投資家見習いのブログ

世界の地政学的リスクと経済指標を独自の数値で可視化し、マーケットを語ります。

【7/13-7/17週の世界のリスクと経済指標】〜香港国安法で見えた民主主義のマイノリティー化〜

先週の評点:

リスク   -6点(36点):悪化 (基準点42点) 

経済指標  +2点(104点):小幅良化 (基準点102点)

 

 

【リスク】

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先週は米中対立が新たなステージへと移行しました。

トランプ政権は南シナ海での中国の領有権の主張を「違法」とする声明を出し、従来の「中立」とするスタンスを転換し介入していく方針を示しました。

これまでは貿易交渉や最新技術等の覇権争いなどが主でしたが、香港国安法を機にエスカレートしてきました。

 

また、COVID-19の感染拡大は全く止まることなく、米国、ブラジル、インドを中心に増え続けています。全世界では感染者が1400万人を超え、死者も60万人を超えました。

一方で前週のレムデシビルの良好な治験結果に続いてモデルナで開発中のワクチンも良好な結果を示したとの報道がありました。

おそらくこのまま治療薬やワクチンが開発され供給されるまで収束しない気配が漂ってきています。

 

全体としては米中対立とCOVID-19の感染でマイナス6ポイントの悪化としました。

 

 

【経済指標】

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先週は中国の4-6月期GDPが予想2.5%増に対して3.2%増と順調な経済回復の状況を示しました。

一方で中国の小売売上高は-1.8%となり、政府主導で景気回復しているものの実際の消費は未だ回復途上であることを示しました。

また、米国の小売売上高は先月に続き好調さを示しましたが、新規失業保険申請者数は高い水準を維持し、ここ最近の感染悪化による雇用回復の遅れを示すこととなりました。

 

全体としてはまちまちの結果でプラス2ポイントの小幅良化としました。

 

 

 

 

【先週の振り返り】~香港国安法で見えた民主主義のマイノリティー化~

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先週の株価はまちまちで、これまで続伸してきたナスダックがマイナスとなりましたが、逆にダウが伸びを見せ、久しぶりにダウがナスダックをアウトパフォームしました。

前週のレムデシビルの良好な結果に続き、モデルナ製ワクチンも良好な結果を示したことでCOVID-19の収束期待が上がり、急速に上昇し過ぎたグロース株からバリュー株へマネーがローテーションした形です。

 

また前週驚異的な上昇を見せた上海総合も過熱感から一旦の調整を見せました。

 

 

 さて、今回は中国の香港国家安全法施行から見えてきた米中を中心とした世界の対立構造に関して考察してみたいと思います。

 

これまで米中両国の対立は、米国の対中貿易赤字の増加の是正交渉両国のハイテク分野での覇権争い香港国安法を巡るイデオロギー対立南シナ海東シナ海での安全保障分野での対立へと徐々にエスカレートしてきた印象です。

中でも強い流れを作ったのは、6/30全人代で可決された香港国家安全法でした。

この香港国安法の施行によって、香港民主派への中国当局からの圧力が強まり民主主義が否定された形となっています。

そして、この香港国安法をきっかけに米国だけでなく、これまで中国の経済力への配慮から態度を露わにしていなかった他の欧米諸国も中国との距離を置き始め、民主主義を掲げる国家として米国と同調して来ている様に見えます。

 

一方で香港国安法をめぐり衝撃的な出来事がありました。

6/30に開催された国連人権理事会で、中国を支持する声明と中国を批判する声明が同時に発生しました。

まずキューバが中国を支持する声明を発表し、52ヵ国が支持を表明しました。それに対して英国が批判を表明し26ヵ国が支持を表明しました。そして数の上で中国支持が上回ったため中国が勝利宣言し、それ以降、香港国安法への批判に対し自らの行為を正当化する理由となっています。

ここで支持表明国、批判表明国を地域ごとに分類して見てみます。

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これを見ると中国批判表明国は日本と欧米圏およびオセアニアがほとんどです。(米国は2018年に国連人権理事会を脱退しているので含まれません。)

