投資家見習いのブログ

世界の地政学的リスクと経済指標を独自の数値で可視化し、マーケットを語ります。

【2023年12/18-12/22週の世界のリスクと経済指標】

先週の評点:

 

リスク      0点(33点):中立 (基準点33点) 

経済指標    +5点(62点):良化 (基準点57点)

 

【リスク】

 先週のリスクはプラスマイナスゼロの中立でした。

先週は米PCEデフレータが示されましたが、予想を下回り2.6%と2%台に突入してきました。FRBがインフレ指標として重要視するPCEデフレータでの2%台突入は、前週のFOMCでのハト派転換を裏付けるものであり、ようやくインフレが終焉に近づいていることが示唆されました。

 またイスラエルとの戦闘が続くガザでは死者が推計2万人を超えたと伝えられています。物資不足による市民の飢餓も深刻となっており、国連安保理では何とかガザへの人道支援決議が採択されましたが、米国のイスラエル擁護の姿勢が根強く、今後も国際的支援の実行が難航する可能性が残っています。また、イランが支援するフーシがガザ攻撃への報復として紅海を通る船舶に対して攻撃を行い、民間船舶が大幅な迂回ルートを取らざる得ない状況にもなっています。中東情勢の混乱が世界的な物流にも影響する事態となっています。今のところエネルギー価格の上昇への影響は限定的となっていますが、長引くと再びインフレ原因となる可能性があるため注意が必要です。

 

【経済指標】

 先週の経済指標はプラス5ポイントの良化となりました。

先週は米PCEデフレータの発表がありましたが、下振れとなりインフレの終焉が近いことが示されました。

 

【先週のマーケットの振り返りと考察】

 先週の株価指数は、概ね堅調に推移しました。

米株主要3指数は、前週のFOMCでのFRBハト派転換を引き継ぎ8週連続上昇となりました。またPCEデフレーターが下振れし、予想以上にインフレ鈍化が進んでいることが示されました。今後は景気を冷やし過ぎない様にコントロールしていくことに主眼が置かれると思われ、利下げ期待が高まってきました。ついては引き続き株式7割の強気のポートフォリオを維持します。

 

先週の株価の動きの要因は下記の通りです。

・前週のFOMCでのFRBハト派転換を追い風に反発。

・高値警戒感を挟むも、PCEデフレータの鈍化期待から反発。

 

先週発表されたPCEデフレータは、前月3.0%、予想2.8%に対して2.6%と下振れし、2%台に突入しました。また前月比でもマイナス0.1%と20年4月以来のマイナス水準となりました。コア指数はまだ3.2%と2%台には至っていませんが、こちらも時間の問題だと思われます。

 以下は実質金利の推移です。今回は時系列がわかりやすいようにFF金利下限からインフレ率(PCEデフレータ)の数値を引いた物を実質金利としています。

 

 

 23年の2-3月にかけて実質金利が0%を超え、そこから足元では2.65%まで上昇しています。23年6月から9月頃まではインフレ率の下がり方が落ち着いていたため、踊り場となっていましたが、10月-11月ではインフレ率が再び大きく切り下がってきたことを受けて再び上昇を強めています。

これを見る限り既に金融環境は引き締まっており、このペースで行くと逆にインフレターゲットである2%を下回ってオーバーシュートする可能性も出てきました。

 先日のFOMCでのパウエル議長のハト派転換は、やや唐突感がありましたが、この推移を見ると納得感が出てきます。マーケットは来年に3月からの利下げを織り込んでいますが、そろそろブレーキを弱め始める時期としては適切なのかも知れません。

いずれにせよ、FRBも来年に利下げが必要だと考えており、それを裏付けるデータも示されたことで次のFRBのアクションは利下げとなります。株価は11月から8週続伸しており、短期的には現在の水準への「慣れ」が必要な時期にも感じられますが、利下げが見えている限りは上昇基調が継続すると思われます。従って引き続き強気ポジションを維持します。

 

以上

【2023年10/30-11/3週の世界のリスクと経済指標】

先週の評点:

 

リスク      5点(38点):良化 (基準点33点) 

経済指標    -19点(116点):大幅悪化 (基準点135点)

 

【リスク】

 先週のリスクはプラス5ポイントの良化となりました。

先週は米国の雇用統計やISM景況指数で久しぶりに全ての指標で悪化が示され、米国の景気が緩やかに後退していることが示されました。FOMCでも長期金利の上昇での金融環境の引き締まりから追加利上げの必要性の低下が語られ、FRBと経済指標の方向性が同調してきている印象です。このままCPIの数値の低下に繋がるか注目されます。

