投資家見習いのブログ

世界の地政学的リスクと経済指標を独自の数値で可視化し、マーケットを語ります。

【2023年1/2-1/6週の世界のリスクと経済指標】〜堅調な雇用統計から見える米国の構造的な変化〜

先週の評点:

 

リスク   -1点(29点):小幅悪化 (基準点30点) 

経済指標  +14点(110点):大幅良化 (基準点96点)

 

 

【リスク】

 先週のリスクはマイナス1ポイントの小幅悪化でした。

年始で大きなニュースが少なかったですが、フィリピンのマルコス大統領が訪中し、中国との南シナ海での領有権の問題について友好的な協議を通じて解決する共に、資源交渉を再開する考えが示されました。就任以来、中国から距離を置いていたマルコス大統領でしたが、ここに来て中国にも接近し、米中から実利を引き出すような方針に転換しています。台湾に近く、台湾有事で地理的に重要なフィリピンの動向が注目されます。

 

【経済指標】

 先週の経済指標はプラス14ポイントの大幅良化となりました。

ドイツ、ユーロ圏のCPIは2ヶ月連続で低下を示し、フランスCPIも前月ピークに鈍化を示し始めました。米国に遅れながらも、欧州でも利上げの効果が現れてきた様相です。

 

米国の雇用統計ではNFPが上振れ、失業率が下振れとなり雇用の底堅さが示された一方で、ISM景況指数では製造業、非製造業共に50を下回り、景気減速が顕著になっていることが示されました。

 

 

【先週のマーケットの振り返りと考察】

 先週の株価指数は欧州を中心に概ね堅調に推移しました。

欧州ではドイツ、フランス、ユーロ圏のCPIが低下したことに加え、ユーロ圏のPMIの改定値で落ち込みが底打ちした兆候を示したことでDAXが大幅反発しました。

米国株式は1/6の雇用統計でNFPや失業率が堅調な雇用状況を示した一方で、平均時給の伸びが鈍化したことでFRBのピボットが期待され反発しました。

 

〜堅調な雇用統計から見える米国の構造的な変化〜

 先週の雇用統計の結果は下記で説明できると思います。

①大手ハイテク企業で働く高収入なホワイトカラーの大量レイオフにより平均時給は低下。

②一方でブルーカラーの雇用需要が落ちないことからNFPや失業率は堅調さを維持。

 

今回の雇用統計で顕著になったのが、ブルーカラーの雇用需要の強さです。ISMが50を割る水準まで低下し、ホワイトカラーは大量失職しているにも関わらず、雇用が堅調さを示しているのは、労働者層の構造的な不足が影響していると考えます。

 

下記は米国人口の自然増減数の推移です。

 2007年の1,892千人増をピークに米国の人口増減数は急激に低下しています。つまり、米国も日本同様に人口の急減時期を迎えていることがわかります。加えて20年にコロナが流行してからは、死亡者数の増加により自然増減数は更に減少度合いを強め、わずか215千人の増加に留まっており、劇的に人口の伸びが鈍化しています。

 また米国はこれまで不足した労働力を移民でカバーしてきました。しかし、移民にとっての米国自体の魅力の衰退や、2017年からのトランプ政権の移民対策、またコロナによる制限により、移民が急激に減少しています。2016年時点では約100万人いた純移民が21年には25万人を下回り75%減となったと言われています。

従ってかつての様な潤沢な労働力は米国にはない、ということがわかります。

 

そんな状況の中、米中の経済安全保障の問題から、半導体などの先端分野を中心に中国から米国への生産回帰が行われています。またロシアのウクライナ侵攻により、米国製の高性能な軍備への世界的な需要も高まっています。

 

そもそも構造的に減少していた労働力に対して、急激な景気回復と政治的な影響による需要の高まりが重なり、労働力不足が恒常化していると考えられます。

そして現在の政治的な影響は長期化することが考えられ、また人口の伸びの鈍化により今後さらに労働力の減少傾向が強まることで状況は簡単には改善しないと思われます。

 

既にモノや住宅価格のインフレは明確な鈍化傾向を示していますが、雇用需要だけは未だ明確な鈍化を示していません。

現在のタカ派FRBの姿勢は、雇用の明確な鈍化を求めている様に感じられます。しかし現在の構造的な労働力不足を考慮した場合、今後も雇用の堅調さは粘着性を保ち、長期化する可能性があります。そう仮定すると、今年の後半にピボットするという市場の期待は楽観的過ぎで、12月FOMCで示された今年末のFF金利予想が5.125%というのも正当性が増してきます。

 

私は年末に株式60%、国債40%の強気としていたポートフォリオを株式20%:現金80%の弱気に変更しています。FRB、ECB、BOJと主要中央銀行が立て続けにピボットを否定しタカ派姿勢を表明したことで景気後退の可能性が増し、市場から資金が抜けることを警戒して変更しました。今回の雇用統計の結果を経ても、FRBの姿勢は変わらないと判断し引き続き弱気とします。

 

 一方でこの労働者需要の堅調さの背後に、米国のポピュリズムの変化も感じています。

かつてグローバリズムによって安い労働が海外へ流出したことで仕事を無くし、取り残された人々を中心にポピュリズムが躍進してきました。しかし、コロナ禍や香港、台湾を巡る中国の野心の表面化、ロシアのウクライナ侵攻などにより世界の分断が進み、生産が米国に回帰してきました。そして労働者層が職を得て所得が向上する一方、不景気により高所得者は職を失っています。それにより長年の問題であった格差は、わずかながら縮小傾向にあると思います。11月の中間選挙で躍進すると思われていたトランプ派が苦戦したのも、労働者層の状況改善によりポピュリズムへの支持が薄まった現れかとも考えられます。コロナ禍以降に加速したグローバリズムの分断が、米国内のポピュリズムの先鋭化を抑えることになってきているのではないかと思います。

 ただ、高インフレで生活は苦しくなり、かつ景気後退の足音が聞こえている中で、労働者層の満足がどこまで持続するかはわかりません。米国経済の行方と共に米国民主主義の方向性も注視していきたいと思います。

 

以上