【5/24-5/28週の世界のリスクと経済指標】〜FRBのテーパリングに向けた地固め〜
先週の評点:
リスク -2点(31点):悪化 (基準点33点)
経済指標 +2点(44点):良化 (基準点42点)
【リスク】
先週のリスクはマイナス2ポイントの悪化となりました。
新型コロナはワクチンの接種が進み新規感染者の減少していますが、ワクチン接種の進みの遅い新興国では再拡大が目立ちます。マレーシア、タイ、ベトナムなどの東南アジアやブラジル、アルゼンチンなどの南米で変異株が拡大しています。ベトナムではイギリス株とインド株のハイブリッド変異株も見つかっており、予断を許しません。
また先週はコロナウィルスの発生源について中国の武漢研究所からの漏洩ではないかとの議論が再発し、バイデン大統領は追加調査を情報機関に命じました。恐らく調査は進んでも中国は一切認めないと思われ、新たな対立の火種になりそうです。
日EU首脳協議も行われ、共同声明にて中国による東シナ海、南シナ海での現状変更の試みに「強く反対する」とし、台湾問題に関しても明記されました。EUによるインド太平洋地域への関わりが強化されていることが示されました。
【経済指標】
先週の経済指標はプラス2ポイントの小幅良化となりました。
注目はやはり米4月PCEコアデフレーターで、予想2.9%に対して3.1%と上振れました。しかし、5/12の4月CPIでのサプライズでインフレ傾向は織り込み済みで上振れ幅が小さかったことから、マーケットの反応は限定的でした。
またNZ準備銀行は政策金利を0.25%の据え置きとしながらも22年下期の利上げを示唆しました。
今週は豪中銀政策金利発表、中国財新PMI、米国ISM製造業/非製造業景況指数、雇用統計の発表があります。
各国中銀によるテーパリングを意識した発言が出る中、豪中銀による見通しが注目されます。
【先週の振り返りと考察】
先週は横ばいの動きを予想していましたが、主要株価指数は堅調に推移しました。
特に日経、上海総合、香港ハンセンなどのアジア指数が強い伸びを示しました。台湾加権指数も3.49%も伸びでした。特にここ最近中国は高騰する商品価格の抑制に動いていましたが、ややインフレ懸念が和らいだことを受けて上海総合指数が急伸しました。
米株指数は長期金利の落ち着きや、バイデン政権により発表された6兆ドル以上の歳出予算案や背景に上昇し、ダウ平均、S&P500は約1%高、ナスダックは2%の伸びを見せました。
また独DAXはECBの緩和観測の後退により小幅上昇ながら最高値を更新しました。
露RTS指数やブラジルボベスパ指数などの新興国株指数も原油高、資源高を背景に株価を伸ばしました。
今週は決算を終えて割安となったPER、ワクチン接種の進展や中国株の復活により日経に上目線です。ただ、米国のテーパリングや増税が意識されるなか、レンジ上限が意識され29,600円辺りを抜けることは厳しいと予想します。
〜FRBのテーパリングに向けた地固め〜
さて、私は前週末にテーパリングに対するFRB高官のスタンスをまとめ、この1週間は予定されていたFRB高官たちの発言に構えていましたが、予想以上に動きがありました。
その発言内容を前週のまとめに追記しました。赤字がこの1週間で新たに発言があった内容です。
先週は8人のFRB高官が発言しましたが、そのうち4人が早期のテーパリングを意識するようなスタンスを示しました。
参考までに前週にまとめた表を再掲載して比較します。
オレンジ色のテーパリング容認スタンスのメンバーが18人中2人から18人中6人に増えています。中でもFOMCの議決権を持つクオールズ副議長、クラリダ副議長がスタンスを変えていることが強い意味を持ちます。
また、先週は米国以外の他国でも中央銀行高官によるテーパリングや利上げに関する言及がありました。
25日:NZ中央銀行が2022年下期の利上げの可能性を示唆
26日:日銀鈴木審議委員がETFやREITの残高増加ベースは極力抑制すべきと発言
(日銀は4月-5月は4/21の701億円のETF買いのみで既にテーパリング中)
27日:韓国中央銀行が緊急的な刺激策の縮小を準備していると発言
27日:英中央銀行のブリハ委員が22年前半の利上げの可能性があると発言
米欧中の景気回復に伴ったインフレ圧力に対して、世界的なテーパリングの流れが徐々に拡がっています。
※ECBは現在のところ早期テーパリングを否定する言及が多いです。
その流れに合わせてFRB内でもじわじわとオセロの石を返すようにテーパリングへの地固めが行われているように感じます。
