投資家見習いのブログ

世界の地政学的リスクと経済指標を独自の数値で可視化し、マーケットを語ります。

【9/5-9/9週の世界のリスクと経済指標】〜止められない円安〜

先週の評点:

 

リスク   2点(32点):良化 (基準点30点) 

経済指標  -1点(50点):小幅悪化 (基準点51点)

 

 

【リスク】

 先週のリスクはプラス2ポイントの良化となりました。

政治面では、英国のジョンソン首相辞任に伴う保守党首選挙が行われ、ポピュリズム色の強いトラス氏が首相となりました。トラス氏はインフレに対して大胆な減税策で立ち向かうとしていますが、足元で国民が求める政策である一方、減税でよりインフレが強まるとの懸念も否めません。強まるインフレにより欧州内でポピュリズムの流れが続くのか、注目したいと思います。

 

 またIPEFの閣僚会合が開催され、14カ国が参加しました。ただ、TPPやRCEPなど関税の撤廃や引き下げなどに関する議論はなく、あくまでもサプライチェーン連携強化の目的であるため、ASEANなどの参加国への求心力が低く、今後の実効力を伴ってくるか疑問が残ります。

 

 インフレ面では、OPECプラスが10月から減産に合意したため、原油価格は上昇するかと思われましたが、中国のロックダウン拡大により中国景気の減速感の高まりの方が意識され、軟調に推移しました。OPECプラスの減産自体も、景気後退による原油の需要減を意識しての対策であり、景気後退が徐々に顕在化してきた印象です。

 

【経済指標】

 先週の経済指標はマイナス1ポイントの小幅悪化となりました。

米国のISM非製造業景況指数は低下予想に反して上振れ、製造業景況指数同様、米国経済の底堅さを示しました。

また先週はRBA、カナダ銀行、ECBと主要国の政策金利発表がありましたが、RBAが0.5%、カナダ銀が0.75%、ECBが0.75%とどの中銀も積極的な利上げを行いました。

その結果、主要国では唯一金融緩和政策を維持している日本との対比が鮮明化し、円が大幅に売られる事態となりました。

 

次週は米CPI、英CPIの発表があります。

米総合CPIはガソリン価格の落ち着きから減速が予想されていますが、エネルギー高騰の影響を受け続け加速が予想される英国のCPIの数値に注目します。首相が代わって初めてのCPIであるため、政策に与える影響としては小さくないと思われます。

 

 

【先週のマーケットの振り返りと考察】

 先週の株価指数は概ね堅調に推移しました。

米国ではFRB高官から9月FOMCでの75bpsの利上げを支持する発言が相次ぎ、FedWatchでも75bps利上げ確率が9割を超えてきました。しかし、ジャクソンホール以降のFRBタカ派姿勢を一旦織り込んだのか、株価は4週振りに反発しました。

OPECプラスで減産合意があったにも関わらず、中国景気の減速が意識されて原油価格が下落したことによりインフレ懸念が後退し、ハイテク株を中心に後押ししました。

 

 

〜止められない円安〜

 さて、先週は豪中銀、カナダ中銀、ECBがそれぞれ50bps、75bps、75bpsと大幅利上げに踏み切ったことで、日銀との政策金利差が意識されてドル円が大幅に動きました。

週明け140.18円で始まったドル円でしたが、豪中銀が政策金利を発表すると急伸して1日で約2円上昇、翌9/7にはさらに上昇し一時145円にタッチする事態となりました。

その後、144円を挟む展開となりながら、9/9に日銀の黒田総裁の「急激な円安は好ましくない」、鈴木財務相の「あらゆる手段を排除せず」との発言で急落し、一時141.50円まで急落、142.52円で週を終えています。

 

円安方向にボラティリティの激しい一週間となるなかで、日銀総裁財務相の最大限の口先介入で一旦は円安に歯止めがかかった形となっています。

しかし、ファンダメンタルとしては、日銀が金融引き締めを開始しない限り金利差は拡大する一方です。長らく続いている金融緩和によって低金利を前提に運営されている日本の財政と経済では、金利を上げれば更なる国の財政悪化、また資金調達の悪化で破綻する企業や個人が増加することとなります。そのため容易に利上げすることは罷りなりません。

 

一方で為替介入で何とかなるかと言っても、今回は従来の円高に対応した円売りドル買いではなく円安であるため、手持ちのドルで円を買わないといけません。円を売る場合は国債を発行して円資金を調達すれば問題ありませんが、今回は外貨がである手持ちのドルを使用しなけれなりません。しかしドルは日本にとっては有限です。

ここ1年は物価高の影響で貿易収支が悪化しており、その影響もあってか1年前の218月をピークに保有している外貨を1.42兆円から1.29兆円に急速に減らしています。

まだ1.3兆ドルの資金を残しているとは言えますが、ドル円の1日の平均取引量が約8700億ドル(2019年4月のBISの数値から推計)です。ここに影響を及ぼすのに10%程度の取引を行うとすると870億ドルが必要となり、単独で介入するとしても打てる弾数は限られ、効果が薄いと考えます。

他国との協調介入が必要となりますが、よりインフレに苦しむ米国にとってはドル高が必須であり、協調介入は難しいと思われます。

 

そうなると打てる手は限られ、必然的に円安傾向はまだまだ収束が見えないと思います。

このままマーケットの動きに任せて世界的なインフレが収まるのを待つしかありません。

円安により我々の生活コストは確実に上がっていますが、それは脆弱な日本の財政と経済を守るためであり、既にスタグフレーションが起こっている欧州に比べればまだマシと考え、耐えていくしかありません。

 

以上