投資家見習いのブログ

世界の地政学的リスクと経済指標を独自の数値で可視化し、マーケットを語ります。

【8/8-8/12週の世界のリスクと経済指標】〜変わらない政治への憂鬱〜

先週の評点:

 

リスク   2点(35点):良化 (基準点33点) 

経済指標  +5点(43点):大幅良化 (基準点38点)

 

 

【リスク】

 先週のリスクはプラス2ポイントの良化となりました。

前週に原油価格が90ドル割れとピークアウトしてきた上に、米国内のガソリン需要減少の傾向も見られたことから米国内でのガソリン平均小売価格が1ガロン4ドルを割れました。

それを反映してか、米7月CPIも減速を示しました。

 

また地政学では前週のペロシ米下院議長の訪台に反発して、8/4から8/8まで中国政府が台湾を囲む6地域で実弾を伴った大規模な軍事演習を行いました。台湾海峡の中間線を越えて中国軍機が侵入したり、日本のEEZにミサイルが着弾したりと、中国によるかなり踏み込んだ実戦演習が行われました。

習政権から「戦争の意図はない」と事前にバイデン政権に伝えられていたとの報道もありますが、周辺国の警戒レベルが一気に上昇したのは間違いありません。インド太平洋地域の国々の防衛政策へも大きな影響を与えることとなったと考えます。

 

 

【経済指標】

 先週の経済指標はプラス5ポイントの大幅良化となりました。

米7月CPIは前月9.1%、予想8.7%に対して8.5%と減速が示されました。同じく7月PPIでも前月11.3%、予想10.4%に対して9.8%と供給サイドの物価指数も減速が示されました。

また、8月ミシガン大学消費者態度指数は、ガソリン価格の落ち着きから消費に対する安心感が増したのか、前月、予想を上振れる55.1となり、ややセンチメントが回復していることが示されました。

 

 

【先週のマーケットの振り返りと考察】

 先週の株価指数は概ね上昇となり、特に米国株は小型株で構成されるRussel2000は4.93%、S&P500は3.26%と強い反発を見せました。

米7月CPIの総合指数がインフレの減速を示したことで、株式市場の楽観が増幅され、前週に続き大幅反発となりました。

一方で、コア指数は前月5.9%に対して横ばいと変わっていません。前月比でCPIの内訳を見ていくと、大きく下落してるのはガソリン価格や燃料油、ガスなどの資源であり、食品や電気、住居費などは引き続きインフレを示しています。

確かにガソリンなどの値下がりの影響は大きいですが、逆にガソリンなどの資源価格が落ち着いても、この程度しかインフレ率が下がらないとも言え、引き続き金融引き締めは継続されます。

前週も論じましたが、ファンダメンタルとしてインフレ率が高い事実は変わらず、急速な引き締めが終了したわけではありません。やはり株式市場が楽観的過ぎると感じられます。

 

 

〜変わらない政治への憂鬱〜

さて、先週は日本の岸田内閣の内閣改造が行われました。

改造が行われた大きな理由が安倍元首相殺害に関わる統一教会と議員との関わりを正すことにあったとため、実力の不明な議員が自民党内の派閥に配慮して選ばれた印象です。

新入閣の大臣は9人ですが、60代が6人、70代が2人、40代が1人とフレッシュさに欠ける内容となりました。内閣全体でも平均年齢62.65歳、70代3人、60代12人、50代4人、40代1人となり高齢大臣中心の旧来の自民党らしい派閥政治が戻ってきたと感じています。

また岸田首相自体ものらりくらりと掴みどころなく、ビジョンの見えない政策を行う姿は、民主党政権以前の「変化しない」自民党政治に戻ってしまった感覚を得ます。

個人的には昨年の岸田内閣の組閣時よりも日本を取り巻く環境は悪化しており、危機が増していると思われるため、多少「変革」を求めた陣容に変化するかと期待していましたが、それは望めなさそうな印象です。

 

しかし、事実として先の衆議院選挙、参議院選挙において岸田政権は信任されたわけであり、民主主義である以上それが国民の選択の結果としか言えません。

日本国民が「変化しない」ことを望み、それを体現しているのが岸田政権だと思います。

 

一方で、一般論として将来の長い若者が社会の「変革」を望み、将来の短い高齢者が「変化しないこと」を望むと仮定すると、すでに若者の意見が取り入れられにくく変革ができない社会構造となっていることも考えられます。

 

下記は昨年10月に行われた衆院選挙での年代別投票率を年代別人口にかけて投票数をグラフ化したものです。

若者と考えられる30代までは元々人口が少ない上に投票率が低く、年代別でみると投票数が少ない傾向にあります。

一方で現役世代を終える60代以上は長寿命化によって人口はキープしつつ投票率が高いため、投票数で見るとその数が大きくなります。

 

