投資家見習いのブログ

世界の地政学的リスクと経済指標を独自の数値で可視化し、マーケットを語ります。

【8/8-8/12週の世界のリスクと経済指標】〜変わらない政治への憂鬱〜

先週の評点:

 

リスク   2点(35点):良化 (基準点33点) 

経済指標  +5点(43点):大幅良化 (基準点38点)

 

 

【リスク】

 先週のリスクはプラス2ポイントの良化となりました。

前週に原油価格が90ドル割れとピークアウトしてきた上に、米国内のガソリン需要減少の傾向も見られたことから米国内でのガソリン平均小売価格が1ガロン4ドルを割れました。

それを反映してか、米7月CPIも減速を示しました。

 

また地政学では前週のペロシ米下院議長の訪台に反発して、8/4から8/8まで中国政府が台湾を囲む6地域で実弾を伴った大規模な軍事演習を行いました。台湾海峡の中間線を越えて中国軍機が侵入したり、日本のEEZにミサイルが着弾したりと、中国によるかなり踏み込んだ実戦演習が行われました。

習政権から「戦争の意図はない」と事前にバイデン政権に伝えられていたとの報道もありますが、周辺国の警戒レベルが一気に上昇したのは間違いありません。インド太平洋地域の国々の防衛政策へも大きな影響を与えることとなったと考えます。

 

 

【経済指標】

 先週の経済指標はプラス5ポイントの大幅良化となりました。

米7月CPIは前月9.1%、予想8.7%に対して8.5%と減速が示されました。同じく7月PPIでも前月11.3%、予想10.4%に対して9.8%と供給サイドの物価指数も減速が示されました。

また、8月ミシガン大学消費者態度指数は、ガソリン価格の落ち着きから消費に対する安心感が増したのか、前月、予想を上振れる55.1となり、ややセンチメントが回復していることが示されました。

 

 

【先週のマーケットの振り返りと考察】

 先週の株価指数は概ね上昇となり、特に米国株は小型株で構成されるRussel2000は4.93%、S&P500は3.26%と強い反発を見せました。

米7月CPIの総合指数がインフレの減速を示したことで、株式市場の楽観が増幅され、前週に続き大幅反発となりました。

一方で、コア指数は前月5.9%に対して横ばいと変わっていません。前月比でCPIの内訳を見ていくと、大きく下落してるのはガソリン価格や燃料油、ガスなどの資源であり、食品や電気、住居費などは引き続きインフレを示しています。

確かにガソリンなどの値下がりの影響は大きいですが、逆にガソリンなどの資源価格が落ち着いても、この程度しかインフレ率が下がらないとも言え、引き続き金融引き締めは継続されます。

前週も論じましたが、ファンダメンタルとしてインフレ率が高い事実は変わらず、急速な引き締めが終了したわけではありません。やはり株式市場が楽観的過ぎると感じられます。

 

 

〜変わらない政治への憂鬱〜

さて、先週は日本の岸田内閣の内閣改造が行われました。

改造が行われた大きな理由が安倍元首相殺害に関わる統一教会と議員との関わりを正すことにあったとため、実力の不明な議員が自民党内の派閥に配慮して選ばれた印象です。

新入閣の大臣は9人ですが、60代が6人、70代が2人、40代が1人とフレッシュさに欠ける内容となりました。内閣全体でも平均年齢62.65歳、70代3人、60代12人、50代4人、40代1人となり高齢大臣中心の旧来の自民党らしい派閥政治が戻ってきたと感じています。

また岸田首相自体ものらりくらりと掴みどころなく、ビジョンの見えない政策を行う姿は、民主党政権以前の「変化しない」自民党政治に戻ってしまった感覚を得ます。

個人的には昨年の岸田内閣の組閣時よりも日本を取り巻く環境は悪化しており、危機が増していると思われるため、多少「変革」を求めた陣容に変化するかと期待していましたが、それは望めなさそうな印象です。

 

しかし、事実として先の衆議院選挙、参議院選挙において岸田政権は信任されたわけであり、民主主義である以上それが国民の選択の結果としか言えません。

日本国民が「変化しない」ことを望み、それを体現しているのが岸田政権だと思います。

 

一方で、一般論として将来の長い若者が社会の「変革」を望み、将来の短い高齢者が「変化しないこと」を望むと仮定すると、すでに若者の意見が取り入れられにくく変革ができない社会構造となっていることも考えられます。

 

下記は昨年10月に行われた衆院選挙での年代別投票率を年代別人口にかけて投票数をグラフ化したものです。

若者と考えられる30代までは元々人口が少ない上に投票率が低く、年代別でみると投票数が少ない傾向にあります。

一方で現役世代を終える60代以上は長寿命化によって人口はキープしつつ投票率が高いため、投票数で見るとその数が大きくなります。

 

下記はその投票数を18歳~40代、50代以上の二つに分けたもの、18歳~50代、60歳以上に分けたものとして表したものです。

 流石に60歳以上と59歳以下の世代で比較すると59歳以下の投票数が大きくなりますが、年代を一つ下げて49歳以下と50歳以上とで比較すると圧倒的に50歳以上の票数が大きくなります。

これが意味するのは、若者の人口減と低い投票率、高齢者の増加と高い投票率により、高齢者の意見がより政治に反映されやすくなっているということです。先述した仮定で言い換えると、「変革」する政治が支持されず、安定的で「変化しない」政治が好まれることになります。

 

現在の「変化しない」政治が認められる風潮は、与党である自民党への有力な対抗勢力がないとも大きな課題ですが、このような人口構造的な問題も大きく影響していると考えられます。

しかも、この傾向は少子化と高齢化が劇的に進行している中で、今後より加速していきます。

この事実がある以上は、長期的な将来を考える必要がある若者の意見より、短期的な将来を考えれば良い高齢者の意見が政治に反映され続けます。そして足元だけ見ていれば良い、悪い意味で「変わらない」保守的な政策が支持され続けるのではないかと危惧しています。

 

良くも悪くも自民党の中でも何かを変えようとしていた安倍元首相が殺害され、その直後に自民党の古い体制を回顧させる内閣刷新が行われたことで、日本の将来に対する憂鬱さが増した週でした。

 

以上