 また、長らく交渉が行われていましたが、11月にワシントンで行われるAPEC首脳会合にて、バイデン大統領と習近平主席の米中首脳会談が行われることで原則合意されました。大統領選を控えながら支持率が低迷しているバイデン氏と、低迷する経済の起爆剤として欧米との経済的な関係回復を望む習氏の打算が透けて見えます。しかし、2大国間の関係が改善することは偶発的な衝突を避けるためにも歓迎されることであり、会談の内容に注目したいと思います。

 

【経済指標】

 先週の経済指標はマイナス19ポイントの大幅悪化となりました。

先週はFOMCがあり米国政策金利が据え置きとなりました。また重要指標であるISM製造業/非製造業景況指数や雇用統計の3指標で悪化が示され、インフレ率の鈍化が期待される結果となりました。

先週は欧州の指標も多く発表され、ドイツ、ユーロ圏のCPIも順調に鈍化する一方で、ドイツGDPはマイナス成長、ユーロ圏GDPは辛うじてプラスと、低迷している経済状況も示されました。

 

 また日銀金融政策決定会合では長期金利が1%を超えることを容認する内容にYCCを修正しました。

しかし、今回の日銀の政策変更は、円安を気にした修正の可能性が強くやや疑問が残ります。日銀の使命は物価の安定ですが、現在のインフレはコストプッシュインフレであって本格的な実質賃金の上昇を伴ったインフレには至っていません。そんな中、足元で円安が輸入物価を押し上げ物価上昇の原因となっているからと言って、日銀が円安修正を意識し引き締め方向に走るのはやや筋違いだと思います。あくまでも引き締め方向の政策を取るのは実質賃金の上昇を伴ったインフレが強まった時であり、足元の状況ではないと考えます。

 

【先週のマーケットの振り返りと考察】

 先週の株式指数は米国株式を中心に大きく反発しました。

先週は、FOMCを無事に通過した安心感と米国の重要経済指標が軒並み悪化を示したことで「悪いニュースは良いニュース」となり今後の利上げ観測が大きく後退し大幅な反発を示しました。ついてはファンダメンタルはマーケットのシナリオ通りの展開となっていると認識し、先週ナスダック100を10%増やした強気のポートフォリオを継続します。

 

 先週の株価の動きの要因は以下の通りです。

・前週の大幅反落からの自律反発でセンチメントが改善。

FOMCにて金利据え置き、かつ長期金利上昇に伴う金融環境の引き締まりに言及されたことで安心感が広がる。

・次週の国債の四半期入札の規模が予想よりも緩やかだったことで金利の低下を後押し。

・ISM景況指数が低下、また雇用統計もNFP/失業率/平均時給の全てが緩やかに悪化を示し、米景気過熱の収束が示される。

 

 注目のFOMCでは事前の予想通り利上げ据え置きとなりました。またパウエル議長の会見では、追加利上げの選択肢は残しながらも、長期金利の急上昇により追加利上げの必要性が低下しているとのハト派姿勢が示唆されました。パウエル議長は10/19の講演では「金融環境の変化が根強く続けば、金融政策の道筋に影響を与え得る」としか語っていませんでしたが、今回は明確に「追加利上げがない可能性」を示唆しました。これを受けて長期金利は下がり、FedWatchは足元で90%以上の確率で今後追加利上げなし、また5月FOMCからの利下げを織り込んでいます。

 

 またそれを裏付ける様に、先週発表された経済指標は軒並み悪化を示しました。

まずISM景況指数ですが、製造業が前月/予想49.0に対して46.7と再び3ヶ月振りの水準に低下しました。また非製造業も前月53.6から51.8に低下し、米国の景況感が確実に悪化してきていることが示されました。そしてそれに連動して雇用統計も悪化を示しました。NFPは予想18万人に対して15万人で下振れ、平均時給も予想0.3%に対して0.2%と小幅な増加、失業率は予想3.8%に対しFRBが目標水準としている4%に肉薄する3.9%となりました。これまでの雇用統計では3指標のどれかが良くてどれかが悪いというようなまちまちな状況が続いていましたが、久しぶりにNFP/失業率/平均時給の3指標が揃って悪化を示しました。

 

 一方でどれも激しい悪化ではなく、堅調な経済を維持しながら緩やかな後退を示しています。唯一ISM製造業景況指数の悪化がやや急激に見えますが、これはUAWのストの影響が出ていることが考えられ、実際の悪化幅はもっと緩やかであったと推測されます。つまり先週発表された指標は「良くないながらも悪すぎない」ものであったと考えられます。それは「高金利でもインフレ指標はゆっくり低下し、米国景気は堅調に推移する」というマーケットのシナリオにパーフェクトに応える内容だったと思います。従って長期金利は低下し、株式は大幅反発という結果になったと考えます。

