【2023年6/26-6/30週の世界のリスクと経済指標】
先週の評点:
リスク 0点(30点):中立 (基準点30点)
経済指標 +9点(86点):大幅良化 (基準点77点)
【リスク】
先週のリスクは±0ポイントの中立でした。
先週はフランス国内での暴動が話題になりました。アラブ系の17歳の少年を仏警察が射殺したことを受け、仏国内で有色人種者を中心に反差別デモが発生しました。当局も警戒を強めていますが、各地へ飛び火し仏国内での大暴動へと発展しています。今回のデモが主に移民によって行われていることから、移民排斥を唱える極右勢力の勢力拡大にもつながる危険性があります。仏ではたびたびデモが起こりますが、インフレによる移民=低所得層の経済的な不満からも来ていることが予想され、白人対移民、富裕層対低所得層という分断が広がる可能性が考えられます。
一方で先週発表されたフランス、ユーロ圏のCPIは予想を下振れし、インフレ率の鈍化を示しました(ドイツは上振れで加速)。また米国のPCEデフレーターも総合指数、コア指数ともに予想を下回り、全体的に下げ渋りながらも確実にインフレが収まってきていることが示されました。
【経済指標】
先週の経済指標はプラス9ポイントの大幅良化でした。
米国のケースシラーや消費者信頼感指数などの景気系指標は概ね改善を示し、またPCEデフレーターは総合、コア指数共に前回と予想を下回り鈍化を示しました。インフレは低下しながらも景気が堅調さを維持していることで軟着陸の可能性も期待される結果となりました。
【先週のマーケットの振り返りと考察】
先週の株式指数はワグネルの反乱による混乱を受けたロシアRTS株式指数以外は堅調に推移しました。
先週の株式の動きの要因は下記の通りです。
・新築住宅販売件数、消費者信頼感指数などが堅調さを示し、景気の底堅さが示される。
・米1-3月期GDP確報値が改定値1.3%から2.0%に上方修正し、こちらも堅調さを示す。
・米5月PCEデフレーター、コアデフレーター共にインフレ鈍化を示す。
先週は28日にECB主催の討論会でパウエル議長が発言し、「一段の引き締めが必要だと多くの当局者が見ている」とし、年内にあと2回の利上げの可能性を示唆しました。しかし、マーケットではあと1-2回の利上げはFOMCや議会証言で既に織り込んでいるためか、悲観になることなく限定的な反応となりました。
むしろ先週は新築住宅販売件数やケースシラー、消費者信頼感指数、1-3月期GDP確報値などで数値が持ち直し、強い景気が示されたことが歓迎されました。新築住宅販売件数は前回68万件、予想67.5万件に対し76.3万件と増加し、ケースシラーでも-2.6%の予想に対して-1.7%と予想を上振れました。消費者信頼感指数では前回102.5、予想104に対して109.7とこちらも大幅に上振れました。加えて米1-3月期のGDP確報値が1.3%から2.0%に上振れたことで、米国景気の堅調さが示されました。
以前であれば経済の強さが示されることはFRBの引き締め政策の継続につながり、株安の要因となっていました。しかし、現在は十分に金利が引き上げられてインフレ率も徐々に下がり、利上げの最終仕上げに入っています。そのためか、引き締め要因となるようなニュースに対してもマーケットの反応が薄くなり、指標の捉え方も景気の良さをポジティブに捉えるようになった印象です。30日のPCEデフレーターがゆっくりながらも確実に鈍化を示したことも後押しとなり、株価は週を通して大きく反発しています。
これらのことから、株式市場においては利上げの影響が大きく薄れてきたと考えられるため、次週も引き続き株式50%の強気のポートフォリオを継続します。
一方で先週、為替は2年債利回りの上昇と共にパウエル議長の「年内1-2回の利上げ可能性」を織り込みドル高が進み、特にドル円は一時145円にタッチしました。先週示された様にドル円は政策金利への感応度が高いため、おそらく近々来るであろう米金利の打ち止めを睨んで反転する時期が来ると思います。ポートフォリオの株式部分は外国株式での運用となっており為替の影響も大きいため、こちらの動きには注視したいと思います。
