【2/21-2/25週の世界のリスクと経済指標】〜既存秩序の無力さ〜
先週の評点:
リスク -3点(33点): 悪化 (基準点36点)
経済指標 +6点(93点):良化 (基準点87点)
【リスク】
先週のリスクはマイナス3ポイントの悪化としました。
先週はロシアがウクライナへ全面侵攻しました。現代社会で大国が隣国へ侵略戦争を仕掛けたことに衝撃を受けています。ロシアは首都キエフを陥落させ、現政権を打倒することを目標としています。それに対してウクライナでは総動員令が出され、国民を挙げての抵抗戦が展開されています。
【経済指標】
先週の経済指標はプラス6ポイントの良化となりました。
欧州のPMIは製造業はサプライチェーンの問題が依然残るのか、やや低調さを見せましたが、サービス業は概ね好調でオミクロン株のピークアウト共に回復傾向が示されました。
米国のPMIも製造業、サービス業共に上振れし、こちらも景気の持ち直しを示しました。
PCEコアデフレーターはCPI同様、依然高い水準を維持していることが示されました。
【先週のマーケットの振り返りと考察】
先週の株価指数はロシアのウクライナ侵攻懸念により週の前半は大幅に落ち込みましたが、侵攻開始と共に反転し、米株指数を中心に反発して週を終えました。
「戦争は買い」のアノマリーなのか、ウクライナ情勢悪化により景気が悪化し米金融引き締めの手が緩められるとの観測なのかわかりませんが、戦争により強い反発が示されました。
しかしながら、今回の戦争によりさらに物流が滞ることは確実であり、インフレに拍車がかかると思われます。インフレに対するFRBの金融引き締め姿勢は変わることは無いと思います。
イールドカーブも一時大幅に下方向に下がりましたが、結局前週末からは大幅に上方向にシフトし、フラット化しています。
こうしてアウトプットを書いている最中に、欧米がロシアのSWIFTからの排除を決定したため、次週はリスクオフから始まると想定します。
〜既存秩序の無力さ〜
先週はロシアがウクライナに侵攻を開始し、国連常任理事国でもある大国が隣国の主権を崩そうとしていることで世界に衝撃が走りました。今回の侵攻は首都を含むウクライナ全土への一斉攻撃で、クリミアのような部分侵攻とは訳が違いました。
冷戦後に西側諸国の作り上げた秩序に対して突然反旗を翻したのです。
しかし、今回の侵攻に対して、西側諸国が支援はすれども直接的な介入は行わないという異例の状態となっています。
それは以下の理由によるものだと考えられます。
- ウクライナはNATO加盟国ではないため、NATOはウクライナを防衛する義務はない。
- 国連常任理事国であるロシアが当事国であるため、国連安保理で非難決議が採択できず、国連としての抑止力が機能しない。
- 反撃による自国への甚大な被害が想定されるため、核保有国であるロシアに対して攻撃できない
今回のロシアのウクライナ侵攻は、隣国の体制変更を求める明らかな暴挙でありますが、その対抗を裏付ける「大義」が西側諸国にはなく、かつ核保有国特有の「抑止力」によって守られて西側諸国は強く出れません。
またこれまでのグローバリゼーションによってロシアから安いエネルギーを調達し、経済依存していることが、西側諸国の対抗への躊躇に拍車をかけています。
一方で、このロジックはそのまま中国の台湾侵攻にも当てはまります。
台湾は1971年のアルバニア決議において国連常任理事国の座を現在の中国に奪われ、「中国の一部」として扱われ国連にも加盟していません。
つまりはいくら台湾が異を唱えようとも、国際的な台湾の地位は「中国の一部」であり、本来であれば他国が介入できる話ではありません。西側が軍事介入してしまえばロシアがクリミア侵攻した時の理由と同じです。西側諸国にとっては、ウクライナ以上に台湾を防衛する「大義」がないのです。
国連安保理にかけたくても台湾は承認されていません。それに常任理事国である中国が拒否権を発動すればどんな決議も採択されません。
西側諸国は、核を保有する中国本土に対して軍事行動もできません。
そしてロシアに対するSWIFT排除を躊躇した西側諸国が、より経済的な結び付きの強い中国に対して、即座に強い経済制裁を行えるか疑問です。
今回のウクライナ侵攻は、核保有国で国連常任理事国である独裁国家が暴力に訴えた場合に、既存秩序は無力であるということを証明しました。
これで中国はいつでも台湾を取りに行くことができます。
そしてその次は日本の領土が侵攻されるかもしれません。
今回のロシアの行動によって、これまでの西側諸国が中心となって作り上げられた冷戦後の秩序が否定され、世界が近代の混沌の歴史に巻き戻された印象を持ちます。
唯一原爆を落とされ、苦い経験をした国としての日本の反戦思想は大事にするべきものです。
一方で「憲法9条があるから侵略されない」「日米安保があるから大丈夫」という幻想に頼るのではなく、暴力で既存秩序が覆された現実を見ていく必要があると思います。そして再び戦争に巻き込まれない様に抑止力としての自己防衛能力強化を考える時期に来ていると思います。
連日ウクライナのゼレンスキー大統領の国民に対するメッセージや、一般市民も巻き込んだ抵抗戦の様子がSNSを通じて流れてきます。そして「何としても祖国を守る」という彼らの強さを感じています。
彼らがロシアに屈せず、主権を失わずに無事に生き抜くことを祈ります。
少しでも彼らの力になればとわずかばかりの寄付をしました。
ご参考までに寄付先情報を添付します。
https://twitter.com/UKRinJPN/status/1497100158693416961?s=20&t=cZvvQHTZ7F0mN0xDYrW3lA
以上