下記はその投票数を18歳~40代、50代以上の二つに分けたもの、18歳~50代、60歳以上に分けたものとして表したものです。

 流石に60歳以上と59歳以下の世代で比較すると59歳以下の投票数が大きくなりますが、年代を一つ下げて49歳以下と50歳以上とで比較すると圧倒的に50歳以上の票数が大きくなります。

これが意味するのは、若者の人口減と低い投票率、高齢者の増加と高い投票率により、高齢者の意見がより政治に反映されやすくなっているということです。先述した仮定で言い換えると、「変革」する政治が支持されず、安定的で「変化しない」政治が好まれることになります。

 

現在の「変化しない」政治が認められる風潮は、与党である自民党への有力な対抗勢力がないとも大きな課題ですが、このような人口構造的な問題も大きく影響していると考えられます。

しかも、この傾向は少子化と高齢化が劇的に進行している中で、今後より加速していきます。

この事実がある以上は、長期的な将来を考える必要がある若者の意見より、短期的な将来を考えれば良い高齢者の意見が政治に反映され続けます。そして足元だけ見ていれば良い、悪い意味で「変わらない」保守的な政策が支持され続けるのではないかと危惧しています。

 

良くも悪くも自民党の中でも何かを変えようとしていた安倍元首相が殺害され、その直後に自民党の古い体制を回顧させる内閣刷新が行われたことで、日本の将来に対する憂鬱さが増した週でした。

 

以上

【8/1-8/5週の世界のリスクと経済指標】〜リセッションと利下げ織り込みで漂う楽観〜

先週の評点:

 

リスク   -1点(32点):小幅悪化 (基準点33点) 

経済指標  +8点(89点):大幅良化 (基準点81点)

 

 

【リスク】

 先週のリスクはマイナス1ポイントの小幅悪化としました。

先週行われたOPECプラス会合では9月からの増産幅が日量10万バレルと小幅に留まったことから原油価格の上昇が予想されました。しかしそれよりも米国内での原油在庫の積み上がりからガソリン需要の減少が示されたため、原油価格は下降を続けロシアのウクライナ侵攻以降で初めて90ドルを割る水準まで戻ってきました。足元のガソリン価格も4.192ドル/ガロンまで低下し、ガソリン価格の落ち着きを窺わせる状況となっています。

 

一方で、先週はペロシ米下院議長が訪台し蔡英文総統と会談、台湾の支援を訴えたことで中国側が猛反発し、台湾を巡る地政学リスクが一気に高まりました。中国は台湾を囲む海域で実弾を伴った軍事演習を開始し、日本のEEZ内へもミサイルが着弾するという事態になっています。

今回の訪台はペロシ氏の個人的な意図なのか米政府の意図なのかわかりませんが、中国への牽制のつもりが中国側を過剰に刺激し、米中両国のみならず日本を含むG7と中国の関係も悪化させています。

中間選挙に向けて功を急ぐ米バイデン政権の焦りなのかわかりませんが、アルカイダ指導者の暗殺も含め、米政権のやや軽率な行動が目立ってきた印象です。

 

【経済指標】

 先週の経済指標はプラス8ポイントの大幅良化となりました。

注目の米ISM景況指数及び雇用統計でしたが、予想外の底堅さを見せました。

ISM製造業景況指数は前月よりも低下したものの予想の52を上回る52.8と踏みとどまり、非製造業景況指数は前月、予想を上回る56.7と強い上昇を見せました。

 また雇用統計も前月からの減少が予想されたNFPは52.8万人増、失業率も3.6%から3.5%に低下とポジティブサプライズとなりました。

サービス業を中心とした米国経済の底堅さが示された形となりました。

 

一方で企業決算では小売業の不調が示されており、足元のガソリン価格や原油価格の落ち着きも含めて次週のCPIにどのように影響を与えるのか、注目したいと思います。

 

 

【先週のマーケットの振り返りと考察】

 先週の株式指数はまちまちでしたが、景気後退懸念で米長期金利が低下していることや、思ったよりも悪くないハイテク株の決算を受けて、ナスダックが2.15%高と強く伸長しました。

 

 

〜リセッションと利下げ織り込みで漂う楽観〜

さて、先週は①FRB高官の相次ぐタカ派発言、②ISM景況指数、③雇用統計のイベントがありました。

下記は7FOMC後にあったFRB高官の発言内容をまとめたものです。

7月FOMCでの記者会見でパウエル議長が「ある時点で利上げ速度を緩める事が適切であるだろう」と発言したことで来年の利下げが期待されていますが、そのマーケットの勇み足的な観測に警告を送るかのようにタカ派発言が相次ぎました。

 