次週は米ISM景況指数、雇用統計があります。為替の動きも含めて注視したいと思います。
以上
【2023年6/19-6/23週の世界のリスクと経済指標】
先週の評点:
リスク -1点(29点):小幅悪化 (基準点30点)
経済指標 -19点(56点):大幅悪化 (基準点75点)
【リスク】
先週のリスクはマイナス1ポイントの小幅悪化となりました。
先週はブリンケン米国務長官が訪中し、習主席とも会談して米中首脳会談の地ならしを行いました。しかし、その直後にバイデン大統領が講演にて習氏を「独裁者」と表現したことで歩み寄りの気運に水を差す形となりました。バイデン大統領は失言で有名ですが、両国関係が改善に向かおうとしているタイミングでの不用意な発言は、世界からの信用を無くしかねない行動となりました。
一方で関係強化に努めるインドのモディ首相が国賓待遇で米国に招かれ、米印首脳会談が行われました。会談では戦闘機用エンジンのインドでの共同生産やドローンの供給などの防衛協力で一致しました。対中国においてインドは魅力的なパートナーであるために、今回の協力関係強化は歓迎されるべきものであったと思います。一方で、自らを民主主義国と標榜しながらも宗教問題や人権問題を抱え、またロシアとも関係を保つインドに対して、米国がどこまでビジネスライクに許容できるか、今後試されていくと思います。
【経済指標】
先週の経済指標はマイナス17ポイントの大幅悪化となりました。
先週は英国のCPIが鈍化予想に対して前月と変わらず8.7%を維持しました。それを受けてBOEは25bpsの利上げ予想に対して50bpsのサプライズ利上げを行いました。
また、欧州のPMIでは、製造業はおろか、これまで堅調さを維持してきたサービス業も軒並み低下し、ECBの利上げを受けて景況感が徐々に悪化してきたことが示されました。今後これらの悪化が雇用に移り、インフレに移っていくことが予想されるため、より注目していきたいと思います。
【先週のマーケットの振り返りと考察】
日経平均、ナスダックは週間で久しぶりの反落となりました。
先週の株価の動きの要因は下記の通りです。
・パウエル議長が議会証言で年内にあと1回か2回の利上げを示す。
・英国CPIが依然高止まりしており、BOEがサプライズの50bps利上げ。
・中国経済の回復遅れに対して中国人民銀行が利下げするも、予想よりも利下げ幅が少なく失望を誘う。
・6月の欧州PMIでの欧州景気の失速傾向が顕著に。
先週はパウエル議長が議会証言を行い注目を集めましたが、年内にあと1回か2回の利上げが必要になる可能性を改めて示唆されました。それを受け株価は頭が重くなりましたが、内容的には前週のFOMCでのスタンスと何ら変わっておらず、新たな材料にはなっていません。
一方でイギリスのCPIが鈍化の事前予想に反して前月と変わらず8.7%と高止まりし、それを受けたBOEがサプライズの50bps利上げに踏み切りました。またノルウェー中銀も予想に反して50bps、スイス中銀も25bpsの利上げを実施し、欧州での利上げ継続の傾向が見られました。週末の株価はそこから世界的な引き締め継続が意識され反落した印象です。
ただ、英国のインフレ率の高止まりは、ブレグジットを経た英国固有の問題の可能性が高く、欧州全体で見るとCPIは確実に低下してきています。またPMIで示されたように、中国需要の低迷もあり既に製造業PMIはドイツを中心に相当収縮しています。さらにサービス業PMIも50は超えているものの、製造業景気の収縮と利上げの効果で低下傾向が顕著になってきました。従って今後も欧州全体のインフレ率はこのまま鈍化するものと思われます。
