【10/5-10/9週の世界のリスクと経済指標】〜トルコの強行姿勢とスタグフレーションの兆し〜
先週の評点:
リスク -4点(47点):悪化 (基準点51点)
経済指標 +2点(44点):小幅良化 (基準点42点)
【リスク】
週末にトランプ大統領がCOVID-19に感染、軍病院に入院しましたが、未承認の抗体カクテルやレムデシビル、ステロイド薬などを投与されて回復し週半ばに退院しました。
一方で欧米でのCOVID-19拡大の勢いは収まらず、米NYでは一部の地域で再び経済活動制限となりました。
また欧州各国では春先の第1波を超える感染拡大が見られ、スペインのマドリードではロックダウンに加えて非常事態宣言も出されました。
懸念されていた米追加経済対策は、二転三転しながらも結局合意には至っていませんが、民主党の2.2兆ドル案に対してトランプ政権が1.8兆ドルまで歩み寄る姿勢を見せ、合意が近い事を期待させる動きとなりました。
衝突が激化していたアゼルバイジャンとアルメニアの紛争は、両国と係わりの強いロシアが停戦介入し、10日に停戦合意したと伝えられています。今後は強権姿勢を見せるトルコを後ろ盾としているアゼルバイジャンがどこまで歩み寄りを見せるかが注目されます。
一方で旧ソ連圏のキルギスタンでは10/4に行われた議会選挙で不正が行われたとして野党支持者を中心に抗議活動が続いており、ジェエンベコフ大統領が事態の収束後に辞任する意向を示したものの、非常事態宣言が発令されるほどに混乱が収束していません。
ベラルーシでもルカシェンコ大統領への抗議活動が続いており、旧ソ連圏での情勢が悪化している印象です。
全体としては米追加経済対策合意への期待感に対するポジティブをその他のネガティブを上回り、マイナス4ポイントの悪化としました。
【経済指標】
先週はISM非製造業景況指数が発表されました。
新規受注が伸びた他、雇用も回復したため予想56.3に対して57.8と拡大を見せました。
中国財新のサービス業PMIもわずかながらも予想の54,3を上回る54.8となり、中国経済の回復を示しました。
全体としてはプラス2ポイントの良化としました。
次週は米CPI、米小売売上高、米鉱工業生産、ECBラガルド総裁発言、ユーロ鉱工業生産に注目します。
【先週の振り返りと考察】
先週は全体的に株価が上昇した週でした。
中でも米株指数はダウ3.27%、S&P500 3.84%、ナスダック4.56%と大きく回復しました。
トランプ大統領がCOVID-19感染での入院から順調な回復を見せたことへの安心感と、追加経済対策の合意への進展を伝えるヘッドラインで上昇しました。
実際に合意はないものの、前進しているというヘッドラインに揺さぶられる状況は、ちょうど1年前の米中貿易摩擦におけるトランプ大統領のツイートに振り回されたトランプ相場を思い出させます。
FRB高官からも追加経済対策の必要性が叫ばれていることもあり、それだけマーケット参加者が合意を重要視しているとの現れですが、合意がなされたからと言って経済の停滞全てが解決するわけではありません。
そういう意味では合意が決まった時点で一度調整があることも想定すべきと考えます。
そしてそののち、経済対策の結果が経済指標に現れてくることで徐々に株価は上昇してくるのではないかと考えています。
~トルコの強行姿勢とスタグフレーションの兆し~
最近、東欧のコーカサス地方および中央アジア情勢が騒がしくなっていますが、その中で私が気になっているのはトルコです。
下記はトルコの通貨であるトルコリラ/USD(青線)、ドルインデックス(オレンジ線)のチャートです。
トルコリラは5月末頃まではある程度ドルインデックスとの相関を持った動きをしているように見えましたが、5月末からのドル安傾向になった後は相関なくドルと一緒に下げ続けています。
またそれに従い為替介入を行っていますが通貨安は止まらず下記の通り外貨準備高を減らし続け打つ手が無くなりかけています。
そしてトルコ国内では急速に物価が上昇しています。
コロナショックにより4-6月期GDPはマイナス9.9%に沈む中、止まらない通貨安の影響から8月CPIは前年同月比11.77%上昇しています。
そしてその物価上昇を抑えるため、2019年6月から景気刺激のための金融緩和で下げ続けてきた政策金利を9月に8.25%から10.25%に上げました。
トルコの経済状況は上向いているはずはなく、引き続き金融緩和を行わなければならない状況ですが、激しい通貨安で輸入商品の物価の上昇が著しく、市民の日常生活を守るために金融緩和を止め政策金利を上げざるを得ない状況に追い込まれています。
まさにスタグフレーション(不況下の持続的なインフレ)が起こりかけています。
私はこうなった背景には、COVID-19の影響もありますが、ここ最近のトルコの強権姿勢に原因があると思います。
ここ最近、トルコは積極的に近隣諸国の紛争に介入しています。
①シリア紛争:2011年からのシリア内戦にてアサド政権への反体制派を支援。
ISなどが支配する地域へ2016年以降三度侵攻し、アレッポ地域を事実上占拠。
②リビア紛争:2011年10月のカダフィ氏殺害を機に二つに割れた勢力のうち、国連が支持する暫定政府を
支援。
トルコの軍事支援で5月末に暫定政府が首都トリポリを奪還。
一方でリビアの暫定政府支援をきっかけに東地中海でのEEZ協定と安全保障協定を結び、
東地中海での天然ガスの調査を進める。
そして、③として7月中旬に始まったアゼルバイジャン・アルメニアの紛争にも積極的に介入しアゼルバイジャンを軍事支援しています。
①のシリア紛争への介入は、隣接するシリアからのIS(イスラム国)と、元々敵対するクルド人勢力からの国内治安の戦いと理解できましたが、②のリビア、③のアゼルバイジャンは隣接しておらず、直接的な利害は少ないように思いますがトルコは積極的な介入に踏み切っています。
(これらはアゼルバイジャンからの天然ガスパイプラインの安全確保、リビアと組んだ東地中海での新たな天然ガス供給元の確保が理由だと言われています。)
そしてこれらの強行的な姿勢が欧州各国との対立を生んでいます。
リビア紛争で支援する暫定政府の反体制力にはロシアの他にフランスやギリシャがいますし、東地中海でのガス田の調査では、トルコが国家として認めていないキプロスのEEZ内で勝手に試掘を行ったことにより、同じくギリシャとフランスが反発しています。そして地中海では互いに軍艦を接近させています。
現在ドイツが仲介して地中海での衝突を避けようとしていますが、このトルコの強行的な姿勢が同じNATOを編成する欧州の国々からの孤立を深めています。
経済的には関わりが深い欧州からのトルコの孤立が経済的な先行きに不透明感を漂わせ、通貨安を生み、物価の上昇を生み、スタグフレーションの危険性を生んでいると思われます。
従って私はこの近隣諸国の紛争へのトルコの積極介入姿勢が転換しない限り、通貨安は収まらず、トルコ経済の悪化のスピードは激しくなっていくものと思われます。
スタグフレーションは人々の生活を強く長く圧迫することになるため、経済はもちろん政権にとっても非常に危険です。
トルコには日本をはじめ欧米の外国企業も多く進出しており、工業国としてグローバル化され影響は大きいため、今後のトルコの動向には注目していきます。
以上