【1/31-2/4週の世界のリスクと経済指標】〜最後の緩衝地帯としてのウクライナの重要性〜
先週の評点:
リスク -5点(31点): 悪化 (基準点36点)
経済指標 -1点(102点):小幅悪化 (基準点103点)
【リスク】
先週のリスクはマイナス5ポイントの悪化となりました。
北京五輪開幕に先立ち、ロシアのプーチン大統領と中国の習近平主席が会談し、ウクライナ、台湾に対するお互いの姿勢を支持して蜜月さをアピールし、民主主義陣営との対決姿勢を示しました。
また前回北京五輪では幅広く80近い国から首脳が開会式に参加しましたが、ここ最近の中国の独善的な振る舞いと新型コロナの影響もあり、主に権威主義国からの参加に止まり民主主義国との溝が鮮明になりました。
またウクライナ情勢では、米国が8500人の派兵準備及び3000人規模のドイツ・東欧への派兵を発表しました。抑止力としての意味合いが強いですが、緊張が高まっています。
【経済指標】
先週の経済指標はマイナス1ポイントの小幅悪化となりました。
RBA(豪準備銀行)、BOE、ECBの政策金利発表がありました。
RBAはQEを終了させながらも利上げには慎重姿勢を示しハト派、BOEは0.25%→0.50%と利上げ+QT開始でタカ派、ECBは金利据え置きながら年内利上げの可能性を排除せずこれまでのハト派からタカ派への転換を示しました。
コロナショック前もマイナス金利政策をとっており、元々ハト派色の強いECBがタカ派転換したことは、今や世界的にインフレ対策が大きな課題となっている表れであり印象的でした。
また、米国指標ではISM景況指数と雇用統計の発表がありました。
ISMは製造業、非製造業共に前月から低下を見せ、インフレ高進が徐々に景況感を圧迫して来ていることが示されました。
スタグフレーションとなる可能性が高まって来ているため、今後景況感などのソフトデータに注目が必要です。
また雇用統計では平均時給が前回、前月比0.5%に対し0.7%と強い上昇を見せ、賃金インフレの継続を示しました。
次週は2/10の米CPIの発表に注目です。
【先週のマーケットの振り返りと考察】
先週は米国株式指数が前週に続いて続伸、日経平均を含むアジア株式も米国株に連れて上昇しました。(上海は休場)
米株指数は今週も大型ハイテク企業の決算発表に一喜一憂し、大きく上下に振られる展開となりました。
下記はこれまでの大型ハイテク株の決算直後の騰落率です。(赤枠が先週決算発表の銘柄)
大型株にも関わらず、決算が良ければ急上昇し、悪ければ急落する場面が目立って来ました。
昨年までは全体が上昇していたため指数自体が伸びていましたが、より個別要因が重要となって来ています。
また、金融引き締め傾向ににある中で、PERが高いため上昇幅よりも下落幅の方が大きい印象です。
株式指数自体は戻っていますが、2/4には金利が上昇する中でもハイテク株が強かったりと激しいボラティリティの中で違和感の残る動きが続いているため、株式を買いに走る状況ではないと考えます。
大型ハイテク銘柄の決算がほぼ終了し、牽引役がいなくなる次週からはどのような動きになるか注目しています。
〜最後の緩衝地帯としてのウクライナの重要性〜
さて、今週は緊張が高まっているロシアのウクライナへの侵攻懸念に関して改めて振り返ってみたいと思います。
今回のロシアのウクライナ侵攻懸念は、拡大するNATOに対するロシアの危機感の表れであると考えます。
NATOは元々強大なソ連軍に対抗して西側諸国で作られた軍事同盟でした。そのため本来であればソ連崩壊と共にその役割は衰退していくはずであったと考えられます。
しかし、NATOはソ連崩壊後にもその役割を終えず、西側諸国の象徴として逆に旧ソ連圏でありワルシャワ条約機構のメンバーであった東欧諸国を民主化で飲み込み拡大していきました。
その中で旧ソ連の中心国であったロシアが、自らの同胞と思っていた国々が取り込まれながら、かつての敵陣営が間近に迫ってくることに脅威を感じ続けたことは容易に想像できます。
今回、ロシアはウクライナ国境付近への軍隊集結と共に、NATOに対して「NATO不拡大」を要求する安全保障提案を提示しています。
下記はNATO加盟国と、現在NATOが加盟申請国として認識している国を表したものです。
現在、ウクライナ、ボスニア・ヘルツェゴビナと共に、同じくロシアと国境を接するジョージアもNATOへの加盟を申請しています。
ウクライナと共にジョージアまでもが加盟するとなると、ベラルーシ以外ほぼ全面に渡りNATO加盟国及び西側諸国であるフィンランドが迫ることとなり、ロシアが感じる脅威は計り知れないものになります。首都モスクワにも近く接地面積の大きいウクライナは最後の緩衝地帯として非常に重要なのです。
従ってロシアの今回の主張自体は理にかなったものであると考えられます。そもそもNATOの設立の意義が対旧ソ連圏の軍事同盟であったのだとすると、ここまでの拡大路線が必要だったのかと疑問を感じます。
確かに西側諸国にとっては東欧諸国の民主化は歓迎すべきことでした。一方で緩衝地帯である東欧諸国を安易に「米国の同盟国」としての安全保障の枠組みにまで組み入れ過ぎた結果、強いロシアの警戒を招いたのだと考えます。
ウクライナ、ジョージアのNATO入りを巡っては、2008年にも独仏の反対によりは否決されています。外交上、弱腰を見せられない事情はありますが、両国の加盟はNATO内でも一枚岩にならないことから、NATOとしても「不拡大拒否」でなくもう少し融和姿勢を見せても良いのではないかと考えます。
一方で、ロシアもNATOの不拡大を訴えるのであれば、なぜ軍事行動に訴える必要があるのか疑問です。クリミア併合やウクライナ東部での独立運動への支援などの前科がある以上、軍事行動で訴えれば訴えるほど、近隣諸国は軍事的保護を求めてNATO加盟への傾倒を深めます。またNATO自体も警戒を高め拡大を強める結果となり自らの首を絞めることとなります。
地政学上、緩衝地帯は非常に重要です。
今回は、米国の対中傾倒や、欧州への影響力の衰退、また欧州のロシアへのエネルギー依存の高まりなどから、ロシアがここぞとばかりに緩衝地帯存続への警告として踏み込んできた感があります。
現在は互いに落とし所を模索していますが、最終的には互いにこれ以上踏み込むことはせず、ウクライナの中立性が保たれる様に暗黙の内に同意することでしか解決方法はないと考えます。
以上