これに加えてISM製造業景況指数は前月の53.0よりも低下したものの予想の52.0を上回る52.8に踏みとどまり、非製造業景況指数は前月55.3、予想53.5を上回る56.7と強い上昇を見せました。

WALMARTやベストバイなどの小売の不調や、大量の在庫が倉庫や港湾に積み上がる情報が伝えられている中で、モノの消費には翳りが見えている印象です。一方で消費者の嗜好がサービスに移ったことでサービス業は好調を維持している状況が見えてきます。

 

また雇用統計ではNFPが前月と予想を大幅に上回り52.8万人増となりました。

中でもサービス業が40万人の伸びとなり強さを見せました。

米国では5月頃からハイテク企業を中心にテスラ、オラクル、ツイッターロビンフッドなどで有名企業でもレイオフの報道が多く流れ雇用減が心配されましたが、これらは恐らく高収入のホワイトカラーです。

一方でハイテク企業のレイオフを吸収してなお強い増加を見せていることから、層の厚いサービス事業現場での低収入のブルーカラーの雇用はまだ相当底堅いということが示されているのだと思います。

 

先週はこれらの出来事から再びFRBが積極的な正常化を進めることが懸念されました。

長期金利は再び上昇、為替もドル高で反応しました。特にドル円は一時130円台まで円高が進みましたが、週末には135円に戻して反応しています。

 

しかし株式はFRB高官のタカ派発言にも、ISM、雇用統計への反応は限定的で、ナスダックに至っては週を通して2.15%高となりました。

FOMC以降、リセッションと利下げが織り込まれたことにより、利上げ=下げというセオリーが崩れ、マーケットに異様な楽観的な雰囲気が漂っているように感じます。

最近の株式市場は、指標が良ければソフトランディング期待でポジティブ、悪くても金融引き締め緩和期待でポジティブとなっており違和感を感じます。

 

現実にはまだインフレのピークアウトすら見えていません。仮に次週のCPIでピークアウトを見せたとしてもFRBが目標とするインフレ率2%はまだ遠い先の話です。

マーケットはリセッション懸念から来年での利下げを織り込んでいますが、確実にインフレが落ち着くまで恐らく利下げはありません。

株式は足元では6月末以降反発しており違和感は続きますが、まだまだ買い場ではないと判断します。

 

以上

【7/11-7/15週の世界のリスクと経済指標】〜G20会議で支持されないG7の主張〜

先週の評点:

 

リスク   -9点(24点):大幅悪化 (基準点33点) 

経済指標  -10点(70点):大幅悪化 (基準点80点)

 

 

【リスク】

 先週のリスクはマイナス9ポイントの大幅悪化となりました。

前週の英ジョンソン首相の辞任発表に続き、イタリアのドラギ首相も主要与党である「五つ星運動」からの不信任を受け辞任を表明しました。マッタレッラ大統領は辞任を拒否し、議会で解決することとなりましたが、欧州各国の政権地盤が緩み始めており、西側諸国の結束に影響が出ることが心配されます。

またインドネシアG20財務相会合が行われましたが、ロシアへの対応を巡って意見が対立し、4月に続いて共同声明を出せない異例の状態となりました。西側諸国はロシアを批判しながら陣容拡大を強めましたが、新興国は資源や食料の高騰を強めることになる制裁に慎重となり、協調が進みませんでした。

 

またこれに先立ち、インフレからの政情不安に揺れるスリランカでは、ラジャパクサ大統領が国内逃亡し、政権が倒れる非常事態となりました。

 

【経済指標】

 先週の経済指標はマイナス13ポイントの大幅悪化となりました。

注目の米6月CPIは予想8.8%(前月8.6%)に対して9.1%と加速を示しました。またPPIも同様に予想10.7%に対して11.3%と加速を示し、根強いインフレが示されました。

6月小売売上高は1.0%の増加となりましたが、CPIが前月比で1.3%の増加を示していることから、実質的には低下しているとも捉えられます。

またミシガン大学消費者信頼感指数は過去最低だった前月からは回復しましたが、5-10年先の期待インフレが前月3.1%から2.8%へと低下を示しました。

 

また中国の4-6月期GDPは、強いロックダウンの影響で0.4%と急減速が示されました。中国は22年通年の目標として5.5%成長を掲げていますが、達成が遠のいており、財政政策拡張の動きも浮上しています。

このタイミングでの中国の財政政策強化は中国の需要増を招き、さらに資源や食料の高騰を招きかねないため注意が必要です。

 

 

【先週のマーケットの振り返りと考察】

 先週の主要株価指数は概ね軟調となりました。

米国の6月CPIが9.1%となったことを受けて、7月FOMCでの利上げ幅が100bpsとなる観測が強まりましたが、FRB高官が矢継ぎ早に75bps利上げを支持するを発言したため、株価は下げ幅を縮めました。