それに対して中国支持表明国は欧米、オセアニア以外の各地域に分散されながらも貧困国の多いアフリカが圧倒的に多い状況となっています。

 

一方で見方を変えると、中国を批判しているのは日本と民主主義を掲げる欧米圏=白人社会圏の先進国だけであり、その以外の国々は中国支持、もしくは中立となることを意味します。

私は民主主義国家に生まれ、その大前提の中で生ききてきたためにそれが常に正しい理念だと信じ、世界では民主主義こそ支持されるものと思っていました。

そのため中国の香港国安法に対する支持の多さに驚きを隠せませんでした。

同時にこの事象を見る限り、逆に民主主義という考え方自体がマイノリティーになりつつあるのではないかと感じ始めました。

 

 

 これまでソ連崩壊以降、民主主義が中心となり資本主義経済が加速してきましたが、結局恩恵を受けたのは欧米を中心とした先進国であり、予てから貧困に喘いでいたアフリカや南米、アジアの一部の国々はほとんど恩恵を受けられないまま貧困状態が続いているのが現状です。

ここで、世界の株式時価総額の地域別の割合を10年前の20106月と20206月で比較してみます。

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この10年で世界の株式時価総額23.7兆ドルから47.6兆ドルへと急速に成長してきました。

その中で新興国の株式時価総額3兆ドルから5.2兆ドルへと成長していますが、一方で米国は10.8兆ドルから28兆ドルへと2.5倍も増加しています。構成比で見ても米国の伸びが圧倒的であり新興国の比率はこの10年で12.5%から10.9%まで低下しています。

つまりこの10年で、貧困地域を含む新興国も経済成長の恩恵を受けましたが、それ以上に先進国が成長していたため先進国が富を独占する構造は何も変わらず、富が先進国から新興国へ動いていないことがわかります。

 

これまで白人を中心とした欧州と、そこから派生した北米やオセアニアの一部の国々が常に世界を主導し、先進国として富を独占してきました。それに対して主導される国々(新興国)は貧困から抜け出そうと懸命に経済発展してきましたが、現在に至るまで状況はそう変わっていません。そして、それらの人々は、結局白人たちが作り出したルールに則っている以上はその圧倒的な力の前には何も事態は変わらないことに長い時間をかけて気づき始めてきたように思います。

 

そんな中で、かつては自らと同じ貧しい国の一つでありながら、ここ10年で急速に経済発展し台頭してきた中国という白人以外の大国が現れたのです。彼らは「一帯一路」などこれまでとは違ったシステムを作り上げることを試み、次々に経済支援を行ってくれます。

そんな状況では、自らの弱い立場を変革してくれる存在として、新興国が中国に期待し支持することは当然の流れの様に思えます。

つまり今回の国連人権理事会での各国の中国支持は、我々が信じてきた白人主体の民主主義および資本主義という考え方自体が、弱者である国々の施政者からすれば「強者の論理」であり、もはやそれらを支持するつもりはない、というメッセージではないかと考えています。

 

おそらくこれまで世界を主導してきたG7を始めとする先進国は、増長する中国に対して協調を強めて押さえ込みにかかると思います。

それに対して中国は経済力や影響力を持たない小国を束ね、数で対抗してくると思われます。

現在はまだ世界的な影響力を持っている先進国ですが、今回の人権理事会のように国連などの国際組織の場で、中国とその支持国に数で圧倒される場面が出てくると思います。

それでもなお、力で自らの主張を通そうとするならば、それこそ民主主義の精神である多数決の原理に反することとなり、自己矛盾を抱え込んでしまうことになります。

 

コロナ禍において様々な格差が浮き彫りになる中、我々先進国が掲げる民主主義市場経済と中国が掲げる社会主義市場経済の対立が今後どうなるかはわかりません。

ただ、これまでの様に先進国の思う通りに世界が進んでいくことはない気がします。

 

以上