クオールズ副議長、セントルイス連銀総裁が示唆した「数ヶ月先」という時期も、現在マーケットのコンセンサスとなりつつある8/26-28のジャクソンホール会合を意識したものと思われます。
今週は6/4にパウエルFRB議長がオンライン討論会での発言があります。FRB副議長二人が早期テーパリングへの発言をした後に、パウエル議長がどこまで踏み込んだ発言をするか注目されます。
以上
【5/17-5/21週の世界のリスクと経済指標】〜FRB高官のテーパリングに関する発言のまとめ〜
先週の評点:
リスク +5点(38点):良化 (基準点33点)
経済指標 +5点(98点):小幅良化 (基準点93点)
【リスク】
先週のリスクはプラス5ポイントの良化としました。
新型コロナウィルスは最大の新規感染者数が続いていたインドで40万人を天井にピークアウトし26万人規模まで減少してきました。一方で台湾やタイなどで変異株が原因で再拡大となっています。半導体生産で重要なポジションを担う台湾での再拡大で半導体生産が停滞することが懸念されています。
一方で欧米諸国ではワクチン接種からの制限緩和が続き、NY市ではレストランや小売店などでの人数制限が撤廃されました。またフランスではルーブル美術館が開館され、徐々に通常モードに戻ってきています。
また先週は米韓首脳会談が行われ、共同声明に「台湾海峡の平和と安全の重要性」が盛り込まれました。
これまで韓国は経済的な依存が大きい中国へ配慮して米中対立では中立的な態度をとっていましたが、日本と同様のスタンスの声明が出されたことに少々驚きました。米国でのサムスンの半導体工場の新設など経済的な連携強化も発表され、米国側へ引き戻されたことが鮮明となりました。
今後中国がどのような反応を見せてくるか注目です。
【経済指標】
先週の経済指標はプラス5ポイントの良化としました。
注目はFOMC議事要旨と欧米PMIでした。
FOMC議事要旨の発表では一部参加者が今後のテーパリングの協議開始を否定しない姿勢を見せたことが示され、FOMCでもテーパリングが意識され始めたことが明らかになりました。
欧米のPMIは前月に続いて概ね好調が示されました。
ドイツおよびEUの製造業PMIは半導体不足から自動車が減産されている影響から4月に比べて若干低下しましたが、サービス業はコロナワクチンの拡大から制限措置の緩和により昨年7月以来の高水準となりました。
米国は製造業PMIも4月から上昇しましたが、サービス業PMIは予想64.5に対して70.1と大幅に上昇し、こちらも制限措置の緩和により強く景気回復していることが示されました。
今週は米国の4月新築住宅着工件数、PCEコアデフレーターの発表があります。特にPCEコアデフレーターはCPIに続き強い指標が示されるか注目されます。
【先週の振り返りと考察】
先週の主要株価指数はまちまちで小動きとなりました。
先週は、中国当局が国内の金融機関に対して仮想通貨の取引サービスの提供を禁止したことをきっかけに仮想通貨が暴落しました。それに連れて米株指数も一時調整しましたが、好調な経済指標の発表もあり株式市場への影響は限定的で週足では軽微となりました。
日経は、週前半に新型コロナ変異株の拡大により台湾株が大きく下げたことに連れて下げましたが、押し目買いで反発して週足としては0.83%上昇しました。
今週も米国のPCEコアデフレーターを睨みながら一進一退の動きで、週足としては横ばいを予想します。
〜FRB高官のテーパリングに関する発言のまとめ〜
さて、先週は19日に4月末のFOMCの議事録要旨の発表がありました。
その中には「幾人かの参加者は経済が委員会の目標に向けて急速な進展を続ければ、今後の会合のいずれかに資産購入ペースの調整に関する計画を協議し始めるのが適切になるかもしれないと提案した」との内容が示されました。
これまでFOMCメンバーは一貫して早期のテーパリングへ慎重な発言を繰り返していましたが、マーケットが意識しているようにFOMC内でも明確に意識され始めています。
ここでFRBメンバーのテーパリングに関する発言内容を整理してみたいと思います。
下記は主に5月に入ってからのFRB高官の発言内容です。
水色がテーパリング慎重発言、オレンジがテーパリング容認発言と色分けしています。(白は中立的コメントか発言なし)
日々ニュースを読んでいる中では、複数人のメンバーが早期テーパリングの容認発言をしていた印象でしたが、実際にはダラス連銀総裁のカプラン氏の発言回数が多かっただけで、カプラン氏以外では5/21にフィラデルフィア連銀総裁が初めて容認発言をしています。意外とまだ容認派は少ない印象です。