先週の株式の動きは7月FOMCの利上げ幅が75bpsは織り込み済みのため買い、100bpsは織り込んでいいないため売り、という図式で動いているような印象でした。

 

また先週はCPI発表を受けて10年債利回り低下、2年債利回り上昇となり逆イールドが加速しました。

逆イールド=景気後退とは限りませんが、限りなく近づいてきているような気がします。

 

 

G20会議で支持されないG7の主張〜

 さて、先週はG20財務相中央銀行総裁会議が開催されました。

対中露で新興国の取り込みを図る西側諸国に対して新興国が慎重になり足並みが揃わないという事態となりました。

そこには大義を振り翳しながらも、自国により苦痛を強いる様な、どこか傲慢さを感じさせる西側諸国のロジックに新興国が追従しきれない思いが表れている気がします。

 

今回のG20ではインフレや食料危機など、世界経済が直面する課題について話し合われました。日米欧のG7はロシアへの批判を強め、参加する新興国に対して制裁に参加するよう訴えましたが、更なるインフレや食糧危機を煽ることから、支持は得られませんでした。

 

現在の世界的なインフレの直接的な原因となったのはコロナ禍からの混乱とロシアのウクライナ侵攻による資源、食料高騰です。

しかし、インフレを招いたのは米国を始めとした西側諸国がコロナ禍で行った低金利政策と莫大な財政政策の結果であり、またウクライナ侵攻でのロシアに対する経済制裁の結果です。

 

もちろんロシアに対する経済制裁には侵略を防ぐという大義があります。しかし、体力のある先進国と違い新興国には余裕がありません。ロシアに対する経済制裁でインフレが加速すれば、それ自体で国民生活は枯渇し、さらには米国が行う利上げによる資金流出で通過安や債務増加を引き起こします。またインフレや流出防衛目的の利上げにより景気は後退し、いち早くスタグフレーションとなります。

先進国は苦しいならがもお金を払えば食料でもエネルギーでも買えますが、新興国はそもそもお金がないので買えません。

つまりはこれ以上インフレが進めば先進国と新興国の格差がより拡大することになります。

 

従って新興国が先進国に追従しないのは当然だと思います。追従したとしても利を得るのは先進国で、自国が受けるダメージの方が大きいからです。

しかも今回の会合前に従来からの弱い経済にインフレが重なったことにより、スリランカが政情不安となり、ラジャパクサ大統領が国外逃亡し政権が倒れるという事件が起こりました。

次は我が身だと身構えたことだと思います。

 

そいう言った意味では、金融、財政を司る会議として考えれば新興国の対応は妥当であったと思います。一方で先進国が「世界経済の運営を先進国、新興国で協力して考える」というG20財務相中央銀行総裁会議の趣旨から外れ、盲目的にロシア批判を繰り広げたことに違和感を感じました。

先進国としては、趣旨に立ち返り脆弱な新興国経済をどのように救済していくのか、金融・財政面から真剣に議論していた方が、対中露戦略上の陣容拡大には効果があったのではないかと考えます。

 

以上

【6/27-7/1週の世界のリスクと経済指標】〜進む分断と高インフレの継続〜

先週の評点:

 

リスク   36点(33点):良化 (基準点33点) 

経済指標  -10点(68点):大幅悪化 (基準点78点)

 

 

【リスク】

 先週のリスクはプラス3ポイントの良化としました。

先週はG7サミットに続きNATO首脳会議が行われ、欧州を中心に西側諸国の結束を強める動きとなりました。

NATO首脳会議では、これまでフィンランドスウェーデンNATO加盟を拒否していたトルコがテロ容疑者を引き渡す法的な枠組みを確立するなどの合意が成立したことで、一転容認しました。これにより北欧地域へのNATOの拡大が前進しました。

また、採択された「戦略概念」では、過去には「戦略的パートナーシップ」と称していたロシアを「最も重要で直接的な脅威」とし、中国に関しても「体制上の挑戦を突きつけている」として初めて明記し、中露との対抗姿勢を明確にしました。

加えて今回のNATO首脳会議には日本、韓国、豪州、NZのインド太平洋地域の主要国も招かれ、同地域の民主主義国との連携強化の姿勢も明確にしました。

 

 

【経済指標】

 先週の経済指標はマイナス10ポイントの大幅悪化としました。

米国の消費者信頼感指数や個人消費支出などの消費系指数は軒並み悪化、ISM製造業景況指数も悪化と景気悪化が徐々に織り込まれてきました。

ドイツでは失業率も上昇を示し始めました。

ドイツCPIは政府の一時的な支援策によって低下を見せましたが、ユーロ圏、仏、スペインなどの他の国では軒並み上昇を示し、欧州でのインフレ加速が示されました。

 

