投資家見習いのブログ

世界の地政学的リスクと経済指標を独自の数値で可視化し、マーケットを語ります。

【8/29-9/2週の世界のリスクと経済指標】〜インフレとポピュリズムの親和性〜

先週の評点:

 

リスク   -3点(27点):悪化 (基準点30点) 

経済指標  -2点(96点):小幅悪化 (基準点98点)

 

 

【リスク】

 先週のリスクはマイナス3ポイントの悪化となりました。

オンラインで行われたG7財務相会議にて、ロシア産原油に対して価格上限を設ける追加制裁の枠組みが12月に導入することが合意されました。具体的には、上限を超える価格で取引されたロシア産原油や石油製品を運ぶ船舶に保険を提供しないよう保険会社に義務付けるとしています。

その決定に対抗してか、ロシアのガスプロムは保守点検で停止中だったノルドストリームに関して、オイル漏れが見つかったとして停止を継続することを発表しました。

エネルギーを巡って、西側諸国が揺さぶりをかけていますが、ロシアも即座に対応しており実効性が疑われます。

 

 

【経済指標】

 先週の経済指標はマイナス2ポイントの小幅悪化となりました。

米国の8月雇用統計はNFPが予想30.0万人に対して31.5万人となり底堅さを見せました。

失業率は前回3.5%から3.7%へと上昇しましたが、労働参加率が前月から0.3%上昇したことが影響したと思われ、こちらも底堅さを見せた印象です。

またISM製造業景況指数も前月52.8に対して52.8と横ばいとなりました。

 

一方で先週発表された欧州のCPIはインフレの加速を示しました。ドイツCPIは、前月には7.6%→7.5%と減速を示していましたが、再び7.9%に加速を示しました。

ユーロ圏のHICPも前月8.9%から9.1%と上昇、PPIも前月35.8%から37.9%へと加速しました。

米国ではインフレ率が減速を示し始めていますが、欧州では直接的にロシアからのエネルギー供給が細っているためインフレが収束を見せません。

 

 

【先週のマーケットの振り返りと考察】

 先週の主要株式指数は、前週に続き大幅に反落しました。

米国市場では、前週のジャクソンホールでのパウエル議長によるタカ派発言に加え、多くのFRB高官がそれに追随する発言を行ったため、9月FOMCでの0.75bpの利上げ観測が高まりました。そのため10年債利回りは一時3.3%に迫り、また2年債利回りも一時3.5%を超える水準となりました。

ドル円も140円の大台を超えドル高が進みました。

8月雇用統計の失業率が上昇したことで強い引き締め観測が後退し、週末にはやや金利は落ち着きを見せましたが、金利感応度の高いナスダックを中心に、株価指数は大きく崩れる結果となりました。

 

 

〜インフレとポピュリズムの親和性〜

 さて、先週はユーロ圏およびユーロ圏主要国の消費者物価指数の発表がありました。

結果は下記の通りです。

フランスは高水準ながらも政府による積極的なインフレ対策でやや減速が示されていますが、ユーロ圏全体、ドイツ、イタリアは加速が示されました。

エネルギーを自給出来る米国では8月は減速してピークアウトの様相を見せていますが、エネルギー供給を他国に依存する欧州では、ロシアからのエネルギーの供給減を受けて依然ピークアウトが見えません。

 

そんな中、欧州ではポピュリズムが再び台頭しつつあるように感じられます。

イタリアではコロナ禍からの経済回復を主導するために大連立で誕生したドラギ政権が崩壊し首相が辞任、9/25に行われる選挙に向け各政党が論争を繰り広げています。

現在優勢が伝えられているのは右派連合で、その中心となっているのが極右政党「イタリアの同胞」です。

党首のメローニ氏はEUの正当性に疑問を投げかけ、内向きなバラ撒き政策を訴えています。またネオ・ファシズムと関連が強く、反移民や家族主義、同性婚の反対を支持するなど保守色を強めています。

そして「この国を抑圧してきた権力システムから解放する」と対エスタブリッシュメント姿勢を明らかにし、ポピュリズムで国民からの支持を集めています。

 

この流れはイタリアのみならず、他国でも表れています。フランスでは6月の下院選挙によって極右、極左政党が躍進する一方で中道の政権与党は議席過半数割れとなっています。

またEUからは離脱しましたが、イギリスでもジョンソン首相辞任に伴う党首選挙で即時の減税を訴えるなど、よりポピュリズムを前面に打ち出しているトラス氏が優勢となっています。

 

ここから見えてくるのは、インフレとポピュリズムの親和性です。

グローバリズム新興国の安い賃金を求めたことによって資本家と一般民衆の格差が広がり、労働者を優先してくれるポピュリズムが拡大するきっかけになりました。コロナ禍での金融緩和や莫大な財政支出で一旦落ち着いたかに見えましたが、今度はインフレによって一般民衆の生活が急速に圧迫されています。そしてその苦しさから再び他者に対する無関心や不寛容が拡大し、ポピュリズムを台頭を後押ししている様に感じます。

 

このまま高いインフレが続き、国民の無関心や不寛容が拡大しポピュリズムが再び拡大すれば、コロナ前の様な一体感のない西側諸国への回帰を促すような気がします。

それが意味するのは、EUという枠組みの中での金融・経済政策の緩みや、ロシアや中国などの専制主義国に対する外交政策の緩みに繋がるとということだと思います。

 

一体感が必要な欧州で、経済的にも弱いイタリアがポピュリズムに傾倒すればが欧州全体が政治・経済の両面で混乱する可能性があり、懸念すべき状況であると思います。同時にインフレの高進による一層の民主主義の退潮が懸念されます。

 

以上