ただ、ダラス連銀総裁もフィラデルフィア連銀総裁も現在FOMC議決権を持たないため、直接的に金融政策に影響を及ぼしません。前回のFOMCでは両氏以外の議決権を持つ別のメンバーがテーパリングを議題に出したことになります。
テーパリングが行われることは既に既定路線であり、インフレと雇用を天秤にかけながらそれがいつ行われるのかがマーケットに意識されるところです。
前週に考察したように、これまでのFRB高官の発言内容同様、私はCPIの伸びは一時的になる可能性が高いと考えているため、テーパリングは当分先になると見ています。一方でいずれ来るテーパリングに対してマーケットの拒絶反応が出ないように、FRBはテーパリングへの意識をじわじわと浸透させていくものと思われます。
ついては21日に新たにフィラデルフィア連銀総裁が容認した様に、今後新たにどの高官から容認発言が出てくるか、特にFOMCメンバーの発言内容に注目しています。
現在のFOMCメンバーにはタカ派がおらずハト派が多いですが、中立的立場と言われるクオールズ副議長、リッチモンド連銀総裁、アトランタ連銀総裁はタカ派にも振れやすいと思われるため、発言には特に注意が必要かと思われます。
今週の5/24(月)には早速、ブレイナード理事、アトランタ連銀総裁、カンザスシティ連銀総裁、クリーブランド連銀総裁の講演があり、さらに5/25(火)にはクオールズ副議長の議会証言がありますので注目されます。
以上
【5/10-5/14週の世界のリスクと経済指標】〜CPIから見るインフレに対するFRBシナリオの納得性〜
先週の評点:
リスク 1点(34点):小幅良化 (基準点33点)
経済指標 +3点(62点):小幅良化 (基準点59点)
【リスク】
先週のリスクはプラス1ポイントの小幅良化となりました。
新型コロナは強い新規感染者拡大が続いていたインドにおいて、ようやくピークアウトの兆しが見えてきました。
世界的にはワクチンの接種の拡大により減少傾向が続いていますが、日本だけが変異株の拡大により強い上昇傾向を示しています。
米国では既にコロナワクチンが一般化し、予約を行わなくてもすぐに接種可能な状態となっており、今後は徐々に米国製ワクチンが拡大していくものと思われます。
欧州では前週に行われたスコットランドの議会選挙において独立派が過半数を握ったたため、英国の分裂リスクが顕在化してきました。スコットランドのスタージョン首相はコロナ危機が収束次第、住民投票を行うことを目標に掲げています。対中政策の体裁上、民主主義を立てて強引に拒否することができない英政権の今後の舵取りが注目されます。
【経済指標】
先週の経済指標はプラス3ポイントの良化としました。
注目の米4月CPIコア指数は前年同月比予想2.3%に対し3.0%と大幅に上振れました。またそれに続く4月PPIコアも予想3.8%に対して4.1%とこちらも上振れました。
これらの強いインフレ指標の上昇により、テーパリングおよび利上げの早期化が意識され、株式市場は動揺して大きく下落しました。
一方で4月小売売上高は0.0%と先月からの横ばいを示し、+1.0%の予想に対して下振れましたが、消費が伸びなかった安心感からか株式市場は反発しました。
次週は中国4月小売売上高、米4月住宅着工件数、欧州4月消費者物価指数、FOMC議事録要旨、欧米のPMIに注目です。
【先週の振り返りと考察】
先週の株式市場は総じて軟調に推移しました。
米国市場は、インフレ指標の強い上昇でテーパリングや利上げの早期化が意識され、金利上昇耐性の弱いハイテクグロース株を中心に下落しました。
週末には一旦落ち着きを見せて反発しましたが、週を通してはIT、通信、一般消費財、不動産などのインフレに弱いセクターが強く調整しました。
また、日経は米国市場の影響を受けた上、決算発表にてコンセンサスを下回るものが多く、現在の高い株価の期待に応えることができない企業が多かった印象で、下落に拍車がかかりました。ここ最近は日経の弱さが目立ち、3月にポートフォリオから外したことが肯定されています。
〜CPIから見るインフレに対するFRBシナリオの納得性〜
さて、先週は4月の米国CPIコア指数が前年同月比3.0%、前月比0.9%上昇しましたが、改めてそのCPIの中身を見ていきたいと思います。
前月比で取り立てて大きく変動し上昇を引っ張ったアイテムは下記の通りです。