 

 11/14のCPIまで需要な経済指標の発表がなく注目の大手ハイテク企業決算も終えたため、次週は材料難から株価は一旦フラフラすることが予想されます。次週もパウエル議長の発言が予定されていますがそれも先週のスタンスが変更することはないと思われ、影響はないと思います。中東情勢などの地政学的な材料に振り回される可能性もありますが、金融面での基本シナリオに変化はないため、現在の強気のポートフォリオを維持します。

 

以上

【2023年10/23-10/27週の世界のリスクと経済指標】

先週の評点:

 

リスク      -2点(31点):悪化 (基準点33点) 

経済指標    +4点(100点):良化 (基準点96点)

 

【リスク】

 先週のリスクはマイナス2ポイントの悪化となりました。

中東情勢は27日にイスラエル軍がガザへの攻撃に関して「地上部隊が今夜作戦を拡大している」と述べたため、地上侵攻が本格的に開始する可能性が高まっています。またネタニヤフ首相も「戦争は第二段階に入った」と述べており、戦況に変化が出てくる可能性が高いです。既に局地的な地上侵攻が行われていますが、拡大が強まればヒスボラやイランが参戦してくることにも繋がり、局地的な紛争ではなくなります。原油価格や米国の支援拡大へ懸念から米国債価格のボラティリティが上がることも考えられるため注意が必要です。

 またウクライナ情勢に絡んでは、EUに加盟するスロバキアで左派政権が誕生したことで、新首相のフィツォ氏が正式にウクライナへの軍事支援の停止を正式表明しました。同政権はロシアに近く、今後は同じくロシアと距離の近いハンガリーのオルバン政権と近いポジションとなると推測されます。EUの中でのウクライナへの「支援疲れ」が具現化した例であり、今後その他のEUの国々でも波及する可能性があります。またEUの足並みが乱れる可能性が高まっています。

 

 一方で米国では漸く下院議長が決まり、共和党のマイク・ジョンソン氏が選任されました。ジョンソン氏はほぼ無名であり人物像がよく伝わっていませんが、トランプ氏に近い宗教右派であり、キリスト教福音派を母体としているようです。トランプ派らしくイスラエルの支援には前向きでありながら、ウクライナへの支援継続には慎重と伝えられており、直近に控える予算承認での運営方法が注目されます。

 

 

【経済指標】

 先週の経済指標はプラス4ポイントの良化となりました。

欧米PMIは欧州での製造業/サービス業が共に弱さを見せ、欧州景気の悪さが深まっていることが示されました。一方で米国PMIは製造業、サービス業共に基準となる50を回復し、景気の底堅さを示しました。

米PCEデフレーターは総合指数が前月、予想に一致の3.4%となりましたが、コア指数は前月3.8%に対して3.7%と鈍化が示されました。

 また先週はカナダ銀行、およびECBの政策金利発表がありましたが、共に据え置きとしました。特にECBはこれまで11会合ぶりの据え置きとなり、欧州景気の悪化から早期の利下げも見えてきました。

 

 

【先週のマーケットの振り返りと考察】

 先週の株価指数は米国3指数が前週に続き大幅反落となりました。

しかし注目であった大手ハイテク企業の決算自体は悪くなく、金利が高止まりする中でのバリュエーション調整が行われたと解釈できます。ついては買い増しのチャンスと捉え、ナスダック100指数を買い増しします。

 

先週の株価の動きの要因は以下の通りです。

・著名投資家のビル・アックマンが米国債をショートカバーしたことを明らかにし長期金利が低下。

・GOOGL、MSFT、META、AMZNの大手4社はどれも予想を上回る決算も、株価は明暗が分かれる。
 それにより全体的に重くなり相場は反落。

イスラエルがガザでの地上活動を拡大しているとの報道も重し。

 

 先週は週初めに著名投資家で債券弱気派のビル・アックマン氏がこれまでの米国債の売りを解消したと明かしたことで長期金利が一旦の落ち着きを見せました。同氏の発言以降、未だ高水準に貼り付いているものの10年債利回りは節目の5%を超えずに推移しました。

 一方で大手ハイテク企業4社の決算発表は、売上高、EPS共に4社とも上回り好決算となりましたが、投資家の評価はまちまちとなりました。MSFT、AMZNは決算発表後、素直に株価は反発しましたが、GOOGLはクラウド事業の売上高が予想を下回ったことが嫌気され9.51%安、METAはCFOが先行きの不透明さを語ったことで3.73%安と売り込まれました。これらの重い値動きに引っ張られ、株式全体が反落した印象です。

