投資家見習いのブログ

世界の地政学的リスクと経済指標を独自の数値で可視化し、マーケットを語ります。

【2/14-2/18週の世界のリスクと経済指標】〜欧州エネルギー安保で拡がる経済的分断〜

先週の評点:

 

リスク   -2点(34点): 悪化 (基準点36点) 

経済指標  -9点(62点):大幅悪化 (基準点71点)

 

 

【リスク】

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 先週のリスクはマイナス2ポイントの悪化となりました。

先週はウクライナ情勢を巡る様々な情報が行き交いました。

ロシア側は侵攻するつもりはないと言いながらも国境付近への軍備増強の手を緩めず、一方で米国はロシア側から発せられるニュースをフェイクだと言い、バイデン大統領はプーチン大統領ウクライナ侵攻を決断したと確信し、数日中にも攻撃を始めるとしています。

真偽のわからないヘッドラインに振り回され何が正しいのがわかりませんが、2/20で北京五輪が閉幕するタイミングも重なることから緊張感が一層高まっていることは事実です。

次週情勢が大きく動き、それに対して西側諸国がどのように対応するのか、引き続き注目したいと思います。

 

 

【経済指標】

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   先週の経済指標はマイナス9ポイントの大幅悪化となりました。

 前週に議論した日本の総合CPIは前回0.8%、予想0.6%に対して0.5%と低下しましたが、エネルギー全体で17.9%増(前月16.4%増)、生鮮食品以外の食品が1.3%増(前月1.2%増)といずれも原材料の輸入価格の高騰を受け上昇を強めました。一方で携帯電話料金が53.6%減となり総合指数を1.47%押し下げているため、実質的には2%に近い水準を保っている状況です。

今春も企業による商品の値上げ予定が相次ぐため今後の推移に注意が必要です。

 

またFOMC議事要旨の発表がありましたがサプライズなし、米1月小売売上高は予想外の3.8%と強さを見せ、高インフレの中でも米消費が堅調に推移していることが示されました。

 

 

【先週のマーケットの振り返りと考察】

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 先週の株価指数は、ウクライナ情勢のヘッドラインに振り回され全体的に軟調となりました。

当事国である露RTS指数、またロシアからのエネルギー供給不安で独DAXの下落が顕著となりました。

ナスダックは昨年末来13.4%減で50MAが200MAを下抜けるデッドクロスの状態となり、下降相場に入ったことが示されました。

米国債イールドカーブウクライナ情勢の悪化から安全資産への逃避と、3月50bpsの利上げ観測がやや落ち着いたことで2年債利回りが低下しスティープ化しました。

また原油ウクライナ情勢の悪化に伴い一時95ドルまで上昇する一方、イランの核合意交渉の前進で原油供給が増えるとの観測から一時90ドルを割るなど、ウクライナとイランのヘッドラインによる綱引きで大きく動きました。

 

次週もウクライナ情勢に振り回される相場が予想されます。

 

 

〜欧州エネルギー安保で拡がる経済的分断〜

 ロシアの天然ガス輸出の39.2%(2021年6月時点)が欧州向けと言われていますが、ロシアは現在、欧州に対してウクライナ情勢での揺さぶりをかけるために供給量を絞っています。

ロシア国営のガスプロムは欧州向けで21年に前年比8%減、足元の22年1月は全体の輸出量が前年同月比41%減で欧州向けの減少が顕著となっていることが見て取れます。

足元の天然ガス価格の高騰で高い利益を得られていることを背景に、ロシアは政治的な圧力を優先して強気になっていると思われます。

 

一方でそれに対抗するべく、アメリカとEUは1/28に欧州への天然ガス安定供給を維持するため連携するという共同声明を出しました。

そしてその声明の通り、米国が欧州向けLNGの輸出を増やしています。

1年前には全体の1割だった欧州向けのLNGの輸出割合が今年1月には6割にも上っています。

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日本経済新聞2/19朝刊1面より転載

 LNG輸送は、海上輸送が基本となるため輸出元での液化設備、輸出先での気化設備が必要となります。そのため、ガスのまま直接輸送できるパイプラインに対してコスト競争力がありません。

しかし、欧州での天然ガス価格自体の高騰や安全保障上の問題から急速に米国産LNGの競争力が上がってきています。

米国では液化能力を年内に2割増強する予定とされ、また新たなLNGプラントの設備投資も再開される模様です。米国から欧州向けの供給力は増加が見込まれ、米国が急速にロシアに取って代わろうとしています。

 

今後仮にロシアがウクライナを侵攻せずに撤退したとしても、ロシア産エネルギーに対する不安はなくなりません。

ロシアへのエネルギー依存の危険性を認識してしまった欧州は、多少コストはかかったとしてもロシア産エネルギーからの依存脱却を図り、米国を中心とした西側諸国からの導入に切り替えると思います。

 

一方でロシアも、欧州の減少分を補完するため、今年に入り中国向けで年100億立方メートル、ハンガリー向けで10億立方メートルなど権威主義国向けの新規追加契約を増やしています。特に中国は2019年にパイプラインが開通したため、供給量を増やしやすい状況となっています。

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WSJ 2/18記事より転載

 

これらが示唆するのは、経済的分断です。

これまではグローバリズムの中で経済的な効率が優先され、西側東側関係なく最適調達が行われていました。

しかし、中国を中心とした権威主義国の台頭で、世界は大きく変わってしまいました。

これまでは米中個別での経済的な分断が目立ちましたが、今回、それにロシアと欧州の問題が加わったことでエネルギー安保での民主主義陣営、権威主義陣営それぞれの連携に発展しました。それにより、より広範な経済的分断につながってきている気がします。

 

経済的効率よりもそれぞれの陣営の安全保障が優先される冷戦時の世界に戻りつつあると感じます。

そして分断により衝突の可能性が高くなると共に、経済的効率が下がる事によってインフレ下での私たちの生活コストをさらに押し上げることにもつながってくると思います。

 

以上