【12/12-12/16週の世界のリスクと経済指標】~FRBへの信頼感の喪失~
先週の評点:
リスク 7点(37点):大幅良化 (基準点30点)
経済指標 -3点(138点):小幅悪化 (基準点141点)
【リスク】
先週のリスクはプラス7ポイントの大幅良化でした。
米国の11月CPIは前月値、予想値共に下回って7.1%となり、6月の9.1%をピークに鈍化傾向が顕著になってきました。米国のインフレは順調に落ち着いてきていることが示されています。
また政治面では米国が8年ぶりにアフリカ連合(AU)首脳をワシントンに招き、会合を行いました。この会合で米国は今後3年間で550億ドルのアフリカへの投資計画やAUのG20への参加支援、アフリカからの国連安保理常任理事国への後押しなどを表明しました。アフリカ地域では中国やロシアの関与が先行していますが、中露へ対抗する上では同地域の国々の取り込みが重要であり、米国もようやく重い腰を上げました。
そしてインド太平洋地域では日本政府が外国からの攻撃に対する反撃能力の保有を閣議決定しました。中国や北朝鮮、ロシアへの対抗を念頭に置き、戦後の日本の安保政策の大きな転換点となりました。一方でその財源を巡って一部を増税で賄うことに対して議論が紛糾しています。今回の政策転換の本質である反撃能力保有の是非ではなく、増税議論にすり替えられてしまっているところに、マスコミの姿勢を含めて疑問を感じます。
【経済指標】
先週の経済指標はマイナス3ポイントの小幅マイナスとなりました。先週は重要指標が目白押しでした。
米11月CPIは前月7.7%、予想7.3%に対して結果7.1%と下振れし、インフレの鈍化が示されました。一方、CPIの結果により政策転換が期待されたFOMCでは、利上げ幅は75bpsから50bpsに減速されたものの、ドットチャートはタカ派に振れました。
また翌日のECB政策金利発表でも利上げ幅は縮小されたものの、ラガルド総裁は「ECBは方向転換したわけではなく揺らいでもいない」とこちらもタカ派継続の姿勢を示しました。
一方でPMIは、欧州は低い中でもやや持ち直しが示されましたが、米国は製造業、非製造業共に大きく悪化を示しました。
欧州はともかく、既に利上げで先行し、インフレ鈍化が顕著な米国は利上げ不況が心配されます。
【先週のマーケットの振り返りと考察】~FRBへの信頼感の喪失~
先週の株式指数は世界的に大幅反落の動きとなりました。
13日の米国11月CPIは総合指数、コア指数共に前月値、予想値を下回って米国のインフレの鈍化を示しました。しかし、翌日の米FOMCでは利上げ幅は50bpsに減速となりましたが、ドットチャートでは前回4.625%だった23年末の予想金利は5.125%に修正されました。また記者会見では23年中の利下げを否定し、タカ派な姿勢が示されました。
FRBのタカ派姿勢維持は、利上げ幅を減速した上に更に緩和を示すと、夏の株価上昇の様に、マーケットが楽観して再びインフレを加速しかねないという危機感が働いたからとも推測されます。
しかし、6月から8月の上昇時はFF金利はまだ2.25%でしたが、現在は4.25%です。CPIは6月をピークに減速を続けています。雇用統計も急速な減速ではないですが、確実に切り下がっています。ISMも非製造業は強さを残していますが、製造業は好不況の基準となる50を下回り、PMIは製造業、非製造業共に50を大きく下回っています。
ロジカルに考えれば現在は当時とは明らかに状況が違います。
マーケットに過度な楽観を与えないように、牽制の意味合いが強いのかも知れません。しかし今回のFOMCとそれに続くFRB高官の発言は、やや強すぎる、バランスを欠いた姿勢のような印象です。
それに対してマーケットはFRBの示唆を無視して、データに基づく状況を織り込もうとしています。マーケットが示す23年末のFF金利先物は年央に4.75-5.00%まで上昇したのち、年末までに50bpsの利下げし4.25-4.50%としています。つまりはFRBとマーケットの姿勢に溝が生まれています。
これまではインフレを低下させるべく景気後退しても、FRBが適切に金利をコントロールし、過度な冷え込みがないようにサポートするだろうという信頼感がありました。そのため「悪いニュースは良いニュース」との認識が共有されていました。しかし、今回FRBがインフレ指標が下がってきてもタカ派姿勢を貫いたことでその信頼が崩れました。そしてマーケットは「悪いニュースは悪いニュース」と捉え「利上げ不況」を懸念するようになった気がします。週末にかけて株価が大きく崩れたのは、小売売上高、PMIなどの悪化が素直に「悪いニュース」と捉えられたことも関係していると考えます。
そうなると少なくとも次回2月FOMCまでは、FRBとマーケットの溝が残り、指標をどう捉えたら良いか分からず、方向感のないまま上値の重い相場が続くと思われます。
ただ、「インフレが鈍化している」という強いファンダメンタルの事実がある以上は10月の底値を割る様なことは考えにくく、弱気転換の必要はないと思います。
警戒は必要ですが、引き続き株式60%、国内債券40%のポートフォリオを維持しながら様子を見たいと思います。
以上