 大手ハイテク企業を中心とした景気自体は、市場予想を全て越えてきたことで堅調さが感じられ、悪くない状況であることが証明されました。また、先週のPCEコアデフレーターの発表でも示されたように、インフレ率は減速しながらも着実に鈍化しています。従って、「高金利でもインフレ指標はゆっくり低下し、米国景気は堅調に推移する」というファンダメンタルは変化していません。

 ただ、やはりここ最近の長期金利の急上昇が、ハイテク株にとってかなり高いハードルになったことは間違いありません。年初来、株式でありながら安全資産的に見られ上昇してきた大手ハイテク株も、ここまでの高い長期金利水準の中では、わずかな取りこぼしでも割高さの方が勝ってしまったと考えられます。しかし、これはあくまでもバリュエーションの調整です。ファンダメンタルの状況は変わっていません。

 ついてはこれをチャンスと捉え、ハイテク株中心のナスダック100指数を買い増します。大手ハイテク企業は、これだけの高金利の状況であっても次々にAIなどの新しい事業モデルを確立しながらしっかりと収益化できており、やはり底力が強いです。もう少し株価がフラフラと下押しする可能性はありますが、決算をきっかけに大きくバリュエーション調整が行われた後であり、長期運用的にはチャンスだと捉えます。

 

ついてはポートフォリオMSCIコクサイ50%、ナスダック100 20%(10%→20%)、外国債券ヘッジあり20% (30%→20%)、金(ヘッジあり)10%に変更します。

 

 次週はFOMCがありますが、おそらく政策金利は据え置きで、パウエル議長のコメントも19日と変わらないと考えます。ビル・アックマン氏など短期筋の動きも変化を示してきています。米下院議長も選任され、米国債下落の一因となっていた政治的な混乱も一旦は落ち着きそうです。FOMCのほか、ISMやJOLTS、雇用統計などもあり盛りだくさんとなりますが、引き続き長期金利の動きに注目していきたいと思います。

 

以上

【2023年10/16-10/20週の世界のリスクと経済指標】

先週の評点:

 

リスク      -5点(28点):悪化 (基準点33点) 

経済指標    +12点(90点):大幅良化 (基準点78点)

 

【リスク】

 先週のリスクはマイナス5ポイントの悪化となりました。

中東情勢はイスラエルのガザ地域に対する報復攻撃が激しさを増し、ガザ側の死亡者が約4400人に増え、イスラエル側の死亡者の約1400人を大幅に超えてきました。またイスラエルによる完全封鎖で物資が不足する中、イスラエルの侵攻警告により北部の市民が南部に移動したことで水、食料、医薬品に加えて住居の不足も深刻となっています。それにより人道的観点から欧米諸国からもイスラエルへの自制要望も見られるようになってきました。各国の外交活動の甲斐もあり、イスラエル軍による地上侵攻はまだ実行に移されていませんが、実行された場合の一般市民への被害拡大は必至であり、更なる混乱が拡大する可能性が高いため注視が必要です。

 

 また、その最中、中国での「一帯一路」首脳会議に招かれたプーチン大統領習近平主席と会談し、中露の結束を打ち出しました。プーチン大統領国際刑事裁判所から逮捕状が出されている中での結束表明は、もはや欧米中心の国際的な枠組みを中露は重視しないとの態度の表れであり、欧米に対する対抗心が露わになったことを印象づけました。

 

【経済指標】

 先週の経済指標はプラス12ポイントの大幅良化となりました。

注目された米9月小売売上高は予想0.3%に対して0.7%と強さを示し、米国経済の大半を占める消費が堅調であることが再確認されました。

また、その他の指標はこれと言った目立ったものはありませんでしたが、低水準ながらも前月よりも相対的に回復を見せました。

 

【先週のマーケットの振り返りと考察】

 先週の株価指数は世界的に軟調な動きとなりました。米国の長期金利の上昇とイスラエル-ハマスの衝突によるリスク回避により、米株3指数も大幅に反落しました。

また中国株式も不動産不況への警戒感も強いため大きく崩れ、上海総合指数は節目の3000割れで年初来安値となりました。

 

先週の株式の動きの要因は下記の通りです。

・中東情勢を巡って一喜一憂。戦闘が拡大しないための米国やロシア首脳の外交交渉により一時落ち着きを見せるも、ガザの病院爆発報道でリスクオフ。

・米小売売上高の上振したことで経済の強さが示唆され、FRB政策金利を長期維持する観測が前進し長期金利上昇が進む。

・加えてパウエル議長がややタカ派な姿勢を示したことで30年債利回りが5%を超え株式の重しに。

 

