投資家見習いのブログ

世界の地政学的リスクと経済指標を独自の数値で可視化し、マーケットを語ります。

【8/9-8/13週の世界のリスクと経済指標】〜中国のIT規制から考えるその狙い〜

先週の評点:

 

リスク   -9点(36点):大幅悪化 (基準点45点) 

経済指標  -2点(51点):小幅悪化 (基準点53点)

 

 

【リスク】

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 先週のリスクはマイナス9ポイントの大幅悪化としました。

デルタ株の拡大は進み、米国でも南部のワクチン未接種の人が多い地域を中心に拡大し、新規感染者数は再び7日平均12万人を超えてきました。

米国はロックダウンはしない見通しですが、経済の先行きに再び不安感が出てきました。

それに伴いWHOが反対する中、米国でも免疫力が低下した人々へのワクチンの3回目接種が承認され、ファウチ氏もいずれは全員が3回目接種が必要との見解を示しました。

 

 また、先週はアフガニスタン情勢が急に緊迫度を増してきたため、新たな項目として加えました。

8月末の米軍の完全撤退を前にタリバンが急速に勢力を拡大し、首都カブールに迫っています。米国も新たに5000人の兵士を派遣していますが、抗戦ではなく外交官などの退避を目的としており、タリバンのアフガン全土の制圧が間近と報道されています。

 一方でそれに先駆けて中国が7/28にタリバン幹部を天津に招いて王毅外相と会談し、復興に向けての協力を約束しています。中国から中東へと抜ける中央アジアで空白地帯となっていたアフガンを手中に収めることで、中東での中国の影響力が増すことが懸念されます。

 

 

【経済指標】

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 先週の経済指標はマイナス2ポイントの小幅悪化でした。

中国のCPIは前回1.1%より低下し1.0%となったものの、PPIは逆に前回8.8%から9.0%へ上昇し、相変わらず原料高による物価上昇が消費者価格へ転嫁が進んでいない状況を示しました。

 また、米国のコアCPIは前回4.5%から低下し4.3%となりました。前月比では前回0.9%、予想0.4%に対して0.3%と下振れを示したことからインフレの鈍化と受け止められました。

一方で米国のPPIは前回/予想ともに5.6%に対して6.2%と上振れ、今後の更なる物価上昇への懸念を残しました。

 

8月ミシガン大学消費者態度指数は予想81.2に対して70.2と大幅に低下し、デルタ株の蔓延からか消費マインドの悪化を示唆しました。

 

 次週は米小売売上高、NZ準備銀行政策金利発表に注目したいと思います。特にNZ政策金利は先進国初の利上げが予想されていますが、利上げの流れを作るか注目しています。

 

 

【先週の振り返りと考察】

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 先週も株価指数は堅調に推移しました。米株はCPIが鈍化傾向を示したことやインフラ法案の上院通過が好感されたことでダウを中心に強含み、ダウ、S&P500は最高値を更新しました。

1Q決算で好調な業績が続きながらも、全体的には大きな動きは少なく横ばいで小幅な上昇に終始した印象でした。

 一方でナスダックは長期金利の上昇やヘルスケア株の下落が足を引っ張り伸び悩みました。

中国株式も先週に続いて持ち直し、それに伴って日経平均も若干上昇するも節目である28,000円の上値が重い展開でした。

主要企業の決算発表も終わり、次週も動きの少ない横ばいの動きを予想します。

 

 

〜中国のIT規制から考えるその狙い〜

さて、8月5日のWSJに考えさせられる記事がありました。

※中国が目指す経済、インターネットより製造業

https://jp.wsj.com/articles/china-wants-manufacturingnot-the-internetto-lead-the-economy-11628128657?mod=saved_content

 

要約するならば、中国当局はここ最の中国の成長を支えてきた大手IT企業よりも実体経済を支える製造業に重きを置く政策をとっている、ということです。

欧米的なサービスであるソーシャルメディア電子商取引などのテクノロジーは「あればうれしいもの」ですが、半導体、電EV用バッテリー、民間航空機、通信機器などの製造業のテクノロジーは「なくてはならないもの」であり優先順位が高いとしています。

従って中国は欧米の様に脱工業化には追随しないことを望んでいるとしています。

 

アントの上場延期から始まり、自国IT企業に対する締め付けを強める中国ですが、なぜ成長分野に足枷をはめる政策を取るのか私にはその本質的な狙いがよく見えていませんでした。

しかし、この記事を読んでその狙いが見えてきました。

 

記事中に書いてある内容も含めて、大手IT企業がこのまま拡大した場合に中国当局が阻害要因として考えていると推測するものは下記の通りです。

 

①膨大な人口に対する雇用を保てない可能性がある。

欧米がそうであったように、いずれ経済主体が製造業から知識型サービス業に移行すると、大量の労働力と資本を必要とする製造業が衰退し雇用の絶対数が減り、膨大な人口の雇用が保てない。

 

②知識型サービス業化によって経済格差が拡大する可能性がある。

欧米の様に知識型サービス業化が進み過ぎると、その効率の良さから富が一部の資産家に集中する一方、労働者は雇用の流出で仕事を失い経済格差が大きくなる。

 

③既存の国有企業による秩序を脅かす存在となり得る。
中国の経済主体はあくまでも国有企業であるが、大手IT企業の急激な資本やサービスの拡大により既存の国有企業による秩序に取って代わる危険性がある。特に国有企業の割合の高い金融分野でのアントやWechatペイのような企業の拡大は当局にとって脅威。

 

こう見てみると中国当局の大手IT企業への締め付け強化は「共産党指導体制を堅持する」という目的において非常に理にかなったことのように思えてきます。

欧米の知識型サービス業が突き進んだ結果の副産物として、米国では経済格差の拡大からのポピュリズムの台頭が激しさを増し、年初の国会議事堂襲撃に繋がりました。

恐らくこれが中国共産党指導部の頭に鮮明に残り、自らの統治を脅かす可能性のあるものとして強烈に認識されたのではないかと考えます。

所詮は欧米型ITサービスのコピーであった自国IT企業の成長が止まろうが取るに足らず、共産党政権の永続的な繁栄を担保するためには寧ろそれをここで停滞させた方が得策と考えたのではないかと思います。

 

民主主義国家から見た是非は別として、中国の政策は一見目を疑う内容のものがありますが、本質を突き詰めていくと非常にロジカルで戦略に基づいていると感じます。

これも一党独裁専制主義政権だからこそなせる業であり、ブレ幅の大きい民主主義国からすると非常に脅威だと感じます。

 

以上