【8/10-8/14週の世界のリスクと経済指標】~重要経済指標のおさらい~
先週の評点:
リスク -8点(34点):悪化 (基準点42点)
経済指標 +13点(109点):大幅良化 (基準点96点)
【リスク】
先週も米中での対立を激化させる事象が続きました。
中国は欧米諸国の懸念をよそに、香港にて共産党に批判的な新聞の創業者であるジミー・ライ氏と民主活動家のアグネス・チョウ氏らを香港国安法違反の容疑で逮捕しました。
両氏はすぐに保釈されましたが、容疑がはっきりしない中での逮捕劇となり、香港民主派に対する中国共産党の急な圧力の強化から欧米諸国の懸念をさらに強めることとなりました。
また前週の米国の香港のキャリーラム行政長官らへの制裁に対応して、中国は対中強硬派の米共和党議員ら11人に対して制裁を発表しました。
一方で米国側も1979年の国交断交以来の最高位である厚生長官が台湾を訪問してツァイ総統と会談し、それに対して中国は猛反発しています。
米ポンペオ国務長官も東欧諸国を訪問し、ファーウェイなどの中国ハイテク機器を排除するように訴えました。
全体としてはCOVID-19の感染拡大、米中対立、香港問題の激化でマイナス8ポイントの悪化としました。
【経済指標】
先週の重要指標としては米国のCPI、小売売上高が発表されました。
CPIは前月比0.6%増、前年同月比でも1.0%増となり伸びが加速されました。
一方で小売売上高は予想1.9%に対して1.2%となりネガティブとなりましたが、自動車を除くと予想1.3%に対して1.9%となりポジティブとなりました。
総じて言うと前月に比較して自動車の売り上げは落ち着いたものの、その他の売り上げは順調に伸び、物価も上昇していることを示しています。
若干気になるのが中国の指標で、製造業の活動を示す鉱工業生産は横ばい、消費活動を示す小売売上高は予想に反して1.1%減となりました。
ここ数ヶ月に政府で企業の主導での強い回復を見せてきた中国経済ですが、一般市民の消費活動はまだ回復が遅いことが示されています。
失速することはないと思いますが、消費活動の回復を待つために少し足踏みする可能性も考えられます。
全体としては引き続き好調な指標が多かったため、プラス13ポイントで大幅良化としました。
【先週の振り返りと考察】
先週の株価指数は日経225とロシアRTS指数の伸びが目立ちましたが、その他はほぼ横ばいの印象でした。
日経平均の株価の伸びは前週末の米雇用統計が大きく影響していると考えられます。
一時、COVID-19の感染拡大から週次で発表される新規失業保険申請件数が悪化していたために、マーケットが予想する「V字回復」が否定されかけていましたが、前週のISM景況指数と雇用統計がポジティブな結果を示し、再度V字回復の機運が復活してきました。
同時に上昇した米金利によって円安ドル高が発生し、景気敏感な日経の輸出関連株が買われました。
ロシアRTS指数は、効果は定かではないもののロシアが世界で初めてCOVID-19ワクチンを承認したため、その安心感から買いが入ったものと思われます。
~重要経済指標のおさらい~
さて、私は毎週末の振り返りで、毎週行われる経済指標の発表の内容をまとめて点数化していますが、今回は改めて重要経済指標の内容を整理してみました。
下記はその重要指標をまとめた一覧です。
経済指標には様々な指標がありますが、基本的には下記を基準とすれば良いと思います。
また、注目すべきは国は米国、EU(ドイツ)、中国あたりかと思います。
一覧に記した各指標を説明していきます。
1.政策金利
最重要。各国の中央銀行が短期金融市場を操作する目的のために調整する金利。行き過ぎたインフレ時
(好景気時)は金利を上げ引き締めを行いインフレを抑制、デフレ時(不景気時)は金利を下げて緩和し
適度なインフレを促がす。
一般的には利上げすると株価は下落/通貨は上昇、利下げすると株価は上昇/通貨は下落となる。
2. 雇用系指標
1)失業率
求職活動を行っているにも関わらず、就業の機会を得られていない人口の割合を表す指数。