 先週もやはり長期金利の上昇に振り回された週でした。

まず17日に発表された米9月小売売上高が強かったこととで米経済の高成長が維持され、FRB政策金利が高水準で維持されることが意識されました。それにより2年債などの短い国債利回りを中心に長期金利が上昇しました。

次いで19日の講演で、パウエル議長が次回FOMCでの金利据え置きを示唆しながらも、追加の利上げの可能性を排除しないとのややタカ派な姿勢を示し、マーケットに広がる利上げ終結観測を牽制しました。長期金利の急上昇による金融引き締め効果から、「これ以上の利上げ不要」を匂わす発言がここ最近FRB高官から出ていましたが、これを打ち消す内容となりました。

 2年債利回りは次回FOMCでの据え置を意識して下げに転じましたが、今度は30年債利回りが急上昇して明確に5%を上抜け、つられて10年債利回りも一時5%にタッチする動きとなりました。それを受けてマーケットはリスク回避姿勢を強め、株式が週終盤にかけて大きく反落しました。

 パウエル議長は今回「タームプレミアム」に言及し、米財政赤字への関心の高まりやQTなどがタームプレミアムの上昇に寄与していると示唆しましたが、その牽制につながる様なハト派な発言はありませんでした。長期金利の急上昇につながるタームプレミアムの問題は複雑です。対中半導体規制などの経済安全保障や、ウクライナイスラエルに対する軍事・経済支援の増加による財政収支の悪化傾向、また政府機関閉鎖への政治的な不安感など原因がすぐに修正できる問題ではありません。それが全体的な米国債に対する信頼感を喪失させ「米国債売り」の大きな方向感を醸成していると思われます。

 今回のパウエル議長の発言次第では、その「米国債売り」の修正のきっかけにもなるかと期待されましたが、利上げの可能性を残し、結局「すべてはデータ次第」という不確実性の残る内容となった印象です。FRBの使命は「雇用とインフレの安定」であり、足元のデータでは雇用が順調な中、足元のインフレ率が高いのであれば、それを是正することは正しい行動です。

 しかし、これ以上の金利の上昇は、3月に起こったように弱小地銀の含み損を膨らませ、再び混乱が生じることが考えられます。FRBの見込みが甘く利上げが遅かったことがインフレ高進の原因となったこともあり、データに依存し慎重になるのはわかります。しかし最近の運営はどこか後付け的で、データから導き出されるビジョンに欠ける気がします。それがない限りマーケットをリードできず、再び「行き過ぎ」で、ハードランディングの可能性も出てくると思います。

 

 長期金利ボラティリティの高まりから前週よりもややリスクが高まったと感じますが、次週はGAFAMの決算発表があります。GAFAMの好調な決算でマーケットが落ち着くことを期待し、取り敢えず強気のポートフォリオを維持します。

 

以上

【2023年10/9-10/13週の世界のリスクと経済指標】

先週の評点:

 

リスク      -4点(26点):悪化 (基準点30点) 

経済指標    -1点(32点):小幅悪化 (基準点33点)

 

【リスク】

 先週のリスクはマイナス4ポイントの悪化となりました。

前週末に始まったイスラエルハマスの紛争はイスラエルの報復攻撃から激しさを増し、両地域で3000人近い死者を出す状況になっています。またイスラエル軍がガザへの地上戦を開始するために、軍隊をガザ地区周辺に展開しており、ガザ地区側に更に被害がエスカレートしそうな勢いです。イスラエルが地上戦に出た場合にはイランの介入も示唆されており、予断を許さない状況です。

また先週は米英独仏伊の欧米各国は早々にイスラエル支持を表明し、一方でサウジアラビアを含めたアラブ諸国パレスチナとの連帯を深めています。ロシアと中国も中立ながらもややハマス寄なスタンスを取っており、今後イスラエルがなりふり構わない過激な行動に出た場合は、西側諸国VSアラブ諸国+中露という対立軸にも発展しかねない状況になってきています。更に混乱が増していきそうです。

 

【経済指標】

 先週の経済指標はマイナス1ポイントの小幅悪化となりました。

先週は米国の9月CPIの発表がありましたが、総合指数は前月3.7%、予想3.6%に対して3.7%と上振れましたが、コア指数は前月4.3%、予想に一致の4.1%と鈍化を示し、まちまちな結果となりました。ただ、総合指数の上振れは、直近の原油価格が上昇していたことからある程度予想できていたことであり、コア指数の順調な鈍化の方を注目すべきであると考えます。

 

 

【先週のマーケットの振り返りと考察】

 先週の株式指数は米国3指数はナスダックが3週ぶりにわずかに反落しながらも、ダウ、S&P500は反発しまちまちとなりました。一方で日経平均は前週末に大幅に下げた反動もあり大幅な反発となりました。

 