また、高インフレが残る欧米とは対照的に中国経済のディスインフレが深刻です。ゼロコロナ後にも戻らない需要を喚起するために、先週は人民銀行による利下げが行われました。しかし、予想よりも小幅に止まり、米中対立に加えて利上げが続く欧米との金利差拡大で資金逃避が懸念される中では、思い切った利下げもできないジレンマが浮き彫りになりました。中国景気もすぐには回復せず、当分中国のディスインフレが欧米各国にも波及してくることが考えられます。
従って、先週の下げはこれまでの上昇相場での一旦の落ち着きを見せただけで、ファンダメンタルズは変わっていないと考えます。引き続きインフレ鈍化からの利上げ停止は近いと考え、株式50%の強気のポートフォリオを継続します。
以上
【2023年6/12-6/16週の世界のリスクと経済指標】
先週の評点:
リスク -1点(29点):小幅悪化 (基準点30点)
経済指標 -6点(80点):悪化 (基準点86点)
【リスク】
先週のリスクはマイナス1ポイントの小幅悪化となりました。
先週はNATOで加盟国の国防担当閣僚が集まり、冷戦終結後初となる新地域防衛計画の策定を議論しましたが、合意に至りませんでした。トルコがキプロスなどに関する地理的位置の表現を巡って反対した模様です。ロシアのプーチン大統領が近々トルコを訪問するとのニュースもあり、ロシアと関係の深いエルドアン大統領の再選が、再びNATO足並みを乱す可能性が高まってきました。
また米中対立では、気球問題で延期となっていたブリンケン国務長官の訪中が正式に発表されました。最近は米国側が歩み寄りながらも中国が拒絶するという関係が続いていましたが、偶発的な衝突を防ぐためにも対話が再開されることは歓迎されます。
【経済指標】
先週の経済指標はマイナス6ポイントの悪化となりました。
注目の米5月CPIはコア指数が予想を上回ったものの、総合指数は予想を下回り、両指数共に前回値より低下したことでインフレの鈍化が示されました。
FOMCでは事前の予想通り金利据え置きが発表されました。一方でドットチャートは23年末金利予想が前回値より50bps上昇が示され、サプライズとなりました。
その他5月小売売上高はマイナスの予想が出ていましたが、プラス圏を保ち米景気の底堅さが示されました。
【先週のマーケットの振り返りと考察】
先週も株価指数は堅調に推移し主要指数は大幅に反発しました。
特に日経平均への海外勢を中心とした買いが続き、日銀の緩和維持の政策発表も相まり、4.47%の強い上昇となりました。
先週の株価の動きの要因は下記の通りです。
・6月FOMCでの金利据え置き観測の高まりから、強気のモメンタムが前週から継続。
・5月CPIが総合、コア指数ともに前月より低下を示したことで金利据え置き観測を下支え。
・6月FOMCではドットチャートは23年末50bps上振れも、予想通り金利据え置きとなり強気が継続。
先週は、前週にS&P500が直近安値から2割回復し強気相場入りしたことや、FRBが利上げ停止するとの観測からの強気のモメンタムが継続し、週初から堅調な動きとなりました。
それに加えて、火曜日にはCPIでコア指数は予想を上振れしたものの総合指数は下振れし、また両指数とも前月からは明確に低下し、ゆっくりながらインフレ鈍化していることが示されました。それにより金利据え置き観測が肯定され相場を下支えすることとなりました。
水曜日にはFOMC政策金利発表があり、マーケットの予想通り金利据え置きとなりました。またドットチャートは23年末の中央値が5.625%と3月の5.125%よりも利上げ2回分の上振れが示されました。一方でパウエル議長は記者会見で早急な利下げを否定したのと同時に、今後の利上げに関して「何も決定していない」とデータ次第の姿勢を示しました。そのため、マーケットにはあと2回の利上げはないと受け止められ、FedWatchでは年内はあと1回の利上げとそのまま年内維持が見込まれています。
1回の利上げは既に織り込み済みであったため、マーケットの強気はその後も継続し、週を通して主要指数の大幅上昇に繋がりました。また米株3指数で唯一回復が遅れていたダウ平均も木曜日に直近安値から20%回復し、強気相場入りとなりました。