低ければ雇用が多く景気の良さを表す。高ければ雇用の機会が少なく景気の悪化を表す。
2)雇用者数(米国の場合は非農業部門雇用者数と表現される)
農業従事者以外でどれだけ雇用が増えたかを示す指数。一般的な企業での労働従事者の増減を示す。
3)平均時給
主要産業の人件費の増減を示す。雇用の需要が高いと増加、需要が低いと減少する。
上がり過ぎると将来のインフレ圧力、下がり過ぎると将来のデフレ圧力となる。
4)新規失業保険申請件数
米国のみの指標。新規で失業保険を申請した労働者の数をまとめた指標で週次で発表される。
普段はあまり気にすることはないが、月次の雇用統計に比べ、雇用の状況を即時的に把握できるため
コロナショック後に重要視されるようになった指標。
3. インフレ系指標
1)消費者物価指数(CPI:Consumer Price Index)
消費者が実際に購入する商品の小売価格(物価)の変動を表す指数。これが年率2%になることが先進国
では最適とされ目標とされている。
2)個人消費支出価格指数(PCE Deflator:Personal Consumption Expenditure Deflator)
米国の商務省が発表しているインフレ系指標。米国のみ。
CPIと比較してより包括的でカバーする範囲が広い。また、PCEに使われているデータは企業調査に
ウェイトが置かれており、CPIは家計調査にウェイトが置かれている。
消費者の財布のだけでなく経済全体を見れるため、FRBはPCEの方をインフレ指標として好む。
4.景気系先行指標
1)購買担当者景況指数(PMI:Purchasing Manager Index)
各業種の購買担当者に生産高、受注状況、雇用などのアンケートを行い、景況感を数値化したもの。
製造業、非製造業(サービス業)がある。
50以上であれば改善、50以下であれば悪化を意味する。
主にIHS Markit社による発表のもの。
2)ISM景況指数
米国専用の指数。全米供給管理協会(Institute for Supply Management)が算出する景況感を表す数値。
米国では上述のPMIよりこちらの方が重要視される。
こちらも製造業、非製造業にて発表され、50以上で改善、50以下で悪化を示す。
尚、製造業指数の方が雇用への影響が大きいので重要視される。
5.景気系遅行指標
1)小売売上高
小売業、サービス業の売り上げ高を集計したもので、個人消費の動向を示す。特に米国はGDPの7割を
個人消費が占めているため、景気の動向を確認できる。
2)GDP(Gross Domestic Product : 国内総生産)
一定期間内(主に四半期毎)に国内で生産された財とサービスの付加価値の合計を表したもので、前期比
および前年比でその成長率を比較する。
各国の経済成長率を表す重要指標。
一番重要なのが米国の指標ですが、中でも最重要なのは米FRBのFOMCで決定される政策金利です。
こちらの金利如何によって世界のマーケットの大きな流れが形成されます。
そしてFRBがその政策金利を決定する際に重要視しているのが、雇用統計とインフレ指標です。
FRBの使命は米国の雇用の維持・増大と適度なインフレの確保(2%が目標)です。
そのためこれらの指標は注意深く見守る必要があります。
米国の指標によると4月を底に雇用も徐々に回復していますが、未だ1550万人の労働者が失業保険を受け取っている状況です。
それに従いFRBは雇用の維持、回復のために空前の金融緩和を続けています。
今後その過程で物価上昇(インフレ)してくる可能性もあり得ますが、FRBは最近、平均的に目標値である2%に収まるのであれば一時的には2%を超えても許容する考えを示していますので、柔軟な対応が行われる見込みです。
先週の7月のCPIの数値は前月比0.6%、前年同月比1.0%となり伸びが加速しましたが、まだまだ物価上昇は抑制されており当面金融緩和政策が継続されることを正当化しています。
つまりは当分株式市場に融和的な状況が続くことを示しています。
以上