投資家見習いのブログ

世界の地政学的リスクと経済指標を独自の数値で可視化し、マーケットを語ります。

【11/23-27週の世界のリスクと経済指標】〜内燃機関自動車からEVへの転換期〜

先週の評点:

 

リスク   0点(57点):中立 (基準点57点) 

経済指標  -10点(74点):大幅悪化 (基準点84点)

 

 

【リスク】

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全体としては良化と悪化が相殺され、中立となりました。

先週もCOVID-19拡大により活動制限が広がる一方、アストラゼネカのワクチンでも高い有効性が見られたとして足元の悲観と将来の楽観の綱引きとなりました。

 

また、米次期政権に国務長官としてブリンケン元国務副長官が指名、財務長官にはイエレン前FRB議長が指名される見込みとなり、重要ポストが急進左派系とならないことで安心感が生まれました。

敗北宣言していないトランプ大統領12/14の選挙人投票でバイデン氏が勝利すれば政権を手放しホワイトハウスを去る事を明言しました。

 

一方で、7月に合意していた欧州復興基金は、「法の支配」が資金分配の条件とされていることに対して強権体制を取るハンガリーポーランドが反発しており、このままではプログラムの実行が遅れる見込みとなっています。

米国、欧州の両方で財政政策の実行に遅れが見え始め、ワクチンが行き渡るまで実体経済が悪化してくる可能性が高まっています。

 

 

【経済指標】

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経済指標はマイナス10ポイントの悪化となりました。

先週は欧米のPMIが発表されました。

COVID-19拡大からのロックダウンにより仏、独、ユーロのサービス業PMIの低下が激しく、仏に至っては30台へと低下しました。

一方で米国は製造業、サービス業共に先月を上回って好調さを見せています。大統領選で民主党が勝利し大型の財政政策が行われる期待感やワクチン開発の期待感が高まっていることが推測されます。

ただ、米国の実体経済ではPCEデフレーターも低下、失業保険申請件数も悪化を見せ徐々に苦しくなってきていることを示しています。

 

 

【先週の振り返りと考察】

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先週はアストラゼネカのワクチン期待、イエレン前FRB議長の米財務長官への指名観測と米次期政権への政権移行プロセスが開始したことが好感され、バリュー株が伸長しました。

日経平均26000円台に乗せ、ダウ平均も一時30000ドルを超えました。

また、経済の回復期待と中国需要の増加から原油価格が45ドルまで戻しており、それが後押ししてロシア、ブラジルなどの株式も押し上げました。

一方で米FRBによる量的緩和の拡充観測によりドル安傾向が続いており、ユーロや豪ドル、キウイドルなどが高値を更新、金利低下でナスダック、S&P500も最高値を更新して週を終えています。

次週は、ここまで株式が一気に駆け上がり上昇材料に一服感がある中、ISMFRBパウエル議長発言、雇用統計の重要指標を迎えることになるため、それらの寄与度が高いと思われます。

 

 

内燃機関自動車からEVへの転換期~

さて、先週はEV関連銘柄が急騰しました。

下記はEV銘柄を引っ張るTeslaと日本のEV部品関連銘柄の週足比較表です。

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Teslaは週足で19%上昇、日本電産は大型株にも関わらず15%の上昇を見せ、その他の関連銘柄も大きく上昇しています。

充電スタンドを手がけるモリテックスチールなど仕手株と化し、69%上昇という驚異的な数字を見せています。

 

元々テスラはここ最近高値を更新し続けて人気銘柄でしたが、日本のEV銘柄も下記の理由で先週に一気に活性化したと思われます。

①バイデン次期政権が再生可能エネルギー推進や脱炭素政策を積極的に取るという後押し

②前週にテスラがS&P500に採用されることが決定し、23日に7%上昇。

GM25年末までにEVと自動運転技術に270億ドル(2.8兆円)を投資し、EV30車種まで増やすと発表。

特にGMの発表は、これまで長い間アメリカの製造業、また内燃機関自動車の象徴であったGMの大きな戦略転換を示し、内燃機関からEVへの本格変換の号砲となったと考えられます。