先週の株価の動きの要因は下記の通りです。

FOMC後からの長期金利の急上昇により、FRB高官から「追加利上げ不要」のハト派コメントが出たため利上げ観測が緩む。

・米9月CPIは、コア指数が予想に一致の4.1%となるも、総合指数が予想に上振れの3.7%となったため、利上げ観測が高まる。

イスラエルガザ地区内での「局地的な奇襲」を実施したと発表したことで地上侵攻するとの観測が高まりリスクオフ。

 

 前週末にハマスイスラエルへの奇襲影響が発生しましたが、週明けの金融市場への影響は限定的でした。

先週はそれよりも複数のFRB高官から、FOMC以後の長期金利の急上昇により「金融環境が引き締まっている」という内容の、今後の利上げ不要論を匂わす発言が相次ぎました。それにより長期金利も落ち着きを見せ、30年債利回りは4.75%、10年債利回りも4.61%に低下し、株式は一転反発しました。

 12日に発表された9月CPIでは総合指数が予想3.6%に対して3.7%と上振れましたが、これは足元の原油価格の上昇が反映されたものであり想定の範囲内と考えます。一方でコア指数は予想に一致の4.1%となりながら前月4.3%からは鈍化を見せているため、インフレ率は順調に鈍化していると言えます。

長期金利の上昇により金融環境が引き締まっていることをFRB当局者も公に発言し始め、且つ重要なコアインフレ率が鈍化傾向を維持しているため、ファンダメンタルには大きな変化はありません。

 また先週は3Q決算シーズンとなり、C、JPM、WFCの大手銀行の決算発表がありましたが、どちらも予想を上回る好決算でスタートしています。次週も今後本格化する3Q決算を見守りながら、強気のポートフォリオを変更せずに維持します。

 

 中東情勢はやや気掛かりです。イスラエルと敵対関係にあり、ハマスを支援していると言われるイランとの対立に拡大すると、マーケットにもリスク回避の動きが広がる可能性があります。イランは、イスラエル軍がガザへ侵攻し、地上戦を開始した場合には何らかの行動を取るとして介入を示唆しています。仮にこのままイスラエルガザ地区への地上戦を開始し、イランが介入するとなれば事態がイスラエルハマスの内紛から敵対する国家間の戦争に発展します。つまりそれは中東に緊張を産み短期的なインフレ要因となるエネルギー価格を上昇させ、インフレ鈍化のペースを遅らせるかも知れません。

 ただ、ロシアのウクライナ侵攻で戦争が勃発してもすぐに株式が反発したように、やはり欧米マーケットへの影響は限定的だと考えます。当時は一旦の反発のあと株価は下落していきましたが、それはインフレ上昇真っ只中で、ちょうどFRBがゼロ金利を解除したところであり、金融引き締めが大きな理由でした。現在は既に政策金利はターミナルレートに近く、高い金利水準がやや長期化する可能性はあれども、何かをきっかけで大きなショックが起こったとしてもFRBはいつでも利下げで下支えが可能です。

 金融的には過度に反応する必要はないと考えますが、地政学的、人道的にはイスラエルパレスチナでの衝突は懸念するべき事象であり、ニュースをウォッチし続けたいと思います。

 

以上

【2023年10/2-10/6週の世界のリスクと経済指標】

先週の評点:

 

リスク      -4点(26点):悪化 (基準点30点) 

経済指標    0点(87点):中立 (基準点87点)

 

 

【リスク】

 先週のリスクはマイナス4ポイントの悪化でした。

米国では前週末につなぎ予算が可決され政府機関閉鎖が回避されましたが、その可決に協力したマッカーシー下院議長が同じ共和党の保守強硬派の造反により解任されました。今回の解任は少数派である保守強硬派を納得させる案を出せなければいつでも解任される可能性を示したため、11月中旬に切れるつなぎ予算の承認はさらに難航する可能性が出てきました。

 また一時は落ち着いていた中東情勢ですが、この週末にパレスチナガザ地区を収める組織であるハマスにより、数千発のロケット弾と共にイスラエルに対して奇襲攻撃が行われました。稀に見る規模での奇襲攻撃で、イスラエルは虚をつかれた形となり一般市民に多数の犠牲者が出たため、イスラエルは戦争宣言を行い反撃に出ています。またレバノンを中心に活動する武装組織「ヒスボラ」もイスラエル北部より参戦との報道があり、戦争の規模が拡大してきました。ヒスボラはイランの支援を受けていることもあり、今後戦争相手国がイランに拡大するかが懸念されます。仮にそうなると戦争は長期化し、ウクライナ同様欧米はイスラエルも支援する必要があります。ただでさえウクライナ戦争でも弾薬が足りていません。ウクライナ支援のつなぎ予算も成立していません。それはインド太平洋地域が手薄になることを意味します。中国の台湾侵攻の実現性が増してきます。我々にとっても対岸の火ではありません。