次週はISM非製造業景況指数、6月FOMC議事要旨、雇用統計です。特に平均時給や失業率が利上げや景気後退を織り込んで変化するのか注目したいと思います。

 

 

【先週のマーケットの振り返りと考察】

 先週の株価指数は、米国を中心に景気を示す経済指標が軒並み低下を示したため、景気後退が意識されて再び大幅反落となりました。

特に先週はマイクロンテクノロジーが6-8月期の見通しが市場予想を下回ったことや、NVDAのグラフィックカードの需要減が伝えられたことで半導体関連株が大きく反落しました。これまで供給不足が伝えられた業界での減速が見えてきたことにより、景気後退の兆しが見えてきました。

債券利回りも景気後退を織り込んで前週からさらに大幅に低下し、10年債利回りも3%を割り込みました。

 

〜進む分断と高インフレの継続〜

さて、先週は先進7カ国によるG7サミットやNATO首脳会議がドイツで行われました。

G7にはインド、セネガルインドネシア南アフリカ、アルゼンチン、NATO首脳会議には日本、韓国、豪州、NZが招待され、西側諸国の結束と共に主要新興国を巻き込んだ中露への対決姿勢を明確にしました。

西側諸国としてはここで民主主義陣営としての結束を示し、中立の立場を示す国々に対してアピールすることでロシアへの経済制裁の効果を強める狙いがあったと思われます。

 

一方でこのG7サミット、NATO首脳会議前には中国が主宰するBRICSの首脳協議が行われ、また期間中にはロシアのプーチン大統領中央アジアの親ロシア国を歴訪し、カスピ海沿岸5カ国((露、カザフ、トルク、タジキ、イラン)の首脳会議に参加しています。

BRICS首脳会議では拡大会合も行われ、イラン、カンボジアインドネシア、マレーシアなども参加し、イランとアルゼンチンがBRICS加盟申請をしたと明らかになっています。

西側の民主主義国が結束を強める一方で、同様に中露を中心とした専制主義国も結束を強め、また仲間を増やすことで西側諸国の狙った効果を打ち消しています。

 ロシアのウクライナ侵攻に対して、世界が一丸となってロシアを非難し、制裁によって侵攻を早期終結させるかと思いましたが、中国がロシアに寄り添ったことによってそれは叶いませんでした。むしろその行為に対抗し経済制裁を強めたのは西側諸国だけで、以前から浮かび上がっていた西側諸国と専制主義国の分断が進んだだけでした。

 

グローバリズムの下、これまで西側諸国はロシアの安いエネルギーと中国の安い労働力に頼って低インフレの時代を過ごしてきました。しかし、ここまで対決姿勢を明確にした分断は、西側諸国が最早それらを当てにすることができないということを示しています。

 

 中露との協力関係を保つ国、または中立姿勢を貫く国は、今後もロシアの安いエネルギーと中国の安い労働力に頼り、高い経済成長を享受することができるかも知れません。しかし、少なくとも西側諸国がそれを享受できる時代は終わった可能性があります。そうなると西側諸国は自らと、一部の中立国の中で需要を満たしていかなければならず、高インフレと低成長が恒常化する可能性があります。

 

我が国日本でもプーチン大統領がサハリン2の権益を新事業体に移す大統領令に署名したため、ロシア側の出方次第ではLNGの10%の供給を失い、さらにインフレが進む可能性が出てきました。

また今後台湾を巡って中国との関係が悪化すれば、中国で製造した安い製品の供給にも影響が出てくることが考えられ、モノが安い時代は終わった可能性があります。

 

時代が大きく変わったかも知れないことをしっかりと認識し、それに耐えるような投資戦略を考え、それと共に自らの生活を守るために給与所得の向上を求めていきたいと思います。

 

以上

【6/20-6/24週の世界のリスクと経済指標】〜反発で織り込まれた景気後退〜

先週の評点:

 

リスク   33点(33点):良化 (基準点33点) 

経済指標  -15点(42点):大幅悪化 (基準点57点)

 

 

【リスク】

 先週のリスクはプラスマイナスゼロの中立としました。

フランスでは議会下院選の決選投票の開票が行われ、マクロン大統領率いる与党連合が議席を減らし過半数割れしました。物価高に対する有権者の不満が逆風となり、大衆迎合色の強い政策を掲げる左派連合が躍進する結果となりました。

物価の上昇と共に米バイデン政権も足元では40%を割る水準まで支持率を減らしており、11月の中間選挙での苦戦が予想されます。中露への対抗で結束を固める先進国ですが、物価高により自国民からの信任を失い、政権運営地盤が不安定になることが心配されます。

 

 

【経済指標】

 先週の経済指標はマイナス15ポイントの大幅悪化となりました。

先週は欧米のPMIの発表がありましたが、軒並み悪化となり好不況の境目となる50に接近してきました。

インフレの高進により家計が財布の紐を締め始めたことが伺え、景気減速が鮮明になってきました。

 

