【9/13-9/17週の世界のリスクと経済指標】〜AUKUSで広がった米欧の亀裂〜
先週の評点:
リスク -2点(43点):小幅悪化 (基準点45点)
経済指標 -2点(52点):小幅悪化 (基準点54点)
【リスク】
先週のリスクはマイナス2ポイントの小幅悪化となりました。
先週は政治的な動きが多かった週でした。
まず米英豪が新たな安全保障の枠組みである「AUKUS/オーカス」を発表し、同時に米英が豪に対して原子力潜水艦の技術を供与し、インド太平洋での中国抑止の強化に乗り出しました。
一方で2016年に豪州との潜水艦の共同開発者として選ばれていたフランスは突然の出来事に激怒し、マクロン大統領が駐米、駐豪大使の召還を指示する事態となっています。
EUも正式に「インド太平洋戦略」を発表し、EUとして対中を意識して同地域の安全保障に関わっていくことを示しました。
一方で中国はロシアと主導する上海協力機構の首脳会議で同枠組みでへのイランの加盟手続きを進めることを決め、インド、パキスタンなど含めた中央アジア地域での協力体制を強化しました。
また、TPPへの参加も表明しました。
積極的に外交を展開するも互いにギクシャクする欧米に対し、自らの協力体制を着々と拡大する中国が対照的な印象でした。
【経済指標】
先週の経済指標はマイナス2ポイントの小幅悪化となりました。
米8月CPIコア指数は予想4.2%に対して4.0%と下振れし、6月の4.5%をピークに7月4.3%、8月4.0%とピークアウトの様相を呈してきました。
しかし、絶対的に強い数値であるのは変わりなく、9月FOMCを前にどのように解釈されるか判断が難しいところです。
また、8月の小売売上高はデルタ株蔓延から-0.8%と減少が予想されていましたが、0.7%とポジティブサプライズとなりました。
次週はいよいよ9月FOMCが開催されます。
「パウエル議長によるテーパリング開始時期の言及」と「FRB当局者による利上げ予想時期のドットチャート」に注目です、
テーパリングのコンセンサスとしては9月FOMCでの決定はなされず11月FOMCまで持ち越しされることが予想されていますが、前週に論じたようにインフレ圧力の継続と求人環境の回復を背景に、9月FOMCでのテーパリング決定のサプライズも十分にあり得ると思います。
ドットチャートは「23年末までに少なくと1回の利上げが半数以上」となった前回予想がさらに前倒しとなりタカ派に転ずるのか注目です。
【先週の振り返りと考察】
先週の株価指数は、前週に続き米国の9月FOMCを前にテーパリングが意識され、弱含みで推移しました。
米株式指数は9/3の米雇用統計をピークに2週連続で下落となりました。
また、中国・香港株は中国恒大集団の債務問題の影響が波及するとの懸念で不動産株や銀行株を中心に売られました。香港ハンセン指数は9/16には10ヶ月振りの安値を記録しました。
次週は米FOMCを迎え、為替、株価共に大きく動くと予想します。
タカ派に出た場合はドル高株安でナスダックの下げが大きく、ハト派に出た場合はドル安株安でダウの下げが大きいと予想します。
ここ最近のグズグズした値動きを見る限りテーパリングを消化できておらず、短期的にはどちらに転んでも株安につながると考えています。
〜AUKUSで広がった米欧の亀裂〜
さて、先週はインド太平洋地域を巡り、西側諸国での重要な安全保障上の政策が発表されました。
まず15日に米英豪による新しい安全保障の枠組みである「AUKUS/オークス」の発表されました。
米英の技術供与により豪州に原子力潜水艦が配備され、インド太平洋地域における中国に対しての抑止力が強化されることとなりました。
時をほぼ同じくして、16日にはEUから「インド太平洋戦略」が正式に発表されました。
「中国の軍事力の増強による緊張の高まりでヨーロッパの安全保障に直接的な影響を及ぼす可能性がある」との認識を示し、「海上交通路の安全確保のために、加盟国による海軍配備に力を入れる」という姿勢が示されました。
米英豪、EUが西側諸国として、安全保障上の対中政策を前進させたのは歓迎すべき出来事です。
しかし、その背景を見ると西側諸国の連携が徐々に一枚岩ではなくなってきていることに危機感を感じます。
アフガニスタン撤退を境に、米バイデン政権の欧州同盟国軽視が目立ち、欧州の米国離れが加速しています。
今回のAUKUSでの豪州への原潜技術供与に関しても、通常潜水艦の技術供与の豪州との契約を破棄されたフランスには、米英豪から事前に充分な説明や協議がなされなかった模様です。
激怒したフランスのマクロン大統領は、駐米大使、駐豪大使の召還を指示する事態となりました。
また、EUにも事前に相談はなかった様で、今回のAUKUSの発表を受けて「EUは独自の防衛・安全保障戦略を策定する必要がある」との認識が表明されることとなりました。
元々アフガン撤退において、欧州の延期要請を顧みずに米国が部隊撤収を断行したことで、EUでは米国に依存しないEUの独自部隊の創設が叫ばれる様になっていましたが、それを煽る形となりました。
フランスを含め多くのEU加盟国はNATOの枠組みの中で米国とは同盟国です。
それを軽視した今回の行為は、アフガニスタン撤退で失ったバイデン政権の欧州からの信頼をさらに失墜させるものです。
これでEUは安全保障における米国との共同路線から距離を置くことになると思われます。
トランプ政権時代に同盟国との協力体制がないと中国に対抗できないと理解し、バイデン政権は発足から欧州の同盟国との関係改善に努めてきたはずです。
しかし、ここ最近のバイデン政権の稚拙な政策の進め方は理解ができません。
多国間の繋がりである以上は細部へ配慮し、ある程度の合意を得てから動くことが必要なはずですが、短期的な成果を急ぐあまり、その配慮がすっぽり抜け落ちているような気がします。
多国間では物事が拙速に政策決定できないのは分かりますが、合意形成を否定することはそもそも民主主義を否定することにもなりかねません。
米国には民主主義陣営のリーダーとして、より同盟国に配慮しながらの行動が求められます。
以上