①Used car and Trucks(中古車) 前月比+10.0%
②Transportation Services (移動サービス)前月比+2.9%
③Commodity (商品)前月比+2.0%
※参考:Department of Labor, U.S.A
https://www.dol.gov/newsroom/economicdata/cpi_05122021.pdf
こうして見てみると、CPIが大きく上昇したのは半導体不足から来る問題(半導体不足で新車が作れず中古車の値段が上がった)およびワクチン接種拡大による人の移動の再開が影響したことがわかります。
また、これらと現在考えられるインフレ要因を整理してみると下記の通りとなると思います。
[需要側要因]
- ワクチン接種による経済活動再開→外食需要、旅行需要でホテル、移動サービス、自動車需要の高まり
- 低金利、リモートワークを背景とした住宅需要→木材価格など商品価格の高まり
[供給側要因]
- 半導体供給停滞→米中対立での中国企業からの半導体購入禁止、日米半導体工場が寒波や火災で一時稼働停止
- 上乗せ失業保険により低賃金の雇用に人が戻らない→労働コストの高まり(先日の雇用統計では平気時給が0.7%上昇)
現在米国は需要面、供給面の両面から物価上昇要因を抱えています。
しかし、供給側要因の半導体は、被災した半導体メーカーの体制が回復し、また中国外で新たに増強している工場が稼働すれば落ち着くと思われますし、雇用の問題も9月下旬に失業保険の上乗せの失効と共に解決に向かっていくものと思われます。
つまり現在のCPIコア指数の強い上昇の要因となっている供給面での要因が向こう数ヶ月で落ち着く可能性が高いと思われます。
特に今回のCPIで大きな影響を及ぼした中古車価格は新車よりも需給の影響を受けやすい特性があるため、半導体不足が解決し新車供給が正常化されれば自動車価格の上昇は限定的となると思われます。
CPIの発表のあと、FRBのウォラー理事は「今後サプライチェーンのボトルネックの解消することから、インフレ指標の上昇は一過性となる」との見方を改めて示しています。
また金融政策の変更を検討する前に「さらに数ヶ月分のデータ」が必要と発言しています。
今回のCPIのサプライズは、サプライチェーンの問題が突出して強く現れた結果でありました。
そういう意味で向こう数ヶ月間にそれが落ち着くことで物価上昇は抑えられるというFRBのシナリオは、現時点では納得の行くものであると考えられます。
ただ、どちらにせよ半導体不足が解消がされ、自動車生産が軌道に乗りインフレ指標に現れて来るまでは、はっきりしない一進一退の株価推移が続くと思います。
以上
【5/3-5/7週の世界のリスクと経済指標】〜G7外相会合での台湾問題声明の効果〜
先週の評点:
リスク 1点(34点):小幅良化 (基準点33点)
経済指標 -3点(84点):小幅悪化 (基準点87点)
【リスク】
先週のリスクはプラス1ポイントの小幅良化としました。
新型コロナはインドなどのワクチン接種が遅れる新興国での拡大が続きますが、一方で欧米でのワクチン特許の一時解放の議論が高まり、バイデン大統領が推奨しました。
EUではフランスが賛成、ドイツやイギリスは難色を示していますが、中国、ロシアのワクチン外交が攻勢を強めていることもあり議論が進むと思われます。
また、先週はロンドンにて対面式のG7外相会議が行われ、海洋進出や人権弾圧を続ける中国に対して抑止を求める共同声明が発表されました。ここ最近EUとしての対中懸念が表面化していましたが、改めて仏独伊のEU主要国が共同声明に参画し、また台湾問題にも言及したのは西側諸国の対中懸念の共有という意味で重要でした。
【経済指標】
先週の経済指標はマイナス3ポイントの小幅悪化としました。
米ISM製造業景況指数は予想65.0に対して60.6と低下、非製造業景況指数も予想64.3に対し62.7と低下を示しました。両方とも60超えと高い水準にはあるものの、部品供給網の目詰まりや原材料不足により生産抑制や在庫不足となっており、供給サイドが問題となっていることが示されました。
また、4月雇用統計は、非農業部門雇用者数が予想に97.8万人に対して26.6万人とネガティブサプライズとなりました。こちらも半導体不足から自動車工場などの稼働が低下し製造業での雇用が低下したことや、雇用需要は強いものの手厚い失業保険により労働者が戻っていないことが原因として推測されています。