次週はPCEデフレーター、ISM製造業景況指数に注目したいと思います。

 

 

【先週のマーケットの振り返りと考察】

 先週の株価指数は概ね大幅上昇となりました。特に米国株はナスダックが7.49%高、S&P500が6.45%高と4週振りに大幅反発となりました。

 

 

〜反発で織り込まれた景気後退〜

 さて、先週は6/22の議会公聴会でパウエル議長が米経済がリセッションに陥るリスクがあることを認め、これまでの「ソフトランディングできる」というスタンスを覆しました。

またPMIも製造業が予想56(前月57)に対して52.4、サービス業が予想52.8(前月53.6)に対して51.6と予想外の低下を示したため、景気後退に現実味が増してきました。

 

 そしてその景気後退懸念により債券利回りが全体的に低下し、10年債利回りは一時3%割れ寸前の水準まで低下する場面もありました。

下記は米国債イールドカーブの前週との比較です。

また、FedWatchによる金利先物も、全体的に低下しながら1年後の23年の6FOMCでは早くも利下げすることを織り込んでいます。(下記は6/25時点の金利予測)

 前週のFOMC前までは高インフレ下での急速な引き締めを織り込み、長期金利が上昇していました。しかし、FOMC後のマーケットはその先の景気後退や利下げへの転換を意識し始めていると言えます。

その利下げへの転換を織り込んで先週株価は大幅反発したと考えられます。

 

しかし、私はまだまだ株価の底打ちには時期尚早だと考えます。

景気後退するからと言って即利下げに繋がるとは限りません。

パウエル議長が公聴会で「我々がインフレと戦う姿勢は無条件」と述べた様に、景気後退したとしてもインフレが止まらなければ引き締めへの加速は止まりませんし、即利下げとはならないと思います。

まずはインフレの鈍化を確認することが何よりも重要だと思います。

 

前週に論じたように、今回のインフレは敵対国であるロシア、中国などの地政学的な外的要因に左右されているため、簡単には落ち着くとは思えません。おそらく上下動を繰り返しながら、明確にはわかりずらくゆっくりと下がっていくのではないかと推測します。

そうなるとやはりインフレ苦が残りながら景気後退するスタグフレーションが強く意識されます。

 

長期投資は「悲観で買い、楽観で売る」が基本ですが、まだ悲観は終わっていないと思います。

一方で「悲観の中にある買い場」を探すことを常に念頭におきながら、相場の変化を確認していきたいと思います。

 

以上

【6/13-6/17週の世界のリスクと経済指標】〜FRBが認めた外的要因の重要性〜

先週の評点:

 

リスク   33点(36点):良化 (基準点33点) 

経済指標  -12点(77点):大幅悪化 (基準点89点)

 

 

【リスク】

 先週のリスクはプラス3ポイントの良化でした。

世界的なインフレが続いていますが、政治面でもインフレ抑制のために動きが活発化しています。

バイデン大統領は原油増産を促すために7月にもサウジアラビアを訪問するとされ、またエクソンシェブロンなどの石油会社7社に対して書簡を送って高収益を批判し、原油増産への圧力をかけています。

またバイデン大統領と議会民主党は物価抑制のための新経済対策を協議していると伝えられました。

外国航路の海運運賃を引き下げる新法案にも署名し、下がり続ける支持率を引き上げるためなり振り構わずインフレ抑制に動いている印象です。

 

 

【経済指標】

 先週の経済指標はマイナス12ポイントの大幅悪化でした。

先週は各国中銀の政策金利発表がありました。

 まず米FOMCですが、事前の予想では50bpsと考えられていましたが、直前にWSJにてリークされた通り75bpsの利上げを行い、FRBの強いタカ派姿勢が示されました。また、今後の金融政策の方向性を示すドットチャートでは22年内に3.375%(前回1.875%)までの利上げが示されました。

 

また日本同様マイナス金利で緩和政策をとり続けてきたスイス銀行が予想外に50bps利上げに踏み切り、BOEも予想通り25bpsの利上げしたため、世界的な引き締め強化が示されました。

 

一方で日銀は、考慮すべきは回復途上にある日本経済であり、下押し圧力となるような引き締め政策を行う時期ではないとして緩和政策の維持を示しました。世界的な金融引き締めで円安が進んでいますが、「為替相場をターゲットとして金融政策運営はしない」としYCCも変更なく進めていくことを示しました。

 

 

