投資家見習いのブログ

世界の地政学的リスクと経済指標を独自の数値で可視化し、マーケットを語ります。

【5/3-5/7週の世界のリスクと経済指標】〜G7外相会合での台湾問題声明の効果〜

先週の評点:

 

リスク   1点(34点):小幅良化 (基準点33点) 

経済指標  -3点(84点):小幅悪化 (基準点87点)

 

 

【リスク】

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先週のリスクはプラス1ポイントの小幅良化としました。

新型コロナはインドなどのワクチン接種が遅れる新興国での拡大が続きますが、一方で欧米でのワクチン特許の一時解放の議論が高まり、バイデン大統領が推奨しました。

EUではフランスが賛成、ドイツやイギリスは難色を示していますが、中国、ロシアのワクチン外交が攻勢を強めていることもあり議論が進むと思われます。

 

 また、先週はロンドンにて対面式のG7外相会議が行われ、海洋進出や人権弾圧を続ける中国に対して抑止を求める共同声明が発表されました。ここ最近EUとしての対中懸念が表面化していましたが、改めて仏独伊のEU主要国が共同声明に参画し、また台湾問題にも言及したのは西側諸国の対中懸念の共有という意味で重要でした。

 

 

【経済指標】

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先週の経済指標はマイナス3ポイントの小幅悪化としました。

 米ISM製造業景況指数は予想65.0に対して60.6と低下、非製造業景況指数も予想64.3に対し62.7と低下を示しました。両方とも60超えと高い水準にはあるものの、部品供給網の目詰まりや原材料不足により生産抑制や在庫不足となっており、供給サイドが問題となっていることが示されました。

 

 また、4月雇用統計は、非農業部門雇用者数が予想に97.8万人に対して26.6万人とネガティブサプライズとなりました。こちらも半導体不足から自動車工場などの稼働が低下し製造業での雇用が低下したことや、雇用需要は強いものの手厚い失業保険により労働者が戻っていないことが原因として推測されています。

FRBが金融政策決定において雇用を重視していることから、結果次第ではテーパリング観測が高まると見られていましたが、テーパリング観測が後退する結果となりました。

 

一方で英BOEは現行金融緩和政策を維持するとしつつも、週間の債券購入額の減額を発表しテーパリングを示唆しました。

 

 

【先週の振り返りと考察】

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先週の主要株価指数は概ね堅調に推移しました。

米市場はイエレン財務長官の金利上昇容認コメントもあり、シクリカル銘柄へのマネーのシフトが続きダウ平均が伸びた一方で、ハイテク株には逆風となりナスダックが下落しました。

また景気回復期待からのコモディティ価格の高騰を背景にして露RTS指数や伯ボベスパ指数も大幅に伸びました。

 

先週末の米雇用統計の結果で、当面のテーパリング懸念が後退したため、今週はコモディティ高、ドル安、株高が予想されますが、BEI指数も2.49%で高値を更新しているため依然金利は高水準で維持されると予想します。

ついてはハイテクよりもシクリカルに優位となり、引き続きナスダックは横ばいか下落、ダウ平均上昇と見ています。

 

〜G7外相会合での台湾問題声明の効果〜

 さて、先週はG7外相会合がロンドンにて久々の対面方式で行われました。

議長国であるイギリスの主導のもと、アジア地域、中でも中国を中心としたインド太平洋地域での懸念が表明されました。特に台湾に関しては、先立って日米間で行われた2+2会合、首脳会談で表明された内容を踏襲し、「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調し、両岸問題の平和適解決を促す」との共同声明が出されました。西側の民主主義国家としては、G7と言うもう一段大きな枠組みで台湾問題に踏み込んだ形となりました。

 そしてそれに対して中国側はこれまで同様「中国の主権に乱暴に干渉した。」「中国の内政問題」と反発しています。

 

 私は今回のG7の共同声明は、台湾に近い日本にとっては非常に心強く重要な声明だったと思いつつも、それがどこまで効果を示すかは懐疑的に見ています。

そもそもG7の枠組みが弱体化しています。東西冷戦終結後、世界を主導し自らの経済力を拡大してきた欧米主体の民主主義国家に対する信頼が揺らいでいます。

以前議論したように民主主義国家のマイノリティー化が進んでいます。

https://minarai-tousan.hatenablog.com/entry/2020/07/19/102520

 

 また、そもそも台湾問題における中国の「台湾問題は中国の内政問題」との主張は、国連における制度において正論です。

1971年の国連でのアルバニア決議(国連総会決議2758)により、国連は「中華人民共和国」を安保理常任理事国と承認し、それまで安保理常任理事国だった「中華民国(台湾)」はその座を失い国連を脱退しました。

それに伴い、それまで「中華民国(台湾)」を支援していた米国や日本などの西側諸国も、巨大市場である中国との国交正常化と引き換えに、「中華民国(台湾)」を国と認めず断交し現在に至っています。

 

 つまり中国が主張するように、制度上は台湾はあくまでも中国の一部であり、中国の「一つの中国」の主張は正しいこととなります。それは、国連という場で世界各国が決定した事項であり、それに従って西側諸国も台湾との断交を行なった結果です。

中国からすると、西側諸国が「民主主義を掲げる地域だから」「半導体供給網の要所だから」と言って今更ながら横槍を入れてくるのは筋違い、となります。また、台湾の独立問題はイギリスが抱えているスコットランドの独立問題やスペインのバスク地方カタルーニャの独立問題同様と解釈されると思います。

 

 もちろん南シナ海東シナ海での独善的な領地拡大行為は許されるものではありません。

また、香港での言論弾圧や新疆ウイグルでの弾圧も、我々が持つ人道的な見地からは許されるものではありません。

しかし、中国の主張の中にはそれなりに筋が通るものもあり、殊に台湾問題に関しては第三者視点で見ると西側諸国よりも中国の主張の方が筋が通ると思います。

 

そう考えるとG7やフィリピンやマレーシアなどインド太平洋地域の中国と直接的に係争を抱える国は別として、それ以外の国々の同調は薄く、台湾問題へは冷めた対応となるのではないかと感じています。現在の枠組みの主流になっているG20レベルになれば、ロシアや中国も含むため間違いなく同意は得られません。

 

今回の声明はドイツ、イタリアなどのEU内での親中国家も含まれたものであり、これらの国を巻き込んで発表されたことは歓迎すべきであり、中国に対する抑止力になると考えます。

しかし、その効果は限定的であり、国際世論を形成しながら中国の台湾併合へ考えを改めることは極めて難しいと思います。

 

以上