FRBが金融政策決定において雇用を重視していることから、結果次第ではテーパリング観測が高まると見られていましたが、テーパリング観測が後退する結果となりました。
一方で英BOEは現行金融緩和政策を維持するとしつつも、週間の債券購入額の減額を発表しテーパリングを示唆しました。
【先週の振り返りと考察】
先週の主要株価指数は概ね堅調に推移しました。
米市場はイエレン財務長官の金利上昇容認コメントもあり、シクリカル銘柄へのマネーのシフトが続きダウ平均が伸びた一方で、ハイテク株には逆風となりナスダックが下落しました。
また景気回復期待からのコモディティ価格の高騰を背景にして露RTS指数や伯ボベスパ指数も大幅に伸びました。
先週末の米雇用統計の結果で、当面のテーパリング懸念が後退したため、今週はコモディティ高、ドル安、株高が予想されますが、BEI指数も2.49%で高値を更新しているため依然金利は高水準で維持されると予想します。
ついてはハイテクよりもシクリカルに優位となり、引き続きナスダックは横ばいか下落、ダウ平均上昇と見ています。
〜G7外相会合での台湾問題声明の効果〜
さて、先週はG7外相会合がロンドンにて久々の対面方式で行われました。
議長国であるイギリスの主導のもと、アジア地域、中でも中国を中心としたインド太平洋地域での懸念が表明されました。特に台湾に関しては、先立って日米間で行われた2+2会合、首脳会談で表明された内容を踏襲し、「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調し、両岸問題の平和適解決を促す」との共同声明が出されました。西側の民主主義国家としては、G7と言うもう一段大きな枠組みで台湾問題に踏み込んだ形となりました。
そしてそれに対して中国側はこれまで同様「中国の主権に乱暴に干渉した。」「中国の内政問題」と反発しています。
私は今回のG7の共同声明は、台湾に近い日本にとっては非常に心強く重要な声明だったと思いつつも、それがどこまで効果を示すかは懐疑的に見ています。
そもそもG7の枠組みが弱体化しています。東西冷戦終結後、世界を主導し自らの経済力を拡大してきた欧米主体の民主主義国家に対する信頼が揺らいでいます。
以前議論したように民主主義国家のマイノリティー化が進んでいます。
https://minarai-tousan.hatenablog.com/entry/2020/07/19/102520
また、そもそも台湾問題における中国の「台湾問題は中国の内政問題」との主張は、国連における制度において正論です。
1971年の国連でのアルバニア決議(国連総会決議2758)により、国連は「中華人民共和国」を安保理常任理事国と承認し、それまで安保理常任理事国だった「中華民国(台湾)」はその座を失い国連を脱退しました。
それに伴い、それまで「中華民国(台湾)」を支援していた米国や日本などの西側諸国も、巨大市場である中国との国交正常化と引き換えに、「中華民国(台湾)」を国と認めず断交し現在に至っています。
つまり中国が主張するように、制度上は台湾はあくまでも中国の一部であり、中国の「一つの中国」の主張は正しいこととなります。それは、国連という場で世界各国が決定した事項であり、それに従って西側諸国も台湾との断交を行なった結果です。
中国からすると、西側諸国が「民主主義を掲げる地域だから」「半導体供給網の要所だから」と言って今更ながら横槍を入れてくるのは筋違い、となります。また、台湾の独立問題はイギリスが抱えているスコットランドの独立問題やスペインのバスク地方やカタルーニャの独立問題同様と解釈されると思います。
もちろん南シナ海、東シナ海での独善的な領地拡大行為は許されるものではありません。
また、香港での言論弾圧や新疆ウイグルでの弾圧も、我々が持つ人道的な見地からは許されるものではありません。
しかし、中国の主張の中にはそれなりに筋が通るものもあり、殊に台湾問題に関しては第三者視点で見ると西側諸国よりも中国の主張の方が筋が通ると思います。
そう考えるとG7やフィリピンやマレーシアなどインド太平洋地域の中国と直接的に係争を抱える国は別として、それ以外の国々の同調は薄く、台湾問題へは冷めた対応となるのではないかと感じています。現在の枠組みの主流になっているG20レベルになれば、ロシアや中国も含むため間違いなく同意は得られません。
今回の声明はドイツ、イタリアなどのEU内での親中国家も含まれたものであり、これらの国を巻き込んで発表されたことは歓迎すべきであり、中国に対する抑止力になると考えます。
