【10/26-30週の世界のリスクと経済指標】~米大統領選挙と自由民主主義の行く末~
先週の評点:
リスク -13点(38点):大幅悪化 (基準点51点)
経済指標 +11点(107点):良化 (基準点96点)
【リスク】
先週は欧米でのCOVID-19による感染者数の再拡大を巡り、欧州では英国、フランスがロックダウンを決定し、ドイツは全国の飲食店や劇場を閉鎖措置を決定しました。
これにより欧州各国の経済活動が制限を受け再び停滞する懸念が高まりました。
また米国でも同様に感染者数が再拡大しており、それを受けて各自治体にて店内飲食や夜間外出の禁止などの措置が取られ始め、経済停滞の懸念が高まっています。
一方でCOVID-19に対応した追加経済対策は先週も合意に至らず大統領選後に持ち越されることとなりました。
しかし大統領選で苦戦が伝えられるトランプ陣営も激戦州で巻き返しを図っており、接戦になる可能性もあることから政権移譲プロセスが混乱し追加経済対策の実施が更に遅れることが懸念されています。
また、英国とEUによるブレグジットを巡る通商交渉も依然合意に至らず不透明感を増しています。
更にフランスではメディアによるイスラム教の預言者ムハンマドの風刺画掲載を巡り、マクロン大統領は「表現の自由」として仏メディアを擁護し、それによりイスラム各国との溝が深まっています。COVID-19拡大の最中、フランス国内ではテロ警戒レベルが引き上げられています。
欧州が更に荒れる可能性が高まっています。
全体としてはリスク悪化を示す内容が多くマイナス13の大幅悪化としました。
【経済指標】
先週の経済指標は全体としてはプラス11ポイントと良化を示しましたが、良い結果となったのは7-9期GDPなどの遅行指標であり、印象としては移り変わりの激しい直近の実態を表すことにはなっていないと感じています。
欧州は再ロックダウンで経済停滞が確実となり、米国内でも追加経済対策の遅れの影響が次第に出てくると思われます。
今週は米ISM製造業景況指数、非製造業景況指数、FOMC、米雇用統計と重要指標が目白押しであり、それらが直近の米景気をどのように映し出すが注目したいと思います。
【先週の振り返りと考察】
先週はリスクの項目で挙げた通り、様々なリスクが悪化したことで欧米株式を中心に大幅下落した週でした。
米国株式はCOVID-19感染が広がる中、大統領選を控えてポジションを減らす動きが大きく、3指数揃って5%以上の下落、欧州株式もロックダウンによる経済停滞懸念で大幅に下落しました。
また経済停滞懸念に連れて原油価格も下落し、資源国であるロシア、ブラジルの株価も大きく調整しました。
一方で日経225、上海総合、香港ハンセンなどのアジア株式は好調な中国経済の恩恵を受けつつCOVID-19の懸念も薄いことで落ち幅は少なく堅調に推移した印象です。
今週は米国の大統領選や重要経済指標が目白押しなこともあって引き続きボラティリティの高い相場が続くと思われます。
~米大統領選挙と自由民主主義の行く末~
さて、今週は米国の大統領選挙があります。
メディアや調査会社によると民主党候補のバイデン氏が優勢として伝えられていますが、激戦州に於いて現職トランプ大統領の巻き返しも伝えられており、かつ2016年の大統領選では前評判を覆してトランプ大統領が当選したことを考えると結果は最後までわからない状況です。
私はこの大統領選挙は世界に於ける自由民主主義の行く末を占う重要なポイントであると考えています。
現在、我が国日本も礎にし正しいと信じて来た民主主義は、リーダーである米国のポピュリズムへの傾倒から来る影響力の弱体化と、時を同じくして影響力を増している一党独裁主義の中国の増長によりマイノリティー化する可能性を秘めた大きなターニングポイントに差し掛かっていると思います。
かつての米国は「世界の警察」として民主主義勢力を主導して世界の様々な紛争や問題に関与して来ました。
元々民主主義と資本主義は相性の良さを持ち合わせ、その自由な競争はこれまでの民主主義勢力の経済発展の源泉となっていました。
しかし民主主義も資本主義も共に自由な環境を求める考え方であるが故に、自由放任主義が行き過ぎるとその副産物として資本主義の弱点である経済格差が生まれてきます。
この経済格差は現代においては大きな問題として横たわっていますが、これまでは米国だけでなく、その他の国も一程の経済成長という果実を受けることでその格差を許容して来たものと考えます。
また、米国は民主主義国家のリーダーとして世界最大の経済支援と安全保障の傘を供給し、格差を問題と感じさせないように尽くして来たと思います。
しかし、米国自身に潜むその格差から2016年にポピュリズムを標榜するトランプ政権が誕生し流れが変わりました。
トランプ政権は外交・安全保障上では米国第一主義を掲げ、WTO、TPP、イラン核合意、国連人権委員会など様々な枠組みからの脱退や、シリアからの米軍撤退、アフガン、イラクでの縮小、NATOへの関わり縮小など、これまでの米国の取って来たスタンスからは大きく変更しています。
また、敵対国であれ同盟国であれ構わず駆け引きを挑み、現状より自国に有利な条件への変更を求めています。
これまで米国が世界に対して手厚く行っていた支援を後退させることでかつては許容されていた経済格差を浮き彫りにし、安全保障の傘が小さくなっていくことで民主主義勢力でいることの安心感と一体感が後退しています。
そしてこれまでの民主主義勢力を主導して来た米国に対する信頼感が後退し、民主主義に対する信頼感自体が揺らいでいると感じています。
そしてそれが大国として台頭して来た中国に付け入る隙を与えています。
中国はアフリカ、アジア諸国を中心に経済支援を徐々に増やし、さらにCOVID-19の拡大を期により強権的な政策を取りながらも同調勢力を拡大しています。
実際にトランプ政権誕生以降、民主主義国家は減少に転じ、2019年には民主主義国家、地域が87カ国に対して非民主主義国家は92と18年振りに逆転したという調査結果も存在しています。
この流れはやはり民主主義勢力の旗印であった米国の方針転換が大きく影響していると考えます。
従って今回の大統領選挙で共和党が勝利し、再びトランプ政権が続くのであれば、民主主義勢力はまとまりを欠き、弱体化していくことが想定されます。
一方で、民主党が勝利し、中道左派のバイデン候補が勝利するのであれば、一定の揺り戻しとなると考えます。
トランプ大統領は一見めちゃくちゃな人物に見えますが、私はトランプ大統領の政策実行能力を非常に高く評価しています。
トランプ大統領はポピュリストとして、経済成長から取り残された高卒以下の白人労働者層やキリスト教福音派などの支持者のために実直に政策実現をしようとして来ました。
そしてそれは2016年の大統領選挙で当選した時に、米国民から民主主義で承認された公約であり、この4年間で行うべき政策を全うしただけだと思います。
しかし、COVID-19も経験し、当時とは大きく変わった世界情勢の中で、今後もそのポピュリストとしての政策を続けることが正しいのかはわかりません。
米国民が引き続きポピュリズムを受け入れ突き進めることを望むのか、それともこの4年間でポピュリズムの弊害も経験し、かつての米国へ揺り戻すのか、11/3の結果を固唾を呑んで見守っていきたいと思います。
以上