上記の動きを踏まえ、現在のファンダメンタルズの状況をまとめると下記になります。
・債務上限問題の様なノイズが消えた。
・インフレ率はゆっくりながらも確実に低下傾向。
・利上げは多くてもあと1回か2回で予測範囲内。
・景気が予想外に堅調。
・米株3指数が強気相場入りし、株の戻りが予想以上に強い。
株の戻りが早いことがやや想定外ですが、ファンダメンタルズが改善したのとは別軸で、AIという新たなテーマが出現したことでブーストされ戻り速度が早まっていると考えられます。この流れに早めについていくこととし、ポートフォリオの株式の割合を10%引き上げ強気とし、また同時にヘッジとしての債券も10%増やしたいと思います。ついてはMSCIコクサイ50%、外国債券(為替ヘッジあり)25%、金(為替ヘッジあり)5%、現金20%とします。
以上
【2023年5/29-6/2週の世界のリスクと経済指標】
先週の評点:
リスク -2点(28点):悪化 (基準点30点)
経済指標 -6点(86点):大幅悪化 (基準点92点)
【リスク】
先週のリスクはマイナス2ポイントの悪化でした。
6/2からシンガポールで行われるアジア安全保障会議にて、米国側が米中国防相会談を打診しましたが、中国側がこれを拒否し会談が見送りになりました。中国の偵察気球問題後、米中間の対話が途絶えており、ここ最近は米国側が接近する姿勢を見せていますが、中国側の態度の硬化により偶発的な衝突リスクが拭えない状況が続いています。
一方でインド太平洋地域では、ここ最近、対中抑止を念頭に韓国の積極的な行動が目立ってきました。先週、韓国はソウルで太平洋島嶼国の首脳を招き首脳会談を行いました。そこで韓国は太平洋島嶼国に対して積極的に関与していくことを表明しています。韓国での政権交代により前政権からの政策姿勢が一転し、日米を含めた西側諸国との連携が強まっています。これまではインド太平洋地域においては日米豪を中心に西側外交を強化してきましたが、そこに韓国の存在感が増すことで、より厚みが加わることになります。中国に隣接する韓国が本格的に西側外交に加わることは、地政学的にも非常に重要度が大きいと考えられ、今後も韓国の動きには注目していきます。
【経済指標】
先週の経済指標はマイナス6ポイントの悪化でした。
先週は中国の製造業PMIの発表がありましたが、国家統計局の指標では先月よりも景況感が低下し、48.8となりました。特に中堅企業や中小零細企業の景況感の悪化が激しく、ゼロコロナからの回復よりも、これまでの中国当局による構造的な問題が影響しているような気がします。
また先週はフランスとドイツのCPIの発表がありましたが、両国とも大幅に鈍化が示され、ようやく欧州でもインフレの落ち着きが見え始めてきました。
米国では雇用統計の発表がありましたが、NFPは予想19万人に対して33万人と大幅に上振れしましたが、失業率は予想3.5%に対して3.7%悪化、平均時給も前月0.4%に対して0.3%と鈍化を示しまちまちな結果となりました。失業率や平均時給が悪化したことは利上げの効果が徐々に現れてきていると考えられます。
【先週のマーケットの振り返りと考察】
先週の株価指数は概ね反発しました。日経平均は8週連続の反発で、ナスダックは6週連続の大幅反発となりました。
先週の株価の動きの要因は下記のとおりです。
・米債務上限引き上げに与野党が合意し、上下院議会でも可決したことでセンチメントが回復。
・FRBのジェファーソン理事やフィラデルフィア連銀のハーカー総裁が、6月FOMCでの利上げ停止を示唆したことで下支え。
・米雇用統計がまちまちな結果となったことで、金利は上昇しながらも良いセンチメントを維持。