しかし、その効果は限定的であり、国際世論を形成しながら中国の台湾併合へ考えを改めることは極めて難しいと思います。
以上
【4/26-4/30週の世界のリスクと経済指標】~米ハイテク企業への高い決算ハードル~
先週の評点:
リスク -4点(29点):悪化 (基準点33点)
経済指標 +8点(110点):良化 (基準点102点)
【リスク】
先週のリスクはマイナス4ポイントの悪化でした。
米、英などのワクチン接種が進む国では感染者減による経済活動再開が進みますが、インドでは変異コロナウィルスが猛威を振るい1日あたりの新規感染者数が40万人を超えています。病床の不足のみならず酸素不足にも陥っており、酸素を使用する自動車工場の停止にまで影響が及んでいます。
また先週はバイデン大統領による議会演説が行われ、対中姿勢を明確にし「インド太平洋地域での強力な軍事力を維持する」と明言しました。そして議会演説に先立って法人増税を財源とする「米国雇用計画」に続き、富裕層に対するキャピタルゲイン増税を財源とする「家族計画」を発表し、格差是正へ取り組むこととしました。
【経済指標】
先週の経済指標はプラス8ポイントの良化としました。
注目はFOMCでしたが、パウエル議長は景気の現状認識を上方修正したものの、依然インフレは一過性のものであるという認識を示し、テーパリングを否定しました。
一方でFOMCでの議決権を持たないダラス連銀のカプラン総裁は「緩和調整の議論を始めるのが適切」という考えを示し、テーパリングの必要性を匂わせ始めました。
今後FRB高官からテーパリングをマーケットに意識させる発言が続いていくと思われるため注目します。
米国の1-3月期GDPは予想6.1%に対して6.3%と上振れ、PCEコアデフレーターも前回1.4%から1.8%へと上昇し景気回復からの物価の上昇を示しました。
今週は米ISM製造業景況指数、サービス業景況指数、雇用統計に注目です。雇用統計の強い回復が示されれば、よりテーパリングに向けた議論が進むと思われます。
【先週の振り返りと考察】~米ハイテク企業への高い決算ハードル~
先週の株式市場は総じて軟調に推移しました。
日経は変わらずの下落、米国市場は大手ハイテク企業の決算発表があり、総じてコンセンサスを上回る決算を示しましたが、株式指数はどれも軟調に推移しました。
以下はこれまで発表のあった米主要ハイテク銘柄の売上高、EPSと決算前/翌日の株価騰落率です。
グーグルは巣ごもり需要でクラウドサービスやYouTubeが好調となり、EPSが予想$15.82に対して$26.29と大幅に伸びたことから決算後に株価を伸ばしました。
またフェイスブックも、アップルの広告向けプライバシー規約変更が重しとなるも企業の広告支出拡大が追い風となり7.3%上昇しました。
一方でネットフリックスは売上高、EPS共にコンセンサスを上回りましたが有料準加入者数が予想620万人に対して398万人と減速したため7.4%安となりました。
また、ツイッターも売上高、EPS共にコンセンサスを僅かに上回りましたが、平均アクティブユーザー数について今後数四半期で伸びが低い数字になるとの見方が示されたため15.16%安となりました。
マイクロソフトは売上高が予想通りでEPSは予想を上回りましたが、市場では極めて好調な決算結果が期待されていためにバリュエーションの高さが意識され2.83%安となりました。
アップルやアマゾンも売上高、EPS共にコンセンサスを上回り好調な決算を示しましたが、株価は微減となっています。
これらを受けて個人的には米企業決算のハードルの高さを改めて認識しました。これまでの株価の高騰で期待を先取りしている分、その期待を強く上回れるピカピカな内容ではない限りは強い売りに晒されるということです。
加えてこれらの主要ハイテク企業は課税逃れを指摘されることが多く、3月末にバイデン政権が表明した「米国雇用計画」の財源となる連邦法人増税や海外収益課税、ミニマム税などの負担が今後重くのしかかってきます。
そして半導体不足や、これまでハイテク企業を支えてきた巣篭もり需要の落ち着きなども不安材料として意識されます。
経済指標も好調な数値が続き、主要ハイテク企業の決算も好調な中でこれ以上の良材料が見当たらず、やはりここで一服感を覚えます。
今後はこれまでの様に全体的にマーケットが上昇していくのではなく、高いハードルに対する企業ごとの決算の優劣の差が明確に株価に現れてくるのではないかと考えます。