【先週のマーケットの振り返りと考察】

 先週の株価指数は米国をはじめとしてスイス、英国などで予想外の金融引き締めが進んだことで、主要先進国株式は大幅反落となりました。

S&P500は高値から20%以上下落し、弱気相場入りしました。

また、米国債利回りはFOMC前に10年債が3.49%、2年債が3.45%まで上昇しながらフラット化が進み、一時逆イールドが発生しました。しかしFOMCで予想外の利上げが発表されたことにより景気後退が意識され、10年債利回りは3.25%まで低下し週を終えました。

 

 

FRBが認めた外的要因の重要性〜

さて、先週は注目の6月FOMCがありました。

事前の予想では5月に続き50bpsの利上げが予想されていましたが、前週のCPIの予想外の加速によりインフレ警戒を強めたFRBは一気に75bpsの利上げに踏み切りました。

また同時に発表されたFRBメンバーによるFF金利予測では3月には1.9%だった22年のFF金利3.4%と示されました。

この数値はFRBが景気を過熱も冷やしもしないと考える中立金利2.5%程度を大幅に上回る水準であり、明確に景気を冷やしにいくというメッセージであると受け止められます。

 

同時発表されたGDP成長率予測でも22年は4.0%→2.8%→1.7%と回を追うごとに大幅に切り下げられています。

この1.7%という数値は2000年からのGDP成長率の平均値である2%を大きく下回っており、FRBメンバーとしても急速な利上げによる緩やかな景気後退を見込んでいると言えます。

 

また、失業率予測でも過去2回の予測では22年は3.5%と過去最低レベルで推移するものと見られていましたが、今回の予測では3.7%と増加し、23年、24年でも右肩上がりに大幅に増加しています。

こちらも利上げによる労働市場の過熱抑制から失業率の押し上げを見込み始めています。インフレを抑えるためには逼迫する雇用を緩和する必要がありますが、個人的にはこの程度の悪化で済むのか懐疑的に捉えています。

 

 今回のFOMC後の会見で、パウエル議長は「一層明確になってきたのは、われわれにはコントロールできない多くの要因が、その成否を決める上で極めて大きな役割を果たすだろうということだ」と発言しています。ロシアのウクライナ侵攻に絡むエネルギーや穀物価格高騰や中国のロックダウンによる供給網の混乱などの外的要因が大きく、もはやFRBの金融政策では制御しきれないと認めています。

 

 つまりは利上げにより需要サイドを冷やしても効果は限定的かもしれず、地政学的な問題が解決しない限りは期待通りにインフレ抑制できないかもしれないということだと理解します。

 

地政学的な要因を解決するには政治が重要ですが、現在の要因となっているのはエネルギーを握るロシア、サプライチェーンを握る中国であり、それぞれ米国に敵対する国々です。そうである以上は外交で何とかなる話ではなく短期的な改善は見込めません。

外的要因が解決しないままでの急速な引き締めは、インフレが改善されないまま需要サイドを冷やし過ぎる可能性が高く、スタグフレーションに向かっていく可能性が極めて高いと感じます。

 

今回のFOMCでの内容と、S&P500が高値から20%下落して弱気相場入りしたことを受け、当面株式が上昇する局面は来ないと考え、長期投資資産の株式ポートフォリオをさらに減らしました。MSCIコクサイ20%、債券25%、現金55%とします。

 

以上



 

【6/6-6/10週の世界のリスクと経済指標】〜ECBの舵取りの難しさ〜

先週の評点:

 

リスク   3点(33点):良化 (基準点30点) 

経済指標  -5点(46点):悪化 (基準点51点)

 

 

【リスク】

 先週のリスクはプラス3ポイントの良化でした。

新型コロナは弱毒化により各国で緩和が進み、日本は外国人観光客の受け入れ開始、米国は外国からの入国者への陰性証明の提出義務を撤廃しました。また中国でも主要都市のロックダウンが緩和となり、新型コロナからの脱却が鮮明となってきました。

 

一方で民主主義国と専制主義国の対立軸の中心は、インド太平洋地域へと戻ってきました。

先週シンガポールで行われたシャングリラ会合では台湾を巡り米中国防相が非難の欧州となりました。

また米国防長官は台湾有事に備えて米軍の能力拡大を表明しました。日米首脳会談でのバイデン大統領の台湾防衛への関与明言に続き、米国の台湾への積極姿勢がより明確になりました。

これに対して中国は太平洋諸国への関与を強めており、日本から豪州へ連なる防衛線の分断を図っています。すぐに衝突につながるとは考えられませんが、出方を見ながら、少しずつ互いの領域に足を踏み入れている印象です。

 

 

【経済指標】

 先週の経済指標はマイナス5ポイントの悪化となりました。

注目の米国の5月CPIは前月、予想共に8.3%に対して8.6%とインフレの加速を示しました。FRBは3月から利上げを行っていますが、未だインフレ抑制の効果が見えてきません。

また、ミシガン大学消費者態度指数は予想58に対して50.2と統計開始以来で最低の数値となり、インフレ懸念で消費者の景況感が急速に悪化していることが示されました。

 

