投資家見習いのブログ

世界の地政学的リスクと経済指標を独自の数値で可視化し、マーケットを語ります。

【9/19-9/23週の世界のリスクと経済指標】〜英国で顕在化したポピュリズムの経済への代償〜

先週の評点:

 

リスク   1点(34点):良化 (基準点33点) 

経済指標  -12点(79点):大幅悪化 (基準点91点)

 

 

【リスク】

 先週のリスクはプラス1ポイントの小幅良化となりました。

欧州情勢はウクライナ東南部の親ロ派支配地域において親ロ派がロシアへの編入を巡って住民投票を開始しました。一部報道では武装兵が戸別訪問で賛否を集計しているとの話もあり、クリミア編入時と同様、強引な手法でロシアの侵略を正当化されようとしています。

国連総会でも住民投票を巡ってロシアが「偽の住民投票」で編入を正当化しようとしていると非難が相次ぎ、27日からは安保理で協議することとなっています。

 

また先週は各国のタカ派政策金利の利上げラッシュが続いたことから景気後退懸念が拡がり、コモディティ価格が大幅に下落しました。原油は79ドル、欧州天然ガス価格もピークから46%減の185ユーロとなっています。まだ油断はできませんが、今後のインフレ指標がコア指数に注目する必要があるかと思います。

 

 

【経済指標】

 先週の経済指標はマイナス12ポイントの大幅悪化となりました。

先週は米FOMCを筆頭に、日本、スイス、英国の中銀による政策金利が発表され、緩和継続の日本以外、全て通常幅の2倍〜3倍の利上げが行われ、インフレ抑制のための世界的なタカ派傾向が示されました。

 

欧米のPMIでは欧州は概ね基準の50を下回り、かつ低下が示され欧州の景況感の更なる悪化が示されました。一方で米国は製造業、サービス業ともに前月からの上昇が示され、先月のISMに引き続き米国景気の底堅さが示されました。

 

次週はドイツ、フランス、ユーロ圏のCPIが発表されますが、ここ最近落ち着きが見られるエネルギー以外のコア指数がどのような動きを見せるのか注目したいと思います。

 

 

【先週のマーケットの振り返りと考察】

 先週の株価指数は大きく反落しました。

ダウ平均は6月末の年初来安値を下抜け、ナスダック、S&P500も6月安値を下抜け寸前となっています。

先週は米国、日本、スイス、英国の主要国の中銀による政策金利発表がありました。

金融緩和を貫く日本を除き、米国は75bps、スイスは75bps、英国は50bpsとそれぞれ通常幅の2倍〜3倍の強い利上げを示しました。

FOMCでは四半期毎のFRBメンバーによるドットプロットも示され、前回との比較では22年末で4.25%、23年末に4.625%と共に0.875%ずつ上昇し、より引き締めを強める方針が示されました。

また、会見では「痛みを伴わずにインフレを過去のものにする方法があれば良いが、それはない」とハードランディングへの覚悟が示されました。これまではやや含みを持たせて市場の誤解を招いたソフトランディングへの期待が明確に打ち消されました。

それにより先週は金利が一気に上昇し、2年債利回りは4.2%まで上昇、10年債利回りは強い上昇を見せた後、景気後退を織り込みやや低下して3.68%となりました。

ハードランディングが示されたことで、今後は景気後退による株価の下落トレンドが続きそうな様相です。

 

 

〜英国で顕在化したポピュリズムの経済への代償〜

 先週は英中銀が通常幅の2倍である50bpsの利上げとし、加えて10月から主要中銀で初めて、保有国債を売却し量的緩和手仕舞いを積極的に進めることとしました。

しかしその翌日の23日、政権交代した英トラス政権が25兆円規模の大型減税による経済対策を発表したことで市場が大きく動き、英国の株式、債券、通貨がトリプル安となりました。特に債券と為替がひどく、英10年債利回りは9.07%上昇、ポンドは3.54%下落しました。

 

推測される理由としては下記の通りです。

①減税により国民がより購買力を回復するためインフレが煽られ、今後更なる利上げが必要。

②財源を国債発行で賄うため、英中銀のQTの債券売りと合わせ債券価格が下落し金利上昇。

金利が上昇し続けることとそれによる景気後退懸念の増加で通貨安、株安。

 

通常、金利が上昇すれば通貨高となることが考えられます。

しかし、主要国で最も強いインフレと景気後退懸念を抱える現在の英国には強い売り材料にしかならず、投資資金の英国からの逃避につながったと考えられます。

英中銀がインフレを抑えるために利上げや引き締めを行いながらも、英政府はインフレを助長する減税政策を行い、完全に足を引っ張っています。

これにより英中銀は必要以上に利上げを行わざるを得ないことが推測されます。

 

この混乱を生んだのは紛れもないトラス政権の政策ですが、早期減税はトラス政権の公約であり、トラス氏は公約通りの政策を示しただけです。トラス氏の対抗馬であったスナク氏は早期減税には反対し、財政規律の維持を唱えていました。経済政策的にはスナク氏の方がスマートで理に適っていた印象ですが、結局早期減税を唱えたトラス氏が勝利しました。今回の保守党党首選挙は、保守党員約16万人の選挙で決定したため、間接的な民意としての性格が強いですが、ポピュリズム政党である保守党を第一党に選んだのは英国民です。

 

今回の件は、より民意を反映しやすい政治が経済に悪影響を与えた良い事例になると思われます。

このようなことは、特に大衆に迎合しすぎるポピュリズムには起こり得るリスクであると思います。

 

今週末にはイタリアの総選挙が投開票されます。

事前調査では、極右政党であるイタリアの同胞(FDI)が第一党となり、右派連合が連立政権を樹立すると言われています。右派連合は公約として減税、最低年金額引き上げ、保育所の無償化、子供手当の増額など、ポピュリズム色の濃い政策を打ち出しています。EU主要国の中でも苦しい財政赤字と債務を抱え、高い長期金利を誇るイタリアで、英国同様にバラマキ政策から長期金利上昇が起こった場合は、ユーロ圏全体への悪影響が拡大し、世界経済へのダメージも大きくなると思われます。

 

スウェーデンでも9/11の総選挙でポピュリズム政党である極右「スウェーデン民主党」の躍進により右派が僅差で勝利しており、インフレとの親和性によってポピュリズムの躍進が続いています。

ポピュリズムによる混乱が続くか注意して見守りたいと思います。

 

以上