従って、当面米国株も上値が重くなるのではないかと思っています。特にハイテク銘柄が多いナスダックには短期的に下目線です。
ただ、金融緩和は続いており、また今後強い財政政策も控えているため、2Q決算後がボトムでそれらの効果とマーケットの慣れで3Q決算辺りには再び緩やかな上昇基調に戻るのではないかと想像しています。
以上
【4/19-4/23週の世界のリスクと経済指標】〜正常化へ向けた兆し〜
先週の評点:
リスク 0点(33点):中立 (基準点33点)
経済指標 +14点(83点):大幅良化 (基準点69点)
【リスク】
先週のリスクはプラスマイナスゼロの中立としました。
先週はリスク面ではEU情勢が動きました。
EU復興基金の承認を止めていたドイツ連邦憲法裁判所が反対派の申し立てを棄却し、EU復興基金の始動に向けた大きな障害が取り去られました。
また日米首脳会談を睨み、緊張の緩和する姿勢に転じ、ウクライナ東部の国境から撤収を始めました。
【経済指標】
先週の経済指標はプラス14ポイントの大幅良化でした。
先週は欧米のPMIの発表がありましたが、引き続き強さを見せました。
ユーロ製造業PMIは予想62.0に対し63.3と強さを見せ、さらにサービス業PMIも予想49.1に対して50.3と、ようやく基準値の50を超えてきました。
ワクチン接種の拡大により欧州も徐々に景気が上向いてきたことが示されました。
また米国もMarkit社PMIで製造業、サービス業共に上振れ、3月新築住宅販売件数も予想88.6万件に対して102.1万件と強い数値を示しました。
【先週の振り返りと考察】〜正常化へ向けた兆し〜
米国株式はバイデン政権がバイデン政権が富裕層に対するキャピタルゲイン税を2倍に増加すると伝わり重くなるも、好調な企業決算と経済指標が下支えとなり微減となりました。
日経平均は日本国内で緊急事態宣言が出される見込みとなった上、好調な決算が出るも投資家の期待には届かず強く売られました。やはり前週の日米首脳会談による日中関係の悪化懸念も強く影響したものと思われます。
一方で上海総合指数は気候変動サミットへの米中首脳の参加で両国の全面対決が避けられたことを好感して上昇しました。
さて、先週は強い金融緩和や財政政策からの正常化戦略が語られました。
まずは米国ですが、3月末にバイデン政権から示された法人税増税に続き、所得が100万ドル以上の富裕層に対するキャピタルゲイン税を20%から39.6%に引き上げるとされることが伝わりました。
これらは今後バイデン政権が導入を予定するインフラ投資の財源として利用されます。
続いて、カナダ中央銀行が資産購入の規模を週40億カナダドルから週30億カナダルに縮小し、利上げの目処を22年に前倒ししました。
そしてすでに日本では3/19の日銀金融政策決定会合によりETFの買い入れ目安の6兆円を削除し、また長期金利の変動幅を0.20%から0.25%へ拡大したことにより実質テーパリングを行っています。(4月はまだ4/21に701億円購入したのみ)
またそれに加え、3月比での4月の国債購入規模も大幅に減額しています。
https://jp.reuters.com/article/boj-april-idJPKBN2BN11L
ワクチン接種拡大や金融緩和や財政政策などによる急速な景気回復を見据えて、それらを正常化する動きが目に付くようになりました。
足元では変異株が拡大しながらもワクチン接種は確実に拡大しており、先進国においては秋頃には制限解除が進むと思われます。
そのため、各国において行き過ぎた資産価値の膨張を抑えることが意識され始めてきたと認識できます。
ただ、コロナ感染拡大が再度強く進み緊急事態宣言が発出される状況での日銀の矢継ぎ早のテーパリング行為は勇み足が過ぎるように思われ、引き続き日本株はアンダーパフォームすると思われます。
少なくともワクチン接種がある程度落ち着くまでは相対比で日本株が選好される可能性は少ないと思います。
次週は4/27(火)に日銀金融政策決定会合、4/29(木)の早朝にFOMCがあります。
また4/28(水)のバイデン氏の議会演説前に増税に関して詳細が発表されると伝えられています。
この1年の中央銀行や政府からの強いサポートを正常化する兆しがどのように進むか注目します。
以上
【4/12-16週の世界のリスクと経済指標】〜米外交の選択と集中と日本〜
先週の評点:
リスク -6点(27点):悪化 (基準点33点)
経済指標 +18点(108点):大幅良化 (基準点90点)
【リスク】
先週は米中対立に関わるニュースが続き、マイナス6ポイントの悪化としました。