また先週は豪準備銀行とECBの政策金利発表がありました。

豪準備銀行は25bpsの利上げ予想に対して50bpsとタカ派な方針を示し、インフレに対して適切な措置をとると表明しました。

ECBも政策金利はゼロ金利を据え置きとしましたが、7月には25bpsの利上げを実施すると表明し、9月には50bpsの利上げも有り得ると示唆しました。

これで日本以外の主要国中銀が利上げを行う方針となりました。

 

次週は6/15に6月FOMC、6/16にBOE政策金利発表、6/17に日銀金融政策決定会合があります。

FOMCBOEは今後の金融政策見通しが注目されます。日銀も他国が引き締め傾向を強め、円安も急進する中、従来の姿勢を崩すことになるのかどうか注目します。

 

 

【先週のマーケットの振り返りと考察】

 先週の株価はアジア株は先週に続き堅調ながら、米国株式は国債利回りの上昇に振られて大幅反落となりました。

6/9にECBが7月、9月での利上げを示したために世界的な引き締めが意識され、米国債利回りも連動して上昇しました。加えて6/10の5月CPIが8.6%とインフレの加速を示したため、FRBが金融引き締めを強めるとの観測で短期国債利回りを中心に大きく上昇しました。

足元のFedWatchの金利予測でも9月FOMCでの75bpsの利上げ、年内金利3.00%が予想されるなど、利上げ加速観測の高まりと共に株価は大きく調整しました。

S&P500は3900.86となり5月19日の終値ベースでの年初来安値3900.79にあとわずかとなりました。

 

一方で中国株式は、主要都市でのロックダウンの緩和に加えて中国当局のハイテク企業への統制が緩和されるとの動きから2週連続で反発しました。

日経も主要国で唯一緩和を継続していることに加え、円安により割安度が増しているため欧米株式に比べて堅調に推移しました。

 

次週はFOMCを迎え、ドットチャートを含めた今後の金融政策の見通しに注目が集まります。

 

 

〜ECBの舵取りの難しさ〜

さて、先週は2016年3月からゼロ金利政策を継続してきたECBが、7月に25bpsの利上げを実施すると表明し、11年ぶりに利上げに踏み切る姿勢を示しました。また、9月には50bpsの利上げも有り得ると示唆しました。

背景には2021年5月に2%に達したHICPが足元で8.1%までオーバーシュートしていることがあります。

 

ECBは、加盟国である19カ国を包括した中央銀行として政策金利の決定やAPPやPEPPなどの債券購入プログラムなどの金融政策を駆使し、ユーロ圏における物価の安定と雇用の創出を図ってきました。

 一方で、それぞれの加盟国の財政政策は各国政府に任されており、またそれぞれの経済力はまちまちで格差を内包しているため、適切な金融政策を打ちづらいとされています。

 

一般的にはドイツ、オランダなどの中欧諸国は経済力が強く、イタリア、スペイン、ギリシャなどの南欧諸国は経済力が弱いとされています。

下記は6/11時点のユーロ圏各国の10年債利回りを低い順から並べたものです。(インターネットで情報入手できたのは19カ国中14カ国)

ECBの7月利上げ表明により各国の10年債利回りは上昇しましたが、経済力=信用力の低い国の債券は売られやすいため、中欧、北欧諸国の利回りに比べて南欧諸国の利回りは高くなっています。

現時点ではまだECBの政策金利はどの国も同様に-0.5%のマイナス金利となっているにも関わらず、これだけの差がついています。

 

 そして今後インフレ対策としてECBが利上げを急ぐと、より南欧諸国の利回り上昇を招き、元々経済力の弱いこれらの国々は資金繰りが悪くなり経済がますます弱っていきます。

一方で比較的経済の安定しているドイツ、オランダは直近CPIが7.8%、8.9%と高水準となっていながら、イタリアは6.9%とHICPより低水準となっています。(ギリシャは、経済が弱すぎるのでCPIも高く11.3%)

インフレ高進で利上げを急ぎたいドイツ、オランダに対して、インフレはまだ耐えれて利上げが困るイタリアの構図が考えられ、ECBは両方に配慮をしなければならなくなります。

つまりはインフレ抑制のために利上げを急いで南欧経済が破綻するか、南欧経済を守るために利上げを弱めインフレ加速を招くか、ECBは今後難しい選択を迫られることになります。

 

個人的にはECBの使命である「ユーロ圏の物価の安定」という原点に立ち返り、まずはインフレ抑制を強めると考えます。そうなると南欧諸国の経済が弱まることとなるため、そこをきっかけに欧州経済が綻び、景気後退する可能性が高いと思います。

今後は欧州経済の動向にもより注意を払う必要があります。

 

以上