先週は、米債務上限の引き上げ問題が漸く解決を見せました。前週末にバイデン大統領と共和党のマッカーシー下院議長が引き上げに暫定合意していましたが、31日に下院で可決、1日に上院でも可決し、正式にデフォルト回避となりました。これでここ数ヶ月マーケットの重しとなっていた足枷が外れ、再びマーケットの注目はFRBの利上げに戻ってきました。
そんな中、先週はFRBのジェファーソン理事やフィラデルフィア連銀総裁から6月FOMCでの一旦の利上げ停止を示唆する発言が相次ぎました。それによりマーケットの織り込みも前週には64%あった25bpsの利上げ確率が25%に後退し、債務上限問題の解決によるセンチメントの改善も相まって週中盤から株式マーケットは上昇しました。
また金曜日に示された雇用統計でも、NFPは相変わらず堅調さが示されたものの、失業率と平均時給の伸びが崩れたことで、利上げ停止の織り込みを後押し反発を強めました。
マーケットでは6月FOMCでの利上げ停止が優勢となってきていますが、代わりに7月FOMCでは25bpsの利上げ確率が53%となっています。しかし、もともと6月で予想されていた利上げが7月にズレ込む形となっており、あと一回の利上げのコンセンサスは変わっていないため、深刻には捉えられていません。ここからは、「あと一回」というコンセンサスを基準に、FRBの政策とのギャップが出た場合にマーケットがどう反応していくかを見ていくことになります。
次週はISM非製造業景況指数くらいしか材料がなく、次の注目は6/13のCPIと6/14のFOMCでの利上げの有無とドットチャートの発表に移っていくと思われます。
利上げの有無は、「あと一回」がくるのが6月なのか7月なのかの問題であり、今となっては影響はそう大きくないと思われます。ただ、ドットチャートは3月に示された23年末5.125%の金利よりも上振れが示された場合、「あと一回」がそれ以上に増えることが警戒され、マーケットに動揺が走る可能性があります。最近のFRB高官の発言を聞く限り、今のところ可能性は低いと思われますが、注意が必要かと思います。
とはいえ、債務上限問題の偶発的リスクが去り、FRBの中でも具体的な利上げ停止議論が発生し、利上げがあと1回程度と想定されることから、改めて相場が大きく下落する可能性は低下したと考えます。先週末にMSCIコクサイの割合を30%から40%に増加し、中立のポートフォリオに変更しましたが、引き続き中立の構えで相場の動きを見ていきます。
以上
【2023年5/22-5/26週の世界のリスクと経済指標】
先週の評点:
リスク 1点(31点):小幅良化 (基準点30点)
経済指標 -11点(64点):大幅悪化 (基準点75点)
【リスク】
先週のリスクはプラス1ポイントの小幅良化となりました。
前週末にはG7サミットがあり、ウクライナのゼレンスキー大統領の登場で、稀に見る印象に残るサミットとなりました。G7サミットに招待参加していたインドのモディ首相は、その足でパプアに向かい、太平洋島嶼国の首脳会合に参加しました。接近する中国や西側諸国に対するグローバルサウスの代表者として影響力の拡大を狙ったものと思われます。現職のインド首相がパプアを訪問するのは初めてであり、徐々にインド太平洋でもインドの影響力が増してきています。一方でQUADの枠組みを持つ日米豪にとっては、インドが中立的な動きで囲い込みを行うことは対中抑止としては有効な動きであると感じます。
【経済指標】
先週の経済指標はマイナス11ポイントの大幅悪化となりました。
欧州PMIは全体的に悪化が目立ち、高止まりするインフレにより利上げを継続せざるを得ない状況の中で、徐々に景気が悪化していることが示されました。またドイツの製造業PMIの落ち込みが酷く、こちらは中国の景気回復の鈍化具合も示していると思われます。中国は回復の遅れが目立ってきており、こちらも注目が必要です。
米国PMIは依然サービス業が好調を維持し、その表れとして根強いサービス需要によりPCEコアデフレーターは前月、予想4.6%に対して4.7%と加速を示しました。