こちらの詳細は後述します。
【経済指標】
先週の経済指標はプラス18ポイントと大幅良化となりました。
注目の米国CPIコア指数は予想1.5%に対して1.6%と上振れを見せインフレの加速を示しましたが、これくらいの数値で緩和姿勢は拒否されないと理解され、金利は低下しました。
また、米国の小売売上高は予想5.9%に対して9.8%と驚異的な上振れで、ワクチン接種拡大による米国内での消費活動の活発化を示しました。新規失業保険申請件数も減少し、雇用の回復も示されました。
中国の1-3月期GDPは前年度が激しい落ち込みだったこともあり、18.3%の成長率となりました。一方で前期比では予想1.5%に対して0.6%と低下しており、これまで世界を牽引してきた中国経済の成長率が、バブル懸念の締め付け傾向もあり他国に先駆けてやや鈍化傾向にあることも示しました。
【先週の振り返りと考察】〜米外交の選択と集中と日本〜
先週の主要国株価指数は米長期金利が1.5%台へ低下したことから概ね伸長し、米株3指数や欧州株価指数は1%を超える上昇を見せました。ダウ平均とS&P500、DAXは最高値更新、ナスダックも最高値まで0.3%と迫っています。
またロシアRTS指数やブラジルボベスパも原油価格の戻りを背景に大幅に上昇しました。
一方で日経平均は、前週に続いて微減となりました。
欧米に比べてワクチン接種が一向に進まない中でコロナが急拡大していることが重しとなり、3万円を前に足踏みを続けています。
また、上海総合指数も中国当局によるバブル抑制の動きが重しとなり2週連続で下落となりました。
さて、先週も米国を中心とした政治ニュースが続きました。
以下がその内容です。
①バイデン政権が9/11でアフガンからの撤収を表明。
②ウクライナ東部紛争に関連し、ウクライナ国境沿いへロシア軍が集結。バイデン氏が懸念表明。
③米バイデン政権がロシアによる選挙介入やサイバー攻撃を理由に追加制裁警告。
④米政権が中国製IT機器やサービスに規制強化。中国製IT利用が許可制に。
⑤日米首脳会談の共同声明で「台湾海峡の平和と安定の重要性」と明記し、中国への対峙を鮮明化。
中でも①のアフガンからの撤収表明と⑥日米首脳会談はそれぞれ転機として意味が大きいと考えます。
米国のアフガンからの撤収は、既にトランプ政権で表明され既定路線であったものの、バイデン政権に変わってから半年の延期が伝えられていました。
トランプ政権ではあくまでもビジネス的な損得勘定でアフガンへの「駐留コストの削減」のために表明された印象ですが、バイデン政権では少し意味合いが違い、「集中と選択」の要素が強い印象です。
つまりは対中政策を本格展開するにあたっては、生半可なリソースでは対峙出来ないため、米国にとって既にメリットの薄い中東を捨て、全力で中国に対峙することを選択したことを意味します。
そしてアフガン撤収表明から2日と経たずに行われた日米首脳会議では「台湾海峡の平和と安定の重要性」を共同声明として明記し、日本に対しても共闘する責務を負わせています。
ここでも、対中の最前線として地政学的に重要な日本を取り込み、全力で中国の台頭に対抗する意向を強く表しています。
この二つの出来事は、米国が今後対中を軸としてアジアを最重要視して取り組んでいくことを明確に示しており、米中を軸として後戻り出来ない二極化が進んでいくものと思われます。
そして日本にとっては、難しい状況になると考えます。
これまで日本の対中の防波堤として機能していた韓国は中国に取り込まれつつあり、明確な民主主義陣営としては日本が最前線となっています。そのため朝鮮半島ではなく東シナ海を中心とした近海での衝突が現実的なものとなってきており、有事の際にはシーレーンが断絶されることにより経済的な影響も大きくなります。
また、市場として大きく経済的にも依存度の高い中国から直接的に揺さぶりをかけられる可能性も高いと考えます。
実際には今すぐ衝突などの有事が起こるとは思いませんが、日本にとっては先週の政治の動きにより地政学的リスクが増したため、日本市場は嫌気される展開が続くと思われます。引き続き米国>欧州>日本というマーケットの見方が優勢かと思います。
また今週も日本電産やディスコ、エムスリーなどの決算が発表がありますが、ここまでのファストリや安川電機の株価への反応を見る限り、ハードルが高くなっている気がします。
ワクチン接種拡大によって景気回復機運が高まり欧米株は上昇していますが、引き続き日経平均は上値の重い展開が続くと思われます。
以上