【3/9-3/13週の世界のリスクと経済指標】〜10年に一度の大幅下落相場の考察〜
先週の評点:
リスク -7点(35点):大幅悪化 (基準点42点)
経済指標 +2点(35点):小幅良化 (基準点33点)
短期の相場感:弱気
長期の相場感:弱気
【リスク】
先週もCOVID-19の影響は収束を見せませんでした。
感染拡大の中心地が中国から欧州へ移り、かつ中国よりも感染のスピードが早まっています。
3/14 20:00現在、欧州ではイタリアで一万五千人、フランス3600人、スペイン4200人、ドイツ3000人、米国でも1000人を超えています。
WHOがパンデミックを認定、スペインに続き米国も非常事態宣言を出して全世界的に危機感を共有するようになりました。
その他ではCOVID-19の影に隠れて、イラクに於いてイランと米国の間で再度武力行為により衝突が起きました。イラン、米国共にCOVID-19の感染拡大阻止に注力しているため、今のところ大きな問題にはなりにくいと思いますが、注意が必要です。
また、COVID-19の影響によりブレグジットや米欧貿易交渉などに停滞感が見られるため、こちらも後々問題化してくるかもしれません。
全体では先週もCOVID-19のリスク拡大の影響が大きく、マイナス7ポイントで大幅悪化としました。
【経済指標】
イングランド銀行はポジティブサプライズの0.50%の下げでした。
一方で3/12の株価暴落の真っ最中に発表された欧州中央銀行(ECB)の政策金利は利下げ予想を裏切る0.00%据置となりました。
数値自体は中立ですが、マーケットの利下げ期待を裏切り株価の下落幅を増幅させることとなりました。
全体としてはドイツの鉱工業生産、BOEの利下げのポジティブでプラス2の小幅良化としました。
【先週の振り返りと次週の展望】
先週は10年に一度の相場だったと思われるため、色々と考察してみたいと思います。
①総評
先週は週明けから、懸念となっていた原油安が一気に進み、大きくリスクオフになりました。
やはり先週末に出たサウジアラビアの原油増産のニュースが嫌気され、3/9に原油先物価格が41.51から一時27.34まで下落しました。(3/9終値は31.13)
それをきっかけに各株価指数は一気に下落し、下記の通り記録的な大幅下落となりました。
※今回から産油新興国の動きを観るためにロシアRTS指数とブラジルボベスパ指数を追加しました。
3/13のNY時間での米国のCOVID-19に対する非常事態宣言の内容を好感し、米国株式およびブラジル株式は大きく反発して戻したので週足は他の指数よりは落ち着いて見えますが、3/12にはダウ終値も21200まで下落しました。
②先週の相場の特徴
先週の下落相場の特徴を考察したいと思います。
下記は米国10年国債価格、GOLD(金)、ドル円(為替)のチャートです。
通常、今回のようなリスクオフ時には株価が売られ、その売られた資金が安全資産である米国10年国債やGOLDに流れるため、この二つの価格は上がります。また、ドル円は安全資産である円が買われるため下落します。(赤破線矢印)
しかし、3/9を境としてこれらの資産の動きは逆の動きをしています。(赤矢印)
これは、先週の下落のインパクトが異常に大きかったために、レバレッジをかけて(お金を借りて)資産運用していたヘッジファンドに大きく損失が出て追加証拠金が発生し、その追加証拠金を補填するためにその他の利益の出ていた資産の売却に走ったことが考えられます。
そのため米国10年国債が売られ、GOLDが売られ、また日本円で持っていた資産を売りドルに換金するために円売りが行われて円安になっていることが考えられます。
この一週間の相場はそれほどまでに異常な相場であったことを示しています。
そしてこの異常な相場は今後徐々に落ち着きを見せ、リスクオフ時には米国債とGOLDは買われることになり、ドル円は円高に振れていくと思われます。
つまりその時には、特に日経平均にはより厳しい状態が待っていると思われます。
③原油安の影響について
1. 新興国の動き
先週に入って原油価格がさらに大きく下落しました。
下記は原油価格(オレンジ色)と産油新興国であるロシア通貨ルーブル/USD(青色)、ロシアRTS株価指数(水色)のチャートです。
年初から原油価格の下落に連れて下落していたロシアRTS株価指数とルーブルは、先週に入って更に株安、通貨安となっています。