次週は米国のJOLTS、ISM製造業景況指数、雇用統計があります。最近の指標を見る限りは、雇用は高止まりを続けあまり変化がないような気がしますが、注目しています。
【先週のマーケットの振り返りと考察】
先週の株価指数はダウ平均が1%安、S&P500が0.32%の小幅高となった一方で、ナスダックは2.51%の大幅反発となりました。欧米株式指数も反落となり、ナスダック一強の様相となりました。また日経平均は7週連続の上昇となりました。
先週の株式市場の動きの要因は下記の通りです。
・債務上限を巡る問題が進展せず、タイムリミットが近づく中で相場全体は重い状態。
・債務上限問題の影響の少ないキャッシュリッチなGAFAMにマネーが集中。また、NVDAの好決算および好調な見通しによりAI関連銘柄が大きく伸長。
先週も米国の債務上限を巡る問題は進展しませんでした。26日には合意に近づいていることを仄めかす発言が共和党陣営からありましたが、混乱が予想される重い空気が続く中、バリュー株的なダウ平均は反落しました。
一方で米国債がデフォルトになっても影響の少ないと思われる、キャッシュリッチで大型ハイテク株には引き続きマネーが流入しました。銀行不安問題のでも同様の動きとなりましたが、今回もマネーの逃避先として大型ハイテク株が注目されています。恐らく先の銀行不安問題から預金保険以上の預金は不安、国債もデフォルトリスクで不安として、本来安全資産である預金、国債の信用がなくなっているのだと思います。ここ最近の金利の上昇は利上げ期待だけではないと思います。その結果、キャッシュリッチで、かつ新たなテーマであるAIも絡んで将来的な価値上昇の望めるであろう大型ハイテク株に消去法でマネーが集まってきていたのだと思います。
それは同じく日本株にも言えるのではないかと考えます。日本は唯一金融緩和を続けており、企業が利上げで苦しむこともなく、かつ円安の影響で円ベースの業績は好調を維持しています。またかつての逃避先だった中国は、米中対立や当局の企業統制強化によりリスクが高い状況です。そのため、消去法で日本は一時逃避先としては安全です。大型で流動性の高い日経平均だけにマネーが集まり、小型で流動性の低いマザーズには一切マネーが入ってきていないのがその証拠です。
このアウトプットを書いている最中に、米国債務上限問題にホワイトハウスと共和党が暫定合意したとの報道がありました。米国マーケットは月曜日が休場なので火曜日まで米市場の反応を待つ必要がありますが、ここ最近逃避先となっていたナスダック、日経平均の上昇は落ち着く可能性もあると考えます。債務上限に関わる懸念がなくなり、ノーリスク資産で高い金利のつく米国債にマネーが還流することで、今後、一旦は相場の歪さが修正されるのではと想像します。
偶発的リスクとして大きなノイズであった債務上限問題が解決されたのは大きな前進です。PCEデフレーターがやや加速を示しインフレのグズグズ感は残りますが、ゆっくりとインフレ率が低下しながら米景気は堅調に推移する可能性もあります。ついてはポートフォリオの株式の割合を10%増やし、MSCIコクサイ40%、金(ヘッジあり)5%、外国債券15%(ヘッジあり)、現金40%の中立に変更します。上述のようにナスダックや日本株は、逃避先としての役割が薄まる可能性があるためそれらを選択せず、これまで低迷していたバリュー株を含むMSCIコクサイの増加を選択します。
以上
【2023年5/8-5/12週の世界のリスクと経済指標】
先週の評点:
リスク -1点(31点):小幅悪化 (基準点30点)
経済指標 -1点(40点):小幅悪化 (基準点41点)
【リスク】
先週のリスクはマイナス1ポイントの小幅悪化となりました。
中国の4月CPIが0.1%と低下し、PPIもマイナス幅が拡大したことでデフレが示され始めました。ゼロコロナの廃止で中国経済が持ち直すと期待されましたが、米中対立などの政治的な制限もあり、中国景気が戻らずに失速する可能性が見えてきました。一方で中国の「爆買い」が低迷することで世界的な資源価格を下げ、他国のインフレ低下につながる可能性がありますのでそちらの意味でも注意が必要です。