イスラエルパレスチナの関係性は色々な悲劇の歴史が絡んでおり、ここまで衝突が広がってしまうと解決は容易ではありませんが、とにかく一般市民への被害が少なくなることを祈るばかりです。

 

 

【経済指標】

 先週の経済指標はプラスマイナスゼロの中立となりました。

ISM非製造業景況指数が下振れて悪化を見せる一方で、製造業はやや回復を見せてきました。またJOLTS求人件数が予想外に上振れ、雇用の堅調さを示しました。

雇用統計ではNFPは大きく上振れる一方、平気時給と失業率は減速を示しました。

米国の重要な指標が目白押しでしたが、全体的には強弱がまだら模様となっており、明確な方向性が見えにくい結果となりました。

 

【先週のマーケットの振り返りと考察】

 先週の株式指数はダウ平均が0.3%安となったものの、ナスダックは1.6%高、S&P500は0.48%高となり、9月に入って続いていた反落が漸く落ち着く兆しを見せました。

一方で、日経平均はこれまでの高騰の反動安、欧州株式は景気悪化を表してか、反落が続きました。

 

先週の株式市場の動きの要因は下記の通りです。

・JOLTS米求人件数が予想880万件に対し961万件と上振れたため、FRB金利を高水準で維持する観測が高まり長期金利が上昇し反落。

・ADP雇用統計が予想15.3万人に対して8.9万人に下振れ。またISM非製造業景況指数は予想に一致の53.6となり安堵感から長期金利が落ち着き反発。

・雇用統計でNFPが33.6万人と雇用の強さを示す一方、失業率は3.8%、平均時給は0.2%と減速を示す。一時長期金利が4.88%まで上昇するも徐々に値を戻して株式は反発。

 

先週も金利の上昇に振り回された週でした。

前週末に4.70%だった30年債利回りは4.96%まで上昇(5.33%高)、4.58%だった10年債利回りは4.79%まで上昇(4.72%高)となりました。

 

 前週までの長期金利の上昇は、インフレ期待、経済成長期待の織り込みであったと考えますが、先週はそれに加えて米国債へのリスクプレミアムが上昇したように感じます。金融ショック以降、米国はグローバリゼーションの恩恵による低インフレにより低金利を実現し、景気刺激でどれだけ国債を増発してもFRBが買い取り量的緩和することでその低金利を維持できました。

しかし、コロナショック後のグローバリゼーションの衰退により中国からのい労働力、ロシアからの安いエネルギーの供給が途絶え、かつ莫大な財政政策により需要が持ち上げられたことで世界が変わりました。高水準のインフレ下においては簡単には利下げできず、保有債券の満期時に再投資せず償還させる量的引き締めも続けなければならず、むしろFRBが売り方に回っています。一方で大盤振る舞いの財政政策は現在も続いており、米国政府は国債の増発を継続し米国債への売り圧力が増しています。加えて5月末の債務上限引き上げ法案や、前週末のつなぎ予算承認など、政治的な理由から米国債への信頼が揺らいでいます。それによってムーディーズでも格付けを下げようとする動きがありました。日本に次いで米国債保有する中国が残高を徐々に減らしていることも影響していると推測します。とにかく様々な状況から米国債の売り圧力が強く、買い手の不在が意識されたと考えます。

 流石に30年債利回りが5%を超えたところでショートカバーが入り金利は多少戻されました。しかし、これはコロナ禍やグローバリズムの衰退、米国政治の分断によって起こった構造的な変化であり、これらの要因がすぐに元に戻るとは考えにくいです。つまり先週の長期金利の動きは、高金利な世界が今後長く続くことを明確に示唆しているものだと考えます。一方で、長期金利がここまで上昇し実質金利が2%超え(10/6には2.5%)となっている以上、実体経済への引き締め効果も高まっていると考えられ、今後インフレ指標は確実に鈍化してくると思われます。市場が織り込むように利上げなし、来年6月からの利下げの可能性も現実的となってくると思われます。

また、先週金曜日の金利が上昇する中での株価の反発は、9月に入ってからの長期金利の上昇に漸くマーケットが慣れ始めた兆しだと考えます。

先週の長期金利の急上昇にはやや驚きましたが、ファンダメンタルは変化していないと判断し、株式60%の強気のポートフォリオは継続し、次週のCPIに臨みたいと思います。

またイスラエルで起こっているハマスとの戦争は、欧米各国が直接的に関わっていないだけに影響は少ないと思いますが、一時的に原油高や株安などになることが考えられるため、注意していきたいと思います。