 

1. 主要国のEV政策

ここで主要国のEV政策を改めて確認してみます。
下記に一覧としてまとめています。

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2016年にノルウェーの議会関係者が将来に期限を設けて新車をゼロエミッション車とすると発言して以来、各国政府関係者がEV政策を発表してきました。

しかし、当時はまだEVの車両自体の価格が高く、各国政府の手厚い補助金なしではなかなか広がりを見せませんでしたが、ここ最近のSDGsの考えの広がりやCOVID-19の拡大により社会変革の必要性が唱えられ、2020年に入ってからは急速に現実味が増してきました。

また、先駆者であるTeslaが普及グレードであるTesla Model 3を発売し、かつ供給体制を整えてきたことから手軽にEVを購入できる「普及期」に入ってきた印象があります。

日本ではまだEVに触れる機会は多くありませんが、世界では確実にEVに対するハードルが下がっています。

 

2. 数字で見るEVの拡がり

下記は20209月の欧州主要国でのEVもしくはPHEVの販売台数及び比率です。

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北欧やオランダなどは自動車の販売台数こそ少ないですが、すでにバッテリーEVの販売比率が10%を超えており、PHEVを含めるとノルウェーなどは8割を超えてきます。

中心国である英仏独においてもEVPHEV比率が10%を超えてきており、この6カ国の平均でも約15%を占める状況となっています。

発売されたばかりのVWID.3などは単一機種でいきなり月間8600台を売り上げる人気となっています。

 

欧州では2020年のEVPHEVの販売台数が100万台を越えるとの観測もあります。

すでにEVの一大市場となっている中国でも10月のEVなどの新エネルギー車は14.4万台売れており、Teslaのお膝元である米国でも10月はTesla単体で19,600台を売り上げています。

 

今後は欧米自動車メーカーを主体に、投入する新車種がEV主体となっていくことは既に発表されていますが、足元でも自動車業界のトレンドとしてEVが急成長していることを改めて認識させられました。

 

3. 薄れる日本の自動車メーカーの存在感と部品サプライヤーの重要性

一方でこれらの流れの中で日本の自動車メーカーの存在感はほとんど感じられません。

EVに関してはトヨタは中国でのみで3車種、ホンダはクラリティ/ホンダe、日産はリーフ/アリアを発売していますが、まともに売れているのは長年の実績のあるリーフのみで、それでもランキングは下位に沈んでいます。

日本の代表であるトヨタ20年代前半にも10車種のEVを発表すると発表していますが、一足飛びにEV化を進める欧米メーカーと比較すると主力のHVがあるだけにEV戦略としては見劣りします。

トヨタ系のデンソーアイシン精機が、今後EVPHEVの主流になると思われるeアクスル(モーター、インバーター、ギアボックスを一体化したユニット)専用の開発・販売会社「ブルーイーネクサス」を合弁で設立し、新たな取り組みで体制を強化していますがトヨタ系列としての縛りが強く、こちらも拡がりは限定的かと思います。

 

一方で、日本電産は自社開発したeアクスルユニットを積極的に中国の民族系自動車メーカーへ供給したりと独立系ユニットメーカーとして系列に縛られずグローバルサプライヤーとしての地位を築いています。

その上、日産・三菱自動車トランスミッション製造会社であるジヤトコの買収へ触手を伸ばすなど、積極的にM&Aでの規模の拡大を狙っており、今後も有望だと思われます。

 

EVは従来の内燃機関車よりもコモディティ化が進んでいると考えられ、自動車メーカーよりもユニットサプライヤーの方が付加価値が高くなってきています。

従って日本株において今後のEVの拡大を狙って投資するのであれば、世界で後れを取る自動車メーカーではなく、日本に囚われずに供給できる部品サプライヤーが有望かと考えます。

具体的には、既に先週大幅に株価を伸ばして入りますが、やはりグローバルサプライヤーとしての存在を高めつつある日本電産村田製作所などでしょうか。

 

改めて政治の世界同様、自動車業界でも大きな変革時期を迎えていると感じざるを得ません。

 

以上