【経済指標】
先週の経済指標はマイナス1ポイントの小幅悪化となりました。
米国の4月CPIは総合指数が前月5.0%、予想5.0%に対して4.9%と下振れ、コアは前回5.6%、予想5.5%に対して5.5%と予想通りとなりました。総合指数、コア指数共に鈍化が示されましたが、利上げの停止が近づく中でインフレ率も勢いが落ちてきた印象です。
BOEは政策金利を発表し25bpsの利上げとしましたが、3月のCPIが10.1%と高水準を維持していることから利上げの継続も示唆しました。
【先週のマーケットの振り返りと考察】
先週の株価指数はまちまちな動きとなりました。
日経平均は円安による好調な輸出企業の決算を背景に、先週に続いて底堅く推移しました。一方で米株はナスダックが堅調さを維持する一方で景気敏感のダウ平均は反落しました。
先週の動きの要因は下記の通りです。
・米4月CPI、PPIが微減となりインフレ率の鈍化が示され安堵感が広がる。
・一方で従来からの地銀不安に加え、米債務上限を巡る米与野党の協議が延期になるなど警戒感も継続。
先週は米4月CPIの発表がありました。雇用統計やISMなどの堅調な結果から上振れる可能性もありましたが、総合指数、コア指数ともにほぼ予想通りの結果となりました。前月から鈍化を示したため、安堵感から金利は低下しキャッシュリッチな大型ハイテク株に資金が集まりナスダックは上昇しました。しかし大型ハイテク株に資金が集まったと言っても、全体的に債務上限を巡る不透明感が覆い被さり、雰囲気は徐々に重くなってきた印象です。
景気敏感株や中小型株は、その債務上限問題の重さに加えて依然地銀不安が根強く残っていることから力強さに欠け、ダウ平均やRussel2000は反落しました。
全体的な相場の印象としては先週とさほど変わらず、根強い大型ハイテク株と弱い景気敏感・中小型株の二極化の傾向が継続しています。
ついてはファンダメンタルズは何も変化していないとして、引き続き弱気のポートフォリオを継続します。
方向感のない相場となっていますが、やはり債務上限問題が解決に向かわない限りは次の見通しを判断することは難しいと思います。最終的には妥協が見出されて債務上限が引き上げられると想定しますが、ギリギリまで引っ張るとマーケット主導で不測の事態が発生する可能性も考えられます。地銀不安が根強く残る中、仮にデフォルトを恐れて債券が大きく売られた場合、含み損の増加から再び地銀からの預金流出が起こり、混乱に繋がる可能性もあると考えます。
債務上限問題は米国の政治的な対立に起因し、人為的に解決可能な事象です。仮にこの問題が解決されずデフォルトするか、もしくは何か世界的な混乱を生む原因となった場合、米国の信頼は失墜すると思います。おそらく中国は米国と民主主義システムを批判し、西側民主主義国は対中露で重要度が増しつつあるグローバルサウスへの影響力を失うことになると思います。
米国議会がこのチキンレースを無難に終結し、間違いを犯すことがないことを祈ります。
以上
【2023年5/1-5/5週の世界のリスクと経済指標】
先週の評点:
リスク 2点(32点):良化 (基準点30点)
経済指標 4点(106点):良化 (基準点102点)
【リスク】
先週のリスクはプラス2ポイントの良化でした。
先週はフィリピンのマルコス大統領がフィリピン大統領としては11年ぶりにホワイトハウスを訪問し、バイデン大統領と首脳会談を行いました。マルコス大統領は就任当初は米中両国との関係強化を図ろうとしていましたが、ここに来て米国との距離が急接近しています。今回の訪米では米国のみならず、日本や豪州などを含めた多国間での防衛協力に向けて指針を策定していくことに一致しています。台湾有事を念頭に置いた際に地理的に重要なフィリピンが西側諸国寄りになることは、重要な一歩であり今後の同国の動向に注目されます。