エネルギーセクターはロシアの輸出額の63.8%(2018年)を占めます。そのため現在の原油価格は明らかに国家としての収入を激減させます。株価の下落はそれを織り込んでいます。
※Jetro資料より引用
またロシアルーブルは対ドルで年初の高値から16%下落しています。
通貨安はロシアにインフレを引き起こす可能性があります。
例えばそれまで年始には100ルーブルで買えていた海外からの輸入品が16%増の119ルーブル払わなければ買えなくなります。
その海外からの輸入品が人々の生活必需品だった場合、人々の生活を圧迫します。
そして、下記の通りロシア国債でも23%を占める外貨建て債務(ユーロボンド/約400億ドル超)が通貨安によってルーブル建で増加し、利払いも増加する事になります。
※みずほ総合研究所資料から引用
ロシアは財務相が「現在の原油の価格水準でも6年間は十分なリソースがある」と発言しており、サウジアラビアの増産措置に対抗して日産30万バレル増産するとしています。
確かに6年間を耐えられるリソースを持っているかもしれませんが、このまま原油安が常態化すれば、元々低迷する経済を更に弱めて通貨安を常態化させ、インフレを起こしてスタグフレーションを引き起こします。
そして債務増加を引き起こし、ロシア経済自体を破綻に向かわせる可能性があります。
※ここではロシアをフォーカスしましたが、同じ産油新興国のブラジルも同様な状況になると思われます。
2. シェール企業の動き
下記はアメリカの主要シェール企業の株価推移のチャートです。
3/9の原油急落を受けて各企業の株価も急落しましたが、3/13の米国の非常事態宣言を受けて一旦は3/9前の価格を上回っている企業もあります。
ただ、サウジアラビアが4月から260万バレル増やした1230万バレルに増産し、ロシアもそれに追随する状況では現在の原油価格が大幅に上昇する可能性は薄く、その状態で平均損益分岐点が50ドルと言われるこれらの企業が今後生き残って行くことがかなり厳しいと思われます。
それを感知して、これらのシェール企業の社債が10%を占めると言われるハイイールド社債(投機的格付け債)の利回り指数は、下記の通り急カーブを描き3/6から1.78ポイントも急上昇しています。(つまりハイイールド債が急激に売られて価格が下がっている。)
このハイイールド債と似たような資産でCLO(ローン担保証券)というものがあり、こちらにもシェール企業の社債が多く含まれています。
ちなみに日本の農林中央金庫が約6兆円、三菱UFJ銀行が約1兆円このCLOを保有している様です。
米国のシェール企業が倒れると、金融機関にも影響が出てくる可能性があります。
④今後の展望
今回の2月末からの株式の下落相場は、現時点では下記のように考えます。
- 元々2018年末のFRBの利上げによる株式大幅下落を発端とする各国中央銀行の利下げによりバブル形成
- COVID-19の感染拡大が中国ローカルの問題から世界へ飛び火し実体経済への影響が表面化(2/24週)
- COVID-19による中国需要の減退から下落していた原油価格に減産で対応しようとしていたOPECプラスが決裂し原油価格下落(3/6)
- サウジによる原油増産宣言で原油価格急落。それによる株価急落で耐えきれなくなったヘッジファンドがレバレッジの解消に走り、他の資産までも売却することによってそれが連鎖して暴落。(3/9週)
簡単にまとめると、「利下げバブルがコロナの影響で弾け、原油安でとどめを刺されている」と言えると思います。
しかし、まだ事態は継続しており、今後は恐らく上がらないと思われる原油価格に対して中東産油国、ロシアやブラジルなどの産油新興国、シェール企業を含む産油先進国(米、カナダ)がどこまで耐えられるかのチキンレースになってくる可能性が高いと思われます。
そしてそのチキンレースに負けた国が大きな経済的ダメージを受け、更に相場を下落させる可能性があると考えます。
つまり今後も予断を許さないため長期は弱気のスタンスを継続します。
ついては今後は「原油価格」、「産油新興国(ロシア、ブラジル)の株価および通貨」、「ハイイールド債利回り」に注目して行きたいと思います。
次週は引き続きボラティリティの高い相場が続くことが想定され、COVID-19および各国の金融政策/財務政策のニュースに振り回されることになると思います。
しかしながらまだ上向きになる状況ではないと思われ、短期も引き続き弱気のスタンスです。
最後に2020年高値からの3/13終値の比較と、更に下落した場合の目安を更新しましたので参考までに添付します。
以上