投資家見習いのブログ

世界の地政学的リスクと経済指標を独自の数値で可視化し、マーケットを語ります。

【2/28-3/4週の世界のリスクと経済指標】〜リアリズムを貫くインド〜

先週の評点:

 

リスク   -3点(33点): 悪化 (基準点36点) 

経済指標  +18点(126点):大幅良化 (基準点108点)

 

 

【リスク】

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 先週のリスクはマイナス3ポイントの悪化でした。

先週はロシアのウクライナ侵攻に対し欧米各国が経済制裁を強めました。欧州で最も親露派で依存が大きかったドイツの方針転換の影響が大きく、ウクライナEU加盟議論も進むほど一枚岩になってきました。それと共にロシアの銀行に対するSWIFT排除やプーチン大統領本人や側近への個人資産凍結、また企業によるロシア事業からの撤退やロシアへの輸出停止、スポーツの世界でもロシア排除の動きが加速しています。

 

一方で先週はロシアとウクライナによる停戦交渉も2回行われましたが、ロシアは武装解除ウクライナは全面撤退を求めて平行線を辿っており、依然ウクライナへの攻撃は継続しています。

戦闘が長期化していますが、ウクライナおよびロシア経済共に消耗は激しく、今後どのような展開となるのか予想がつきません。ウクライナからの周辺国への難民は120万人を越えました。

 

 

【経済指標】

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 先週の経済指標はプラス18ポイントの大幅良化となりました。

景気を図る重要なソフトデータである米ISM製造業景況指数は上振れ、非製造業指数は下振れとなりました。供給制約や労働力不足による影響で指標に統一性がなく判断が難しいですが、スタグフレーションに向かっているかどうかを確認する指標として今後も注目したいと思います。

 

一方で米雇用統計はNFPは67.8万人と大きく上振れ、失業率は3.8%で完全雇用となりFRBの使命である雇用の最大化を達成しました。

これでFRBはもう一つの使命である「適切なインフレ率」を保つため、躊躇なくインフレ対策を行う準備が整いました。

 

 

【先週のマーケットの振り返りと考察】

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 先週の株価指数ウクライナ情勢の悪化を受け、全体的に大幅反落となりました。特に今回の戦争の舞台となっている欧州株の下落が激しく、独DAXは1週間で10%の下落となりました。また通貨でもユーロドルが1.12ドルから1.093ドルまで急落しています。

 

先週の米国市場では2つの注目点がありました。

一つ目は3/2のパウエル議長の議会証言で、「3月FOMCでの0.25bpsの利上げを支持」「インフレ指標次第では大幅な利上げの可能性を閉ざさない」という具体的な利上げに関する明言がありました。

3月FOMCで利上げがされるのかどうか、また利上げ幅は0.5bpsが有り得るのかという市場の不安に対して「利上げはするが0.25bps」と予告したことで不透明感が払拭されました。それによりマーケットは金利高となりながらも株高となり、利上げをうまく織り込まれた可能性を示しました。

 

二つ目は米国債イールドカーブで、私がイールドカーブに注目したここ半年は概ね上方向へのベアフラットニング(景気過熱/金融引き締め)が続いていましたが、先週は明確に下方向へのブルフラットニング(景気減速/将来金融緩和)となり、景気減速を織り込み始めました。

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FRBによる金融引き締めを織り込み業績相場への移行を示唆しつつも、ウクライナ情勢の悪化による資源等のインフレ懸念も手伝い景気後退も懸念される微妙な状態が示されています。

それでも株価は最高値から一時ナスダックは20%、S&P500は10%調整され、かつ利上げの織り込みが示唆されて上方向に動く可能性が増えたと考えられるため、長期投資のポートフォリオを変更し、株式30%→35%に修正しました。

MSCIコクサイ20%、ナスダック100 ETF 10%、三菱地所5%、国債25%、現金40%)

 

 

 

〜リアリズムを貫くインド〜

 さて、前週に開催された国連安保理では常任理事国であるロシアが拒否権を発動したため、ロシアに対する非難決議が否決されましたが、今週はさらにロシアの完全撤退を求める緊急国連総会が開催されました。

国連総会決議に法的拘束力はありませんが、国際社会の軍事行動を許さない意志を表すために重要な意味があります。

結果は加盟国193カ国中、141カ国が賛成、ロシアを含む5カ国が反対、35カ国が棄権、12カ国が無投票で採択されました。

 

賛成以外の国々を世界地図で色分けすると以下のようになります。

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総会決議が採択されたことで、国際社会がロシアの暴挙を許さないという意思を示せたことは、一定の効果があったと思います。

一方でここまで合理性に欠けた軍事行動が行われたにも関わらず、「非難決議に賛成しなかった国々」も一定数いることが気になります。

それらの「決議に賛成しなかった国々」はアジア諸国(中国、中央アジア、南アジア)、アフリカ諸国に偏っている印象です。

中国は対米国の協力関係、中央アジア旧ソ連圏であり政治的、経済的な強い関わりがあることで、ある程度納得ができます。それに加えアフリカ諸国や南アジア諸国が賛成していなことに、やや意外な印象を受けました。おそらくアフリカ諸国や南アジア諸国は武器供与など、ロシアとの何らかの軍事的な利害を抱えていることが考えられます。

 

 中でもインドは、3/25の国連安保理でロシアの避難決議に対して非常任理事国としても棄権しており、その姿勢は注目に値すると考えます。

 

インドは元々、どの国とも同盟しない「中立国」であり「全方位外交」を明言していますが、自由民主主義国であり、本来は西側諸国と近い考えを持っていると考えられます。

しかし、今回インド側は、安保理および国連総会では事態を非難し、平和を望むとしながらもロシアを名指しするコメントはせず、いずれも投票棄権としています。

 

インドとロシアの関係は深く、1971年に旧ソ連と締結した「インド・ソ連平和友好協力条約」を基に永らくソ連およびロシアからの武器供給がトップシェアを続けています。

昨年11月にもロシアから地対空ミサイルシステム「S400」の供給が始まり、12月には新たに2031年までの軍事協定を結んでいます。それらのことからインドとロシアは軍事的に切っても切れない関係であることは事実です。

つまりはインド自由民主主義陣営でありながら、ロシアの他国に対する侵略行為を諌めるよりも自国の利害が重要だと考え、リアリズムを取ったと言えます。

 

インドは「自由で開かれたインド太平洋」戦略の中で要であり、日米豪印による「QUAD」の一員としても重要なパートナーです。3/3にも日米豪印の4カ国によるオンライン協議が行われましたが、ここでもロシアへの避難を強める日米豪に対して、「対話の道に戻ることが必要」とロシアに対する姿勢を変えることはありませんでした。

 

インドはこれまでのクアッドでの対中連携に関しても、中国を明確には名指しせず対立をエスカレートさせない態度を示してきました。今回の一件では、秩序を一変するような有事であってもあくまでも自国の利害を重視しリアリズムを貫くインドの姿勢がより明確となりました。

今後のインド太平洋における安保連携においては、如何にインドに利害を示して取り込んでいくかが重要です。一方で有事においてインドは必ずしも西側諸国に同調するとは限らず、対中連携の足枷となる可能性も否定せずに副案を講じていく必要があると思います。

 

以上