投資家見習いのブログ

世界の地政学的リスクと経済指標を独自の数値で可視化し、マーケットを語ります。

【9/7-9/11週の世界のリスクと経済指標】〜ドイツの中国依存の転換〜

先週の評点:

リスク   -7点(35点):悪化 (基準点42点) 

経済指標  +3点(51点):小幅良化 (基準点48点)

 

 

【リスク】

f:id:minarai_tousan:20200914074123p:plain

先週も欧州関連でのニュースが目立ちました。

まず、欧州でのCOVID-19の感染者再拡大が顕著になってきました。

フランスでは初めて新規感染者が1万人を超え、イギリスも5日連続で2000人を超えました。死亡者数は3-4月の時期と比較すると急増には至っていませんが、若者を中心に増加し新規感染者数ではEU全体の増加数がアメリカの増加数を上回りました。

 

 またブレグジットを巡り英ションソン政権の強引さが目立ってきました。

10/15までにEUとのFTA交渉が合意できなければ「FTAなし」も辞さないと明言し、また既に発効されているEU離脱案を修正する法案を提出したため、EUが「国際法違反」として反発しています。

EUからの譲歩を引き出そうとしていると思われますが、既に期限まで1ヶ月しか残っておらずこのままFTAなしで移行期間を終えることも想定されます。

 

 そしてロシアの反体制派ナワリヌイ氏への毒殺未遂疑惑を巡り、ドイツは、ロシアが実態解明に動かない場合、ロシアからの天然ガスを直接輸送するパイプライン「ノルドストリーム2」の建設を見直しすることを示唆しました。パイプラインは既に完成しており、見直しが行われた場合の両国への影響は大きいですが、ドイツは圧力を強めています。

 

全体としてはこれら欧州に絡むリスクと香港情勢の悪化によりマイナス7ポイントの悪化としました。

 

 

【経済指標】

f:id:minarai_tousan:20200914074202p:plain

先週の経済指標はまず中国の7月貿易収支が予想497億ドルに対し589.3億ドルでポジティブ、また中国の景気に引っ張られるドイツも予想160億ユーロに対して192億ユーロと大幅にポジティブとなりました。

輸出も好調な中国の景気により輸出が主体のドイツの貿易収支も改善してきていることが示されました。

アメリカの7CPIコア指数も1.7%と上昇を示しました。

 

また、先週はECB理事会が行われ、ここ最近の急激なユーロ高に注意しつつも金融政策は現状維持する方針とされました。

 

全体としては中国、ドイツの貿易収支、米国のCPIコアのポジティブによりプラス3ポイントの小幅良化としました。

 

 

 

【先週の振り返りと考察】~ドイツの中国依存の転換~

f:id:minarai_tousan:20200914074239p:plain

 先週の株価指数は先週から続く米テック株の調整局面を受けて、テック株の含有率の高い順にナスダック、S&P500、ダウと下落幅が拡大しました。

一方で日経、DAXFTSE100の欧州株式指数は週足では堅調でした。独DAXは一時のユーロ高が落ち着きを見せたことや貿易収支が大幅改善したこと、また英FTSE 100はジョンソン首相のブレグジットに絡む発言によりポンドが急落したことを好感し大幅上昇しました。

全体の印象としてはこれまで急速に回復し割高だった米テック株と中国株が調整し、米テック株に対して回復が緩やかだった日経、欧州株が堅調と行ったところでしょうか。

日経、欧州株が堅調だったことからも悲観することなく、米テック株の下落は先走りすぎたセクターの調整であり、調整が終われば緩和の後押しで再び米株も上昇気流に乗って行くものと推測します。

 

 

さて、私が先週注目したニュースは、これまで中国との経済的な繋がりを重視し親中姿勢を変えていなかったドイツが、ついに「中国離れ」を示唆するアジア政策を打ち出したことです。

ドイツ政府が新たにまとめたインド・太平洋戦略では日本、韓国などの民主主義をはじめとした共通の価値観を持つ国との関係強化を図り、「法の支配」を重視する方針を固めました。

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO63597460Y0A900C2EA2000/

 

ドイツは中国、アメリカに次ぐ輸出大国であり2018年は1.56兆ドルの輸出がありました。

その中で中国の占める割合は非常に大きいです。

下記のグラフの通り、輸出相手国としてはアメリカ、フランスに次いで中国が第3位となっています。

中国のシェアは6.8%(2018年)であり、1061億ドルの輸出額を占めます。

f:id:minarai_tousan:20200914074325p:plain

 

一方輸入相手国としても下記グラフの通り中国はオランダに次いで2位となっており、2018年のドイツ全体の貿易輸入額は1.28兆ドルであるため、中国からの輸入額は900億ドルとなります。
輸出、輸入の両面を合わせると、中国がドイツの最大の貿易相手国となっていることがわかります。

 

f:id:minarai_tousan:20200914074356p:plain

先週のドイツの7月貿易収支の指標の良さや、8月のドイツの製造業PMI(前回51、予想52.5、結果53)を踏まえると、中国向けの自動車や生産設備等の輸出が活発になっていることが推測され、中国が現在のドイツのコロナショックからの回復の急先鋒となっていることがわかります、

 

このような経済的な恩恵を受ける状況下であっても、ドイツがアジア政策において親中体制からギアを下げたことは大きな意味があると考えます。

おそらく、地理的にドイツの身近な問題であるベラルーシやロシアでの人権侵害や違法行為を追求して行く上で、香港やウイグルで強権を振るい人権侵害を行う中国への弱腰対応で内包していた自らの矛盾も解決しなければならなかったことが想像されます。

しかし、香港、ウイグル南シナ海で強権を振るう中国を律するためには、EUの雄であるドイツが方針転換してきたことは、まとまりのなかったEUも対中勢力として一枚岩になれる可能性を示し、非常に心強い状況であると思います。

 

一方でドイツ経済への影響ですが、中国市場が今後米国の技術の取り込みが見込めない以上は、ドイツの技術なしでは成立しないと思われ、下方向への影響は限定的と思われます。

 

以上