年5月に2%に達したHICPが足元で8.1%までオーバーシュートしていることがあります。

 

ECBは、加盟国である19カ国を包括した中央銀行として政策金利の決定やAPPやPEPPなどの債券購入プログラムなどの金融政策を駆使し、ユーロ圏における物価の安定と雇用の創出を図ってきました。

 一方で、それぞれの加盟国の財政政策は各国政府に任されており、またそれぞれの経済力はまちまちで格差を内包しているため、適切な金融政策を打ちづらいとされています。

 

一般的にはドイツ、オランダなどの中欧諸国は経済力が強く、イタリア、スペイン、ギリシャなどの南欧諸国は経済力が弱いとされています。

下記は6/11時点のユーロ圏各国の10年債利回りを低い順から並べたものです。(インターネットで情報入手できたのは19カ国中14カ国)

ECBの7月利上げ表明により各国の10年債利回りは上昇しましたが、経済力=信用力の低い国の債券は売られやすいため、中欧、北欧諸国の利回りに比べて南欧諸国の利回りは高くなっています。

現時点ではまだECBの政策金利はどの国も同様に-0.5%のマイナス金利となっているにも関わらず、これだけの差がついています。

 

 そして今後インフレ対策としてECBが利上げを急ぐと、より南欧諸国の利回り上昇を招き、元々経済力の弱いこれらの国々は資金繰りが悪くなり経済がますます弱っていきます。

一方で比較的経済の安定しているドイツ、オランダは直近CPIが7.8%、8.9%と高水準となっていながら、イタリアは6.9%とHICPより低水準となっています。(ギリシャは、経済が弱すぎるのでCPIも高く11.3%)

インフレ高進で利上げを急ぎたいドイツ、オランダに対して、インフレはまだ耐えれて利上げが困るイタリアの構図が考えられ、ECBは両方に配慮をしなければならなくなります。

つまりはインフレ抑制のために利上げを急いで南欧経済が破綻するか、南欧経済を守るために利上げを弱めインフレ加速を招くか、ECBは今後難しい選択を迫られることになります。

 

個人的にはECBの使命である「ユーロ圏の物価の安定」という原点に立ち返り、まずはインフレ抑制を強めると考えます。そうなると南欧諸国の経済が弱まることとなるため、そこをきっかけに欧州経済が綻び、景気後退する可能性が高いと思います。

今後は欧州経済の動向にもより注意を払う必要があります。

 

以上