【経済指標】
先週の経済指標はプラス4ポイントの良化となりました。
先週は多くの重要指標が発表されました。
まずISM景況指数ですが、製造業、非製造業共に前月、予想を上回り堅調さが示されました。特に非製造業は前月に大きく低下しましたが、再び上昇し基準値である50を維持しました。
またFOMCでは25bpsの利上げが決定され、利上げの打ち止めも示唆されました。一方でパウエル議長が会見で「インフレが高止まりすれば利下げはしない」と利下げまでは簡単には踏み込まない姿勢が示されました。
最後に雇用統計ではNFPと平均時給は前月、予想を上回り、失業率は3.4%と前月3.5%、予想3.6%を下回り、雇用の堅調さが示されました。
【先週のマーケットの振り返りと考察】
先週の株価指数はまちまちな動きとなりました。
米株指数はダウやS&P500は景気後退を受けて反落しながらも、AAPLの好決算に牽引されてハイテク株が伸長しナスダックは年初来高値を更新しました。
先週の動きの考えられる要因は下記の通りです。
・FRCに続いてPACWやWALなどの他の地銀の預金流失が懸念され株価が暴落。それにより景気後退が連想され景気敏感銘柄は反落。
・利下げは否定されながらも利上げの打ち止めが示唆されたためFOMCを無難に通過。
・AAPLの好決算と雇用統計の好調さが示されたため、足元での景気後退が否定されてショートカバーで全面的に反発。
先週は「不安」と「堅調」が交雑した複雑な週となりました。
週初めはFDIC主導によるJPMのFRC買収報道から開始され、一旦は銀行問題が落ち着きを見せたかに思えました。しかし、問題はFRCに止まらず、次の不安要素としてPACWやWAL、FHNなどが売り浴びせに遭い、それぞれ週足で43%安、26%安、37%安となりました。それらの動きをきっかけに景気後退不安が再燃しました。
一方で雇用統計ではNFPは予想16万人に対して25.3万人、失業率は予想3.6%に対して3.4%、平均時給も前月・予想共に0.3%に対して0.5%と好調さを維持しました。前週に示された雇用コスト指数も増加が示されており、雇用はまだ景気後退を織り込んでいないことが証明されました。
また先週決算発表のあったAAPLもiPhoneの回復から売上高、EPS共に予想を上回り好決算となりました。これで大手ハイテク企業決算は概ね予想を上回り、景気後退の懸念がある中でも逆に回復傾向が示される形となりました。
そしてFOMCでも「インフレが高止まりすれば利下げはしない」との発言がありながらも、利上げ停止は「近づいている感触、すぐそこの可能性も」との示唆があり、ここでも不安と堅調が混在している様子が示されました。
これらを受けて、株価は週頭からFOMCを挟みながら木曜日まではずるずると反落しながら、金曜日にはAAPL決算と雇用統計を受け大幅反発するなど方向性に欠ける動きとなりました。
一方向に景気後退に進むのであれば分かりやすいのですが、ここまで雇用と企業業績が底堅さを見せるとFRBがインフレ率2%に向けての引き締めの手を簡単に緩められるとも思えません。加えて債務上限問題も重くのしかかってきています。先週はイエレン財務相が6/1にも債務不履行となる可能性を指摘し、よりそのリスクが明確になってきた印象です。
FOMCでは利上げ停止が示唆され相場の転換点が近いことが示されたものの、同時に今後の金融政策については「入ってくるデータと経済見通しに基づいて会合毎に決定していく」と明確に示されませんでした。言い換えればFRBですら現在の状況は不確定要素が多いため慎重にならざるを得ず、見通しを示せない状況です。
ついては、まだ無理に株式を増やしてリスクを取りに行く状況ではないと考え、引き続き株式30%の弱気ポートフォリオとします。
次週は米国のCPI、PPIの発表があります。銀行問題がインフレ率にどのような影響を及ぼしているか注目したいと思います。
以上