 

以上

【2023年9/25-9/29週の世界のリスクと経済指標】

先週の評点:

 

リスク   -5点(25点):大幅悪化 (基準点30点) 

経済指標  +9点(59点):良化 (基準点50点)

 

 

【リスク】

 先週のリスクはマイナス5ポイントの大幅悪化となりました。

先週は米国のつなぎ予算が成立せず政府機関が閉鎖される懸念が高まっていましたが、土壇場で成立となり政府機関の閉鎖は回避されました。一方でUAWと自動車メーカーでの労使交渉では、バイデン大統領がUAWを支持するなど、大統領選挙を意識して従来の大統領がしなかった行動を取っているため、更に混乱が広がる可能性があります。

 また国際情勢では、カナダで起きたシーク教系指導者の殺害へのインド政府の関与を巡って、カナダとインドの関係が悪化しています。お互いの外交官を退去させる措置に出ており、対中政策でインドを巻き込みたいG7の戦略の足並みが乱れる可能性があります。元々、人権を重視しないインドであるため、今後も同様のケースが出てくる可能性もあり、G7の一角としてのカナダの対応が注目されます。

 

 

【経済指標】

 先週の経済指標はプラス9ポイントの良化となりました。

先週はドイツ、フランス、ユーロ圏のCPIの発表がありましたが、どれも大きくインフレの低下を示しました。欧州は中国の景気悪化の影響も受けて景気の悪化が著しく、それを表してか急速にインフレ率が鈍化して来ています。景気鈍化の度合いを考えると、比較的景気の根強い米国よりも欧州の方が利下げタイミングが早い可能性が見えて来ました。

 また米国の8月PCEデフレーターは、総合指数が前月よりも加速したものの、コア指数は順調に前月よりも低下を見せました。また前月比でも予想0.2%増に対して0.1%増とこちらも鈍化傾向を強めました。

 

 

【先週のマーケットの振り返りと考察】

 先週の株式指数は全般的には軟調な動きで、米国3指数ではダウ平均、S&P500は前週に続いて反落しましたが、ナスダックはかろうじてプラスとなりました。

 

先週の株式指数の動きの要因は下記の通りです。

・前週のFOMCからの長期金利の上昇が続く。

UAWと自動車メーカーの労使交渉で折り合いがつかずストライキが拡大。

・米政府のつなぎ予算がまたもや政党間の政治的な動きで成立せず、米政府機関閉鎖が懸念された。

 

 先週のFOMC以前はFRB政策金利を反映する2年債利回りに連動して動いていた10年債利回りですが、FOMC以降はより長期な30年債利回りの動きに連動するようになって来ています。そのため、先週は30年債利回りが4.8%にタッチするのに連動して10年債利回りも4.68%と2007年10月以来の水準まで上昇しました。

長期金利は将来の経済成長期待やインフレ期待を織り込みます。つまり先週のFOMC以降の長期金利の上昇は、今後はインフレ率が高水準で推移し、また経済成長も高水準で維持されることが織り込まれたと考えられます。

 一方で先週は長期金利が大きく上昇した割には株価への影響も少なかったように思います。前週はFOMCで予想外のタカ派姿勢を見せられた驚きで10年最利回りが22年10月の直近高値を一気に超えました。そのため瞬発的に株価は反応し、金利感応度の高いナスダックは週間で3.62%安と強く反落しました。

 しかし、先週も前週同様、長期金利が大きく動いた割には株価への影響が少なかった印象です。ナスダックはわずかにプラスで終えました。それはやはり、マーケットが高インフレと共に高成長の時代が来ることを想定し、過度に悲観的になっていないという証左だと思います。また先週はどちらかというとUAWのスト拡大や政府機関閉鎖への懸念の方が金利上昇を後押ししていたように思います。

 足元では原油高でガソリン価格が再び上昇しており、インフレ鈍化のペースは落ちる可能性がありますが、PCEコアデフレーターで示されたように、コア指数は確実に低下して来ています。このトレンドが大きく崩れる可能性は低く、あとは時間が必要なだけだと考えます。

 先週の金利上昇で2年債利回りが大きく動いていないことや、長期金利の上昇で高インフレ下の経済も受け入れつつあるように、徐々にマーケットのメインテーマがインフレから変わりつつあると言えます。ついては当面株価が大きく下落する可能性は少ないと判断し、前週に増加した株式60%の強気のポートフォリオを維持します。

 一方で、30年債利回りが先週タッチした4.8%を再び上抜けると次は5%を目指すこととなり、流石に株式にも売り圧力となると思われるため、長期金利の動きは引き続き注